おもい、おもわれ
幸せとは、突然崩れるものだ。
常に不幸との隣り合わせなのだ俺は思う。
今、目の前にいる女性も幸せだった日々から急に地獄に叩き落とすようなものだ。
そう、ご遺体安置室の空間内で、ベッドの上に冷たくなった一人の男性が横たわっているのを見て、絶望しきった表情で泣き崩れている一人の女性。
その様子を見て、グッと唇を噛み締め、拳を作って悔しさを必死に押し殺す。
もっと早く見つけてあげてれば……と、その後悔で頭が一杯になる。
泣き崩れてる女性とは、依頼人と請負人の関係である。
俺の勤め先ーー五十嵐探偵事務所での初めての依頼人。
ーーそれは二ヶ月前に遡る。
暇だなと思いながら珈琲を片手に本を読んでいたら、顔面蒼白な三十代後半の女性が事務所に尋ねてきた。
栄養が偏ってるのか肌が荒れているのを必死に厚化粧して誤魔化してるようにも見え、更にはやつれてるようにも感じてしまいすぐに『何かがある』と感じてしまった。
そんな彼女の依頼は半年前から行方不明になった旦那を探してほしいとの事。
SNSの彼女の日記に旦那から『さようなら。俺の分まで幸せに』というメッセージが送られてきていた。
行方をくらました日が、彼女の父親が亡くなり、お葬式の日なのだそうだ。
五十嵐探偵事務所に依頼する前は警察に相談していたそうなのだが、なかなか進展は無く、痺れを切らした彼女ーー中川瑛子さんは、五十嵐探偵事務所に依頼しに来たという訳だ。
俺は、五十嵐探偵事務所に入社してから一年半になる。もうそろそろ一人立ちしてもいい頃合いだと思った五十嵐さんが俺を指名した。
先輩達に学んだ事を実行してたら、ある疑問が浮かんだ。
旦那さんの中川智也さんと中川瑛子さんの父親、佐藤栄次郎さんが揉めていたという。
それも佐藤栄次郎さんが亡くなる前日の夜だったそうだ。
それならば、中川瑛子さんの父親絡みで何かあるんじゃないのか? と。
なので佐藤栄次郎さんのことを調べている最中に中川智也さんが見つかったと報告があがった。
だがしかしーー……。
その時にはもう既に亡くなっていた。
そうして、今に至るという訳なのだが……。
ずっと、泣き崩れている中川瑛子さんの背中を見守っているとポンっと後ろから肩を叩かれた。
「気にするな。お前はよくやったさ」
やるせない気持ちなのが伝わってるのか、五十嵐さんが諭してきた。
本当にそうなのだろうか……?
俺は良くやったのだろうか……?
そんな訳ないだろ!! 例え新人でも依頼を任せられたんだ。……俺がもっと早く、見つけられていたら死なずに済んだかもしれない。
泣き崩れている中川瑛子さんの姿を見なずに済んだかもしれない。
ーーなんで、俺は無力なんだ。何のために探偵事務所に勤めているんだ。恥を知れ!!
自分を罵っても、現実は変わらない。だから余計に悔しい。
五十嵐さんは何故俺にこの依頼を任せたんだ? 依頼を受けたのが五十嵐さんなら。
いや、違うな。責任を五十嵐さんに押し付けても何も始まらない。五十嵐さんなりに何かを思ったから俺に任せたんだ。
「あの」
いつの間にか、泣き崩れている中川瑛子さんが俺の前に来ていた。まだ泣き足りないのか手にはハンカチを持って、涙を必死に堪えているが、涙声になっている。
俺は平手打ちされる覚悟でグッと目を瞑る。だってそうだろう。俺が死なせたようなもんだ。
ましてや亡くなった人物は、生涯を誓い合った人であり最愛な人なのだから。気持ちをぶつける相手がいないのなら、俺を真っ先に罵るはずだ。
それは勝手な偏見になるのだが……この状況で気持ちを抑えるのはよっぽどの忍耐力が強い人しかいないだろう。
俺が中川瑛子さんの立場なら迷わずに罵倒して、暴力もふるっているだろう。
文句は言える立場じゃないし、受け入れよう。そう覚悟していたのだが、いくら待っても痛みが来ないと思った俺は恐る恐る目を開ける。
俺の予想とは違って、中川瑛子さんは深々と頭を下げていた。
「ありがとうございます。……見つけてくださって」
「え、いや。でも」
思いがけない感謝の言葉に口篭ると中川瑛子さんは頭を上げ、更に言葉を紡ぐ。
「遺体でしたが、ちゃんと見つけてくださった。私はそれだけで十分です。ありがとうございます」
「死んだ原因もわかってませんが」
「原因もなにも……自殺、ですよね?」
旦那さんの中川智也さんは、海で溺れて亡くなった。メッセージでも『さようなら。俺の分まで幸せに』と送られている。
遺書を残して自殺したようにも見えるが……どうしてか、俺にはそうは思えなかった。
俺は中川瑛子さんに何も言えずに黙っていると、中川瑛子さんはぺこりと一礼してその場から離れてしまった。
「さて、これで依頼は終了だな。初めてにしては上出来……」
「待ってください。まだ依頼は終わってません」
五十嵐さんは早く帰るぞと言わんばかりに促すが、俺は拒否した。
「ああ!? 依頼は終わったんだ。依頼人も満足してただろ」
「どこがですか!!? 本人が満足したと言ったんですか? 俺はそうは思わない……ましてや、納得してないように見えますよ」
俺は引き下がることは出来ない。理由は単純で、中川瑛子さんがそれで納得してるとは思えなかったからだ。
自殺なのかも違和感がある。
「深入りすんな。いつか足元すくわれるぞ」
「足元すくわれる? 構いませんよ。目の前の問題が解決してないのに、中途半端な終わりは嫌気が差します。俺、中川瑛子さんを追いかけますので、失礼します」
「あっ!! おい!!??」
背後で五十嵐さんの怒鳴り声が聞こえるが、俺は無視して中川瑛子さんを追いかける。
後で始末書書かされるのかなとか思ったが、今はそれどころではない。
「待ってください!!!」
「日野さん? どうしました?」
良かった。まだ近くに居て。
「あの、まだ依頼は終わってません。少し気になることがあるんです」
「でも、見つけてほしいのが私の依頼でしたので」
「……一先ず場所を移しませんか? ゆっくり話したいので」
中川瑛子さんは混乱しながらもゆっくりと頷いた。
ーーーーーーーー
近場のカフェ。といっても、中川瑛子さんの行きつけの隠れ家のカフェに来た。
外装は普通の一軒家。どこにでもありそうな一般的な家なのだが、玄関前には本日のオススメメニューが書いてある木目調のスタンドボードが置かれていた。
中に入ると、店員が出迎えてくれていて、案内された場所に座る。
リビングをカフェっぽくしたのだろう。これが隠れ家という奴か。と、少し勉強になった。
隠れ家なんて初めて来たものだから、内心ドキドキだったことは黙っておこう。
お冷とおしぼりを持ってきた店員に、俺は珈琲。中川瑛子さんは紅茶を注文した。
店員は一礼してからその場を離れた。
「それでお話、というのは?」
店員が持ってきてくれたお冷を一口飲んだ中川瑛子さんは息を吐いて、聞いてきた。
「再確認しようと思いまして。お辛いでしょうが、中川智也さんが居なくなった経緯を話してくれませんか?」
「そのことですか。もう過ぎたことでしょう。そんな話なら私はもう帰ります」
「知りたくありませんか? 何故死んだのか。俺は……中川智也さんの死の真相を知りたい。最愛な人を失うと、はいそうですかって簡単に割り切れるものじゃない。俺の杞憂なら良いんですが、中川智也さんの後を追う気じゃないですよね?」
「……っ」
当たりか。だから、俺に当たらなかったのか。
すぐに中川智也さんの後を追うから。当たる暇があるなら、死を選ぶ……か。
中川瑛子さんが知り合いの医者に薬品を貰っていたという情報が入っている。
中川瑛子さんは健康的で薬は必要ない。両親は他界している(母親は中川瑛子さんが高校三年生の時に亡くなっている)し、兄弟もいない。友人も疎遠になっているらしい。
なら、その薬品は何のために?
わざわざ知り合いの医者に貰うくらいなんだ。何かやましいことでもあるんじゃないか、と。
考えれば死が浮かんだのだ。それは憶測に過ぎない。
だから、確かめて見ることにしたんだ。
まさか、それが的中するなんて思わなかったけど。
「じゃあ、どうすれば良かったんですか!!? あの人はもう居ないんです。……生き返ることなんて出来ないでしょう。時間を巻き戻すことも出来ない。私には、未来なんてないんです! 居なくなってからの半年間だって、生きてる心地はしなかった。でも、あの人が生きてるかもしれない。居なくなったのには理由がある筈だと僅かな希望を持って生活してました。でも……もう、私には生きる意味がわからないんです」
ボロボロと泣き出す中川瑛子さん。
生きる希望を失った、か。生きるってなんなんだろうって考える時がある。
生きてても辛いことしかない。楽しかった記憶なんて、辛い記憶の方が勝って薄れていく。
生きることは辛いことだ。幸せなんてほんの一瞬だし、不幸の方が多い。
ーーなんて、それは俺の感情論なのだが。
「だったら、もう少しだけ頑張ってみませんか? 必ず死の真相を突き止めますので、死ぬのはその後でも良いでしょう」
命を軽はずみに見ている訳では無いが、中川瑛子さんの言ってることは否定出来ない。
いや、否定したくないんだ。
中川瑛子さんの気持ちがわかるから。
ーー俺もそうだったように。
中川瑛子さんを安心させるように微笑むと、目を見開いて口を開いた。
「日野さんって、変な人だって言われませんか?」
「何故か良く言われます」
正直、死んでほしくはない。けど、生きるか死ぬのかは本人の自由だ。中川瑛子さんのことを良く知らない俺が止めても、揉めるだけで終わるだろう。
きっと心に響かないし、俺の言葉は届かない。
店員が注文した珈琲と紅茶をトレイに載せて持ってきた。
置くと、一礼して離れていく。
俺はミルクや砂糖は入れずに、ブラックのまま飲む。
甘いのは苦手だ。ブラックの方が美味しい。
中川瑛子さんはミルクと砂糖二杯分入れていた。……甘党なんだなとじっと見ていると、目が合った。
ふぅっと息をつくと、話し出した。
「私の父の葬式の前の日に誰かと電話していたんです。謝罪していたのできっと仕事関係なのかと思っていました。だから、何の疑問も無かったのですが、次の日の葬式の早朝には旦那の姿がありませんでした。その代わりにSNSで私宛にメッセージが」
「何故、メッセージで送る必要があったんでしょうか? 手紙でもメモでも良かったのでは……」
「私と旦那は手紙よりもSNSを良く活用してまして。直接書くよりもSNSのメッセージ機能を使った方が簡単だし、楽なんです」
……なるほど。今どきだ。
その時、俺のスマートフォンにメールが届いた。
仕事の内容かもしれないが、今は中川瑛子さんと話に集中しなければと思っていたのだが、中川瑛子さんは「見て良いですよ」と言うので、お言葉に甘えることにした。
そのメールの内容を見て、俺は中川瑛子さんに聞いてみた。
「失礼ながら、父親に借金とかは?」
「聞いた事がありません。借金取りも家に押しかけたことは一度もありませんし」
「そうですか。あっ、ここの珈琲、美味しいですね。ハマりそうです」
「分かりますか!!? 美味しいですよね!」
中川瑛子さんは嬉しそうに笑う。ーーやっと笑ってくれた。
俺はホッと胸を撫で下ろす。ずっと辛そうな顔だったので笑ってくれたことに少しだけ安心した。
さっき届いたメールの差出人は林原さん。探偵事務所の先輩の一人だ。時間が空いてると、調べてくれて情報を提供してくれる。頼れる先輩だ。
俺は仕事の仲間達に恵まれてるらしい。『一人立ち』させるんじゃなかったのか? なんて、皮肉を言いそうになるが。
深いため息をした俺は、困ったように笑うと他愛ない話をした。
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時刻は二十二時に差し掛かる。
五十嵐探偵事務所内では、一人だけ残業していた。ずっとPCを見ていた為、目が疲れたらしく、丸眼鏡を外し、目薬をさした。
大きく背伸びをしてひとつに結んであった髪を解く。
「あら。日野ちゃんじゃない。どうしたの? 依頼は終わったって五十嵐ちゃんから聞いたわよぉ」
再び丸眼鏡をつけると俺の存在に気付いた林原さんはクスッと笑った。
この笑みは、事情を知っているらしい。知っていてワザと聞いてきているんだろう。
全く、食えない人だ。
「虐めないでくださいよ。俺だって必死なんですから」
「ふふっ。ごめんなさいね。日野ちゃんは真面目よね。見つかったのに、依頼を続行しちゃうんですもの。驚いたわ」
「見つかった……って、遺体は見つかりました。けど、旦那さんの想いは見つかっていません。林原さんだってそれを分かってて、調べてくれたんでしょ?」
「なんだ。バレてたか。それね、五十嵐ちゃんの頼みでもあるのよ」
俺は、林原さんの隣の椅子に腰掛けた。林原さんはPCの横に置いてあった珈琲を飲んで一息つくと話を続ける。
「日野ちゃんの力になってほしいって。まだまだ未熟だけど、それは経験が少ないから。日野ちゃんは良い探偵になるだろうって、そう言っているの」
「五十嵐さんが? 俺、五十嵐さんにかなり失礼な態度を」
「それも聞いた。申し訳ないと思うなら、今の仕事を精一杯やらないとね」
微笑む林原さんは珈琲をPCの横に置き、髪をひとつに結んだ。
再びPCに集中して、画面を見ながらキーボードを打ち始める。
その様子を見ながら、俺は改めて仕事仲間に恵まれているのだと実感する。
「それで、日野ちゃんは何か気になることがあるから事務所に来たんでしょ? もう少しで仕事が片付くから、それからなら私が一緒に見てあげるけど」
「いえ。自分で……やってみます。頼りっぱなしなのは、いけませんから」
俺は、調べたデータを見直し始める。林原さんは「そっか」と何やら嬉しそうにしていたが気にしないフリをした。
ーーそして、見直すこと三時間。一つ一つ念入りに見たり、読んでいたのでかなり時間がかかってしまった。
でも何故死んだのかが分かった。
分かったけど、俺は探偵だ。警察じゃない。
そこが歯痒いところだな。
その事実を中川瑛子さんに話そうか迷っているのだが、真相を知りたがってるだろうな……と、考えているが……。
多分、中川瑛子さんは精神的に参ってる時だ。そんな時にこんな真相を聞かされればどう思うだろう。
言うが言わないが、そのうちわかることなんだよなぁ。
俺は意を決して中川瑛子さんに連絡した。
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隠れ家の喫茶店。
「すみません。お待たせしました」
俺は待ち合わせ時間よりも十分早めについて待っていると、時間丁度に中川瑛子さんが慌てて来た。
多分、俺の姿が見えて急いたんだろう。申し訳無いことをしてしまった。
「いや、大丈夫ですよ。全然待ってませんから」
俺は中川瑛子さんを安心させるように微笑むと、ほっとしたように胸を撫で下ろしていた。
中川瑛子さんはテーブルを挟んだ向かい側に座る。
「あの、わかったって」
「はい。ですが……、気を引き締めて聞いてください。俺、オブラートに包むの苦手なので単刀直入に話します。中川智也さんは佐藤栄次郎さんの借金の保証人になっていました。そして、栄次郎さんが亡くなったので必然的にその借金は智也さんが背負うことに」
「待ってください。私の父がなんで借金を」
中川瑛子さんは食い気味に聞いてきた。
「……理由は、詐欺にあったようです。中川瑛子さんの母親は病死ですよね。入院代が高額でお金に困っていた。そんな時に支援してくれる人に出会った。その人にお金を騙し取られた」
「確かにお金は無かったけど、でも借金なんて……それにそれだと具体的な詐欺内容が分かりません」
「この手の詐欺は、お金を一時期貸してほしいなど、言葉巧みに言いくるめ、最もらしい理由を作ってあたかも本当のことのように話す手口です。また、中川瑛子さんの親はどちらも親戚と両親とは絶縁してるみたいなので頼れなかった。窮地に追い詰められた人間は判断力が鈍りますから、詐欺師にとっては……いえ、失礼しました」
最後まで言いかけて、思い止まる。これ以上言ってはいけないのだと、そう思った。
中川瑛子さんは首を左右に振った。
「構いませんよ。借金をした理由はなんとなくわかりました。……話を続けてください」
「……智也さんが父親の保証人になった理由は、中川瑛子さんのことを大切に思い、それと同じぐらいに中川瑛子さんの両親を大切にしたい。けど、治療費を払えるほどのお金に余裕が無い。せめて、保証人になることを決意したみたいです」
「……そう、なんですね」
「はい。そして、栄次郎さんが死に、借金は智也さんが背負うことに。借金取りが瑛子さん、貴女に危害を加えないように離れることを決意したようです。その借金取りというのが闇金らしく……」
それを聞いた中川瑛子さんは口を抑えた。察したのだろう。
「中川瑛子さんの旦那さんは、借金を返し終わったんです。船漁をしてたみたいですね。借金を返し終わった安堵から、気が抜けて船から落ちてしまった」
闇金に借りたお金を返し終わるには何十年、それこそ一生かかっても払い終われない可能性がある。それを短期間で終わらせるとなるとかなり疲労が溜まってる筈だ。
自分を追い詰めてやっていたとなると……栄次郎さんの葬儀の日に消えたのは、葬儀に借金取りが押し寄せない為。そして、あの『メッセージ』は自分はもう生きて中川瑛子さんの前には来れないのを理解していたのだろう。
きっと中川智也さんは……。
「どんなに大変でも生きててほしいんですよ。大切だからこそ、瑛子さんには生きててほしかったんじゃないのかと」
「……そうですか。あの人は何かと面倒見が良くて、ことある事に心配してくださってました。私を好いているのが伝わるぐらい大切だって行動で伝えてくれて……幸せでした。もう、これ以上の幸せは無いのかと思うぐらい。でも、最後の最後で酷くないですか? あの人が居ない生活なんて耐えられないのに。そんなこと言われたら、あの人の気持ちを踏みにじることなんて出来なくなるじゃない」
中川瑛子さんは下を向いた。中川智也さんを追い詰めた闇金を恨み、復讐を誓うのだろうか?
だったら、俺は全力で止めなくてはならない。そう思っていると、中川瑛子さんは顔を上げる。
その目は、復讐を誓っているような殺気に満ち溢れてはいなかった。
寧ろ、清々しいような、霧がかかっていたのが晴れたような。そんな目をしていた。
「あの、日野さん」
「はい?」
「あの人を……私の最初で最後に愛した旦那を見つけてくださってありがとうございます。日野さんに依頼して良かった。あの人の分まで、生きていこうと思います」
中川瑛子さんは立ち上がり、深々と頭を下げて「本当にありがとうございました」と告げる。
これが正しいとは思えないけど、中川瑛子さんが少しでも心が軽くなることを祈ろう。
こうして、依頼は無事(?)に完了した。
この依頼を通して、誰かに思われて、誰かを思うって羨ましくもあり、憧れるなと思ってしまったのは内緒にしとこう。
面白い! 続きが気になる!と思いましたら☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくださると嬉しいです(*^^*)
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