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2 赤ちゃんが生まれたら殺されるようです2

 館が騒がしくなった。父が到着したようだ。

 しばらくしたら、メイドが呼びに来たので、おとなしくついていく。もちろん、卵をドレスの下に入れてね。

 部屋に入ると、父が驚いたような顔をして、私の腹部を見た。


「はぁ?! いや、いや、そんな。まさか?! し、しかし、いや、いや。……でも、早すぎじゃないか?」


「お父さんっ。愛するアリーと僕の愛の結晶が、もうすぐ生まれるのです! 辺境伯の跡継ぎです。お喜びください!」


 ガイウスが私の手を取って、満面の笑顔を父に向けた。


 はたき落としたい。


 そりゃあ、ガイウスは侯爵家の三男で、甘いマスクで、口がうまくて、脳筋の父は簡単に騙されたと思うよ。

 でもね、辺境イコール魔物退治ってことだよ。こんなへなへな軽薄男を婿にして、やっていけるの? 魔物の一匹も殺せないんじゃない?


「パパぁ。アリーねぇ。もうすぐ赤ちゃんうまれるの!」


 ぱっとガイウスの手を振り払って、父に抱き付く。


「アリー! あぶないよ」


 偽装妊娠がばれると焦ったガイウスが、引き戻そうとするけど、父から離されないように踏ん張る。そして、ドレスの下に入れた卵を、ぎゅっと父に押し付けた。ひびの入った卵は、やけどしそうなほど熱くなっている。


 あと少し。もうちょっとだけ魔力を加えると、生まれるはず。


 ピキッ、ピキピキ


 ほらね。

 私に不足していた炎の魔力を父から吸い取った卵は、孵化しようと割れ始めた。


「な、なんだ!?」


 顔色を変えた父と夫に、にっこり笑って、


「私、ママになるのね」


 ドレスの中から、割れた卵を取り出した。

 それは、頭からぴょんと飛び出し、大きな羽を広げて、私を見上げ、「ピー」と鳴いた。


 うわっ、生まれた瞬間から飛んでるよ。


 トカゲとコウモリを足したような、小さな赤いドラゴン。




 ※※※※※※


 結論から言うと、偽装妊娠で家を乗っ取ろうとしていた夫のことよりも、200年以上姿を見せていない伝説の生き物、ドラゴンの誕生に、屋敷中が大騒ぎになった。


 騒ぎに乗じて逃げ出そうとした、夫のガイウスと赤髪メイドのメリッサは、私が指示して別室に監禁。

 裁判を待つことになった。


「誤解だよ。愛しのアリー。ほら、僕たちの愛の力でドラゴンが生まれたじゃないか。これで僕たちは大金持ちに」


 などとほざいているガイウスの言葉は無視する。

 肩の上で、ドラゴンが怒ったように「ビッ」と鳴く。


 うん、夫の愛の力(魔力)は全く入ってません。

 白い結婚が認められたら、すぐに夫でもなくなるけど。


 まあ、傷物になっても辺境伯の跡取りで、魔力めっちゃあり、ドラゴンも付いてる私の前途は、きっと明るいはず。


 こんな男はさっさと追い出して、辺境に帰ろうっと。

 確か、小説に出てきた聖女の聖杯は、うちの領地の洞窟にあるんだっけ。ドラゴンがいるから入手は楽勝。

 あと、聖剣は、その近くの山頂だっけ。

 登山はめんどいなぁ。

 でも、場所が分かってるから、父に行ってもらえばいいか。ガイウスのことで貸しがあるし。


 それから、それからっ。

 初恋のリハルト様にも会わなきゃ。


「うふふふふ」


 思わず一人で笑ってしまった。控えていたメイドがおびえている。


「ねえ、手紙を書くから、ペンとレターセットを持ってきて」


「はっ、はい」


 ぴゅーっと出ていく新しく雇ったメイドの背中を見ながら、思い出す。


 幼いころ、辺境に療養に来ていたリハルト第一王子。

 身分の低い母親から生まれたせいで、王妃から命を狙われていた。

 人間不信に陥っていたところ、アリシアに出会い、その純粋さに癒される。

 とまあ、ありがちな設定の不遇の王子。


 でも、いい人なんだよなぁ。文武両道でかっこいいし。

 みんながアリシアを子ども扱いする中、レディとして扱ってくれたし。


 すごく好き。


 大好き。


 冬になるたび、辺境領へ遊びに来てくれてたけど、私の結婚を機に、臣籍降下して辺鄙な田舎に引っ込んでしまった。


 原作では、冒険者として活躍しているリハルト様と、主人公たちが出会って、一緒にパーティを組むんだっけ。


 いやいや、主人公たちには渡さないよ。私とパーティを組んでよ。


 そうだ、そうしよう。

 待っててね。リハルト様。


 え、原作小説?

 いや、赤髪メイドのお腹にいるディートは、辺境伯の跡継ぎじゃないから、ヒーローの王子のライバルにはなれないよね。

 ライバルのいない恋愛小説は、盛り上がりにかけるし。


 ヒーローとヒロインは、勝手にハッピーエンドでしょう?


 冒険パートは、私とリハルト様でやっときまーす。


 ここからは、私とリハルト様の恋愛小説だね。

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