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19 証人尋問4

「原告弁護人、次の証人を呼んでください」


「あ、は、はい!」


 呆然としていたベンジャミンさんは、元メイドのミアの名を告げる。

 係員がドアを開けると、赤いワンピースを着た女が入って来た。


「! だめだ。彼女に証言させるな」


 一目見て、ルカが低い声でつぶやいた。


「え? 何?」


 聞き返そうとしたけれど、すでに、ベンジャミンさんが、ハンカチを額に押しあてながら、質問を開始していた。


「ミアさん、アリシア様との関係を教えてください」


「私は、最近まで、アリシア様の専属メイドだったんです」


 ミアは、ふふっと笑って、流し目を送った。

 ……被告人席に。


 ! ガイウス!


 彼は、投げキスを送る。ミアは、それを両手で受け取るような動作をしてから、証言した。


「わたし、アリシア様が、メリッサに代理母を頼んでいるところを見ました」


 このっ……! 裏切ったわね!


「メリッサは、初めは断ってたけど、アリシア様が厳しく命令したから、仕方なく承諾したの。それから、アリシア様に、卵をドレスの下に入れるから、手伝えって言われたわ。妊娠したふりをするんだって。あ、アリシア様は、バカじゃないわよ。だって、こんなことを計画できるんだもの。そうでしょう? 代理母に子供を生ませて、取り上げて、自分が生んだことにするんだって。頭いいわね。えーと、あとは、そうそう、白い結婚だなんて、嘘です。ガイウス様とアリシア様は、毎晩やってました」


 ミアは、あらかじめ決まったセリフを読むように、早口で証言した。


「い、異議あり! 証人は、買収されています!」


 ベンジャミンさんが、ハンカチを握った手をふり挙げて、異議を唱える。


「弁護人。その証人は、あなたが呼んだのでしょう? 自分の証人に、異議は出せませんよ」


 裁判長は、あきれたように首を振る。


「どうします? 質問を終わらせますか?」


「い、いいえ。続けます。ミアさん、あなたは寝返る見返りに、何をもらったんですか?」


「え? なんのこと? あ、そういえば、裁判長。わたし、嘘の証言をしたら、お金をもらえるって言われました。あの人に」


 ミアは、私の隣のルカをまっすぐ指さした。

 ルカは青い目を冷たく光らせて、彼女をにらみつける。


「弁護人……。どうやら、証人の買収があったようですね。原告側の証人尋問は、以上で終わりとします」


「そんなっ、裁判長!」


「不正は許されません。それでは次、チチナ弁護士、被告側の証人を呼んでください」


 ベンジャミンさんは裁判長に訴えたけれど、彼は首を振って、ミアを退席させた。そして、チチナが、被告側の証人の名を呼ぶ。


「私の方からは、メリッサさんに証言してもらいます」


 メリッサは、ガイウスの助けを借りて立ち上がり、ゆっくりと証人席に歩いてくる。大きなお腹を誇らしげになでながら。


「証人は、被告人との関係を教えてください」


「はい。私、メリッサは、アリシア様のメイドとして雇われていました」


 メリッサは、赤いおくれ毛を指に巻き付けながら答える。そして、勝ち誇ったような視線を私に送ってくる。

 ああ、もう。腹が立つ。

 私は、思いっきり彼女をにらみつけた。


「アリシア様、さっきは失態でしたが、次は成功させますよ。何しろ、チチナ弁護士は、大きな矛盾を抱えてますからね」


 隣に戻って来て座ったベンジャミンさんが、小声でささやく。


「しかし、大きな腹だな。もう生まれるんじゃないかね?」


 彼女のお腹の中にいるのは、ディートだ。小説では、わりと好きなキャラクターだったけど、ガイウスとメリッサの子供だって思うと、全く好きになれそうにない。子供には、罪はないのだけど。


「それで、アリシア様に、代理母になれと命令されたと?」


「はい。わたし、最初は断ったんです。ガイウス様は素敵な方ですけどぉ、やっぱり奥さんがいる方ですしー」


 メリッサは、わざと舌っ足らずな甘えた声で話す。

 気持ち悪い!


「ですが、なぜ、あなただったんでしょう?」


 チチナは、人差し指を立てて、空中に大きなハテナマークを描くように動かした。


「メイドは他にもいましたよね。どうして、あなたが選ばれたのでしょうか?」


「うふ。それはね、私が、特別だからでーす」


 メリッサは、手を後ろにまわして、髪を一つに束ねていたリボンをほどいた。赤い巻き毛が、くるくると背中に落ちる。


「特別とは? その赤毛のことですか?」


「そうなのぉ。私の赤い髪。南の辺境伯の家系に多い赤!」


 うちの家系は父をはじめ、亡くなった祖父も、その親類も赤い髪が多いそうだ。私は、母にそっくりで、金髪に紫の目だけど、父は赤い髪に赤い瞳だ。でも、赤毛は辺境伯だけの特徴じゃない。平民にも、いっぱいいる。


「髪が赤いから代理母に選ばれたと? ですが、あなたは、辺境伯家とは何の関係もない平民でしょう? ガイウス様との間に子どもを作ったとしても、彼はロンダリング家の者ですから、辺境伯家と血のつながりはない。血がつながらないのに、跡継ぎを生むとは矛盾していませんか?」


 あっ、どうして?

 ベンジャミンさんが指摘していたチチナ弁護士の矛盾点。どうして自分で言うの?


 南の辺境は私の父の領地。血のつながりのないガイウスと愛人の子供が、跡継ぎになれるわけがない。それを指摘しようとしていたのに……。


 そのチチナの質問にメリッサが答えた後、会場中が大騒ぎになる。


「問題ないわ。だって私、辺境伯の娘だもの」

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