18 証人尋問3
チチナ弁護士は、キャンベル婦人に人差し指をつきつける。
「アリシア様に、離婚裁判をするよう提案したのは、あなたかと聞いているんです」
そんなこと……あるわけないじゃない!
「そんなことしておりません!」
私の思っていることを、婦人が叫んだ。
「では、この証言をして、あなたはいくらお金をもらったんです? 聖女教会に寄付をするためなんでしょう? 白い結婚なんて嘘のアイデアを教えたのは。代理母をなかったことにして、ガイウス様から慰謝料をふんだくろうと企んでるんでしょう? あなたの発案ですか?」
「違うわよ!」「違います!」
私と婦人の声が重なった。
「あら、だって。あなたの証言は矛盾だらけじゃない。アリシア様が知能欠陥者? ドラゴンが治した? あはっ。そんなことあるわけないじゃないですか。ドラゴンの癒しの光は、病気や怪我を治すんですよ。不治の病とか、処女膜とか不妊とか、そういうのをね。でもね、欠陥は治せません。だって、それは生まれつきで、病気じゃないんですもの! 生まれ持った個性は、ドラゴンにも治すことはできないんです!」
「それは、聖女様の奇跡の力によるものです!」
「またまた。はぁ。これだから聖女教信者は……。そうやって、なんでもかんでも、聖女のせいにされてもねぇ。実際、聖女は、卵から生まれてなんかないし。聖女は平民で、婚外子だったなんてこと、ここにいるみんなが知っていることでしょう? ねえ、裁判員の皆さん」
チチナは胸をぶるんと揺らしながら、観客席を振り返った。
「被告弁護人、裁判員に話しかけないでください」
裁判長の注意に、チチナはぺろりと赤い舌を出した。
「キャンベル婦人、あなたがこんな茶番の証言をしたのは、お金の為でしょう? アリシア様は不妊で悩み、メイドに代理母を頼んだ。でも、奇跡のドラゴンがそれを癒してくれた。自分で子供を生めるようになったんだから、代理母は不要。だから、浮気をでっちあげて、代理母をなかったことにして、慰謝料を請求した。つまり、そう言うことでしょう?」
「違います! アリシア様は本当に、聖女様の奇跡が起きて」
「質問は、これで終わります」
婦人の言葉をさえぎって、チチナは観客席にお辞儀をした。
ざわめきが広がる。
「どういうこと?」
「全部、妻の嘘なのか?」
「確かに、ドラゴンが治せるのは、病と怪我だけだって。生まれ持ったものは治しようがないから……」
「しかし、それはただの伝説だろう?」
「どっちの言うことが正しいの?」
チチナに言い負かされて、婦人は顔を真っ赤にして叫び出した。
「違うのよ! アリシア様は本当に特別なの! お嬢様は、聖女の母になる方なの! 神様のお告げがあったんだから! 汚らわしい男なんて、この世の中に必要ないの。男なんて、全員滅びればいいんだわ! お嬢様は、卵を生むの! これは女性全員の希望なの!」
「静粛に! 証人は退席してください。警備員、彼女を外に出しなさい」
警備人に引きずられるように、キャンベル婦人は部屋から追い出される。
「アリシア様! 私のかわいいお嬢様! 男なんかに心を許してはいけません! あなたは奇跡なのです! ドラゴンがその証拠! お嬢様が聖女様を生むことは、決定事項です! この国の救世主になるのです! 男なんかに穢されないで!」
引きずられながらも、婦人は大声で叫ぶ。
「狂ってる……」
「正気じゃない」
観客たちがつぶやく。
チチナは、私の証人の信頼性を完全につぶしてくれた。
ひどい……。
「お嬢様……」
ルカが青い瞳を曇らせる。
お願い、大丈夫って言って。いつものように私を安心させて。
同じように夫に裏切られた妻の短編「やり直しはあなたのために〜裏切られた妻は復讐する〜」を投稿しました。こちらは、シリアスでダークです。