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16.絵面良すぎる二人の関係

 「うえっ?」

 「フェリシラさまも?」

 「護衛対象になるんですかっ?」


 私の部下、アインツ、エルンゼ、シュトライヒ、それぞれの反応。一様に「うげっ!」って苦虫を潰したような顔をしている。

 正直、面倒くさい。忙しくなる。大変。厄介。

 そういった感情がモロダシの顔。


 「殿下の危機を知り、フェリシラさまも殿下をお守りしたい。そう申し出られたのだ」


 「ええ~っ。そんなの、遠くから見守ってる視線を送るだけで充分じゃないですか。それをわざわざ近づいてくるだなんて」


 アインツの言葉に、エルンゼとシュトライヒがそろってウンウンと頷く。コイツらに「ロマンス」なんてものは通じない。ロマンス? ナニソレ、新しい飯か? 状態。


 「これは殿下自ら下された決定だ。異論は認めん」


 うげえ。

 三人の表情が雄弁に語る。


 アンタたちも、あの場面に直面したら、殿下と同じ判断を下すわよ。

 深窓の姫君が、一命を賭してお守りしたいって願い出てるのよ? あんなに目を潤ませて、真剣に。

 無下にできるわけないじゃないの。


 「警備の大変さを嘆くなら、刺客の捕縛を急げ。刺客さえいなくなって安全が確保されれば、そこまで大変じゃなくなるぞ」


 「鬼だ」

 「悪魔だ」

 「リーゼファさまだ」


 「ムダ口叩くヒマがあったら、とっとと任務につけ」


 悪かったわね、鬼や悪魔と同列の「リーゼファさま」で。

 アンタたちの任務、もっと増やしてあげてもいいんだからね?


*     *     *     *


 って。

 部下たちをイジメるような発言を(心の内で)したけど。


 (実際、大変なのよね。護衛対象が増えると)


 当然だけど、フェリシラさまはずっと殿下の居室にいらっしゃるわけじゃない。

 折をみて、殿下の部屋を訪れる。

 訪問時間は当然バラバラ、不定期。訪れるまでの行動も様々。

 じゃあ、殿下のもとを訪れるまで放置しておいていいのかっていうと、それも違う。


 ――フェリシラさまが、殿下と懇意になさっておられる。

 ――自らの命の危険も顧みず、殿下をお守りしたいと願われたそうだぞ。

 ――なんとお優しいのだ、フェリシラさまは。

 

 って噂が流れてる。


 ――なんでも、王太后さまは、ナディアード殿下のお相手にフェリシラさまを推挙されておられるとか。

 ――美男美女のカップルか。フェリシラさまなら、亡き先王陛下の弟君の孫にあたられる。国王陛下のお従兄弟君、デューリハルゼン公爵を父に持つご令嬢だしな。身分的にも問題ないだろう。

 ――殿下も、フェリシラさまの健気な御心に胸打たれたらしい。いつもそばにいて欲しいと、申されたそうだ。

 ――相思相愛か。めでたいことだな。

 ――ノーザンウォルドが入る余地などなかったわけだ。


 なんて囁かれてたら、「ゲヒヒ。コイツを人質にして殿下の命を奪ってやるゲヒ」なんてことを刺客が考えないとも限らない。それか、「愛する姫を殺してダメージを与えてやるゲヒ☆」ってこともありえるゲヒ。

 よって、自動的にフェリシラさまの日常身辺警護も任務に加算される。


 「こちらは任せておけ。お前たちは殿下の警護に集中しろ」


 騎士団長のありがたいお言葉をいただいたので(部下、感涙)、日常業務が超激務に変化した……ことはないんだけど。


 「ただ、フェリシラさまがそちらを訪れてるときは、殿下とまとめて警護を頼む」

 

 ってことにされちゃった。

 まあ、あっちは刺客捕縛とか、国王陛下、王太后さまの警護にも人員を裂かなくっちゃいけないんだから、あまり無理は言えないんだけど。

 殿下とフェリシラさまがご一緒されてる時だけ、お二人を守らなきゃいけない程度の激務にはなった。(部下、不満)


 で、そのフェリシラさま。


 「殿下。政務でお疲れでしょう? わたくし、お菓子を焼いてきましたの。お口に合うとよろしいのですが」


 なーんておっしゃって、毎日のように何かしらのお菓子(とお茶)を持参して、殿下のもとを訪れている。


 「今日は、アップルパイですわ。殿下はリンゴがお好きとうかがいましたから」


 そうなんだ。殿下、リンゴがお好きなんだ。初情報だわ。

 フェリシラさまの訪れとともに、殿下の居室に甘~い匂いが充満していく。

 

 ああ、きっと美味しいんだろうな。ここまで最高にいい匂いをしてるんだから。味だけ大ハズレなんてことはないんだろう。きっと。

 サクッとした表面。幾層にも重なったパイ生地。一口齧れば、フワッと喉の奥に突き抜けてくリンゴの甘さ。隠し味的に使われたシナモンがリンゴの風味を引き立てて……。


 なんて妄想をしてると、いつものようにライナルが一歩前に出た。

 あ、いいな。お毒味だ。

 美味しいに違いない焼きたてアップルパイを、仕事とはいえ食べられるの、うらやまし――。


 「ライナル」


 殿下がその動きを制した。

 そして、そのまま卓の上に置かれたパイに手を伸ばし、そのままパクリ!


 「……うん。やはりフェリシラ殿手作りのパイは絶品だね。誰にも渡したくない美味しさだよ」


 え? 毒味を拒否するぐらい美味しいの?

 う~~。それは一度食べてみたい。


 「おほめに与かり、光栄ですわ」


 フェリシラさまもうれしそう。

 ライナルは、残念そう……なのかな? 軽く嘆息しただけで、表情はあまり変化してなかった。もしかすると、「ズ~ル~イ~」とか「俺も食べたかった~」とかなんとか、内心地団駄踏んでるかもしれないけど。


 「お茶は僕が淹れるよ。キミと楽しむために、僕も練習したんだ」


 「まあ……。殿下が手ずからお茶を?」


 「いつも美味しいお菓子を用意してくれるからね。そのお礼だよ」


 アップルパイの甘い匂いに、紅茶の香りが溶け合っていく。

 優雅な手つきでお茶を淹れられる殿下。それを受け取るフェリシラさまもまた典雅。


 「美味しゅうございますわ。このように美味しいお茶をいただけるなんて。幸せですわ」


 「それはよかった。練習したかいがあるというものです」


 向かいあったソファに腰かけられたお二人。お茶を手に、パイを召し上がっては、時折ほほ笑み合う。

 高い天井近くまである窓から、午後の柔らかな日差しがさし込み、そんな二人の空間を照らす。

 今日のフェリシラさまのドレスは薄桃色。普段着……なのか、舞踏会の時とは違って、装飾は控え目。でも、フワッとソファに広がるスカートとか、同じ色のリボンでゆるくまとめられた髪とか。 

 まるで妖精。まるで天使。

 少しはにかんだような笑顔。鈴を転がしたようなお声。殿下と視線を交わしては、ポッと頬を染められる。

 庭園に出られないことを淋しく思われてる殿下のために、庭のバラがフェリシラさまとなって慰めに訪れてるかのよう。フェリシラさまがほほ笑まれるたび、庭ではなくこの居室に花が咲き乱れる……ような錯覚におちいる。

 

 (そういや、ノーザンウォルドの大使がフェリシラさまを花にたとえてたけど。あれ、間違ってなかったんだなあ)


 可憐なバラと清楚な百合。

 今日のフェリシラさまは、可憐なバラバージョン。

 そして、そのフェリシラさまに相対する殿下もまたステキ。

 フェリシラさまが花の妖精姫なら、殿下は姫に恋する春の青空。

 暖かな日差しのように、咲き誇る姫を見つめる眼差し。時折いたずらっぽく花を揺らす春の風。


 ――ああ、フェリシラ。キミの少し困った顔が見たくて、風を起こしてしまったよ。

 ――まあ、殿下。

 ――キミの柔らかな花弁に触れていいのは僕だけだ。僕はキミを見つめ彩る春の空でありたいと思う。

 ――ええ。わたくしも空を、殿下をお慕いしておりますわ。花は、暖かな日差しと風がなければ、咲くこともかないませんもの。どうか、殿下のおそばで、咲き誇ることをお許しくださいませ。

 ――ああ、花のようなキミを手折って、この胸に挿しておきたいぐらいだ。キミは永遠に僕のもの。僕はずっとキミと共にありたい。

 ――わたくしも、……ですわ。

 (恥じらうフェリシラさま。そのうつむいた顎をツイッと持ち上げる殿下。見つめ合う二人。そして、そして、そして……)


 キャ――――――ッ!

 

 ダメだ。これ以上妄想を暴走させると、脳内が爆発する。顔の表面にも影響がでるぐらい大爆発する。

 今の私はライナルと並んで、ただの家具、その一、その二。もしくは、庭の四阿の柱。それがダメなら、その辺の木、一、二。

 その程度の存在でなきゃいけない。針葉樹がザワザワと音を立てて、この甘い空間を壊してはいけないのだ。

 ということで、深呼吸。深呼吸。落ち着け、自分。

 私はモブ。私は風景。

 気配を消すのは、騎士として、いつもの十八番(オハコ)

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