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処刑された人質王女は、自分を殺した国に転生して家族に溺愛される  作者: 葵 すみれ


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3/21

03.母からの解放

 このまま、自分は死ぬのだろう。

 助けてほしいと言ったところで、誰が来てくれるというのか。

 前世で処刑されるときも、どうせ無駄だと知っていたから、そのようなことは言わなかった。

 だから、今回も諦めようとした。

 けれど、諦めきれなかった。心の奥底では助けを求めていたのだ。


「たす、け……て……」


 絞り出すように、ロゼッタは声を発する。

 とても小さな、蚊の鳴くような声だったが、それでもロゼッタは初めて自分から助けを求めたのだ。

 一度言葉にすると、それは堰を切ったかのように溢れ出した。


 最後の力を振り絞るように、ロゼッタは手足をばたつかせる。

 抵抗と呼べないほど弱々しいものだったが、幸いなことにマライアの顔面に当たったようだ。

 わずかに怯んだマライアが手を離した隙に、ロゼッタは大きく息を吸う。


「げほっ! ごほ……っ!」


 激しく咳き込みながら空気を貪るロゼッタ。

 そんなロゼッタを見下ろしながら、マライアは舌打ちをした。


「生意気な子ね」


 そう呟き、再びマライアの手が伸びてくる。


「たすけて……! わたしは、しにたくない! まだ、しにたくなんてない!」


 涙で滲んだ視界に、ロゼッタは必死に手を伸ばす。

 しかし、その手は虚しく宙を切るばかりだ。


「たすけて……! だれかたすけて!」


 決して叶わないと知りながらも、ロゼッタは叫んだ。

 マライアの手がロゼッタの首にかかる。徐々に強くなっていく圧迫感に抗いながら、ロゼッタは必死にもがいた。

 すると、次の瞬間――。


「マライア、何をしている!」


 叫び声が響き、ロゼッタに馬乗りになるマライアを誰かが勢いよく突き飛ばした。

 一瞬の間のあと、ロゼッタは咳き込みながら息を吸う。全身で呼吸をして、ようやく自分がまだ生きていることを実感した。

 そんなロゼッタを、誰かが抱き起こす。


「大丈夫か!?」


 そこには、先ほど部屋を出たはずのコーネリアスが立っていた。

 ロゼッタは、コーネリアスに抱き起こされた状態で呆然とする。咳き込んだせいか、また涙が溢れた。


「無事か!? 私がわかるか?」


 必死に問いかけてくるその人に、なんとか頷き返す。


「お……とう、さま」


 掠れた声で、ロゼッタは呟く。

 まさか本当に助けに来てくれるとは思わなかった。それも、一番期待していなかった人が来てくれたことに、ロゼッタは戸惑う。

 コーネリアスはそんなロゼッタを見て安堵の表情を浮かべたあと、すぐに怒りに染まった。


「マライア! お前はなんということをしたのだ!?」


 コーネリアスは、ロゼッタを腕の中に抱えたまま、マライアに厳しい視線を投げかけた。

 マライアは、焦りながら首を横に振る。


「ち、違います、私はただ……」


「私の娘に何をする! 正気か、お前は!?」


「ひいっ」


 マライアは、怯えるように悲鳴を上げた。その様子を、ロゼッタはただ黙って見つめる。


「お、お許しください、陛下! 私はただ、陛下に愛してほしくて……」


 ロゼッタを虐げていた罪の意識など、少しも感じていないのだろう。マライアはまるで自分が被害者であるかのように、涙を溢れさせながら訴える。

 そんなマライアの言い分に、コーネリアスは額を押さえて深いため息を吐いた。


「……どうやらマライアは病に侵されているようだ。王都を離れて療養させることにしよう」


「お、お待ちください、陛下! 私は何も……っ!」


「黙れ。これ以上私を失望させるな」


 コーネリアスは、ロゼッタを抱えたまま立ち上がった。そして、マライアの悲鳴を背後に聞きながら部屋を出ていく。

 ロゼッタは、ぼんやりとコーネリアスを見上げた。


「お、とう……さ、ま……」


「無理に喋るな」


 コーネリアスは、掠れるロゼッタの言葉を遮ってそう答えた。その横顔はひどく険しいもので、怒っているようにすら見える。

 そんな様子に怯えてしまい、ロゼッタはすぐに口をつぐむ。


「すまなかったな」


「……え?」


 ぽつりと、呟くように告げられた謝罪に、ロゼッタは目を瞬かせた。


「私がもっと早く来ていれば、このような事態にはならなかったはずだ。私がお前を守ってやらなければならなかったというのに……すまない」


 コーネリアスは、ぎゅっとロゼッタを抱き締めた。そのぬくもりに、胸がきゅっと締めつけられる。

 本当に助かったのだと、ふつふつと実感がわいてきた。


「おとうさま……」


 ロゼッタは、おずおずとコーネリアスの背に腕を回した。

 再び涙が滲んできたが、今度は悲しいからではない。コーネリアスの優しさが伝わってきて、嬉しかったからだ。


「私のせいで、お前にはつらい思いをさせてしまった。……あのときの過ちを繰り返すところだった。本当にすまない」


 コーネリアスの言葉に、ロゼッタは首を傾げる。

 あのときとは、どのときなのだろうか。よくわからないけれど、コーネリアスは自分を責めているようだ。


「おとうさま、わたし、大丈夫。もうこんなの慣れっこだから」


 まだ少し痛む喉を押さえながら、ロゼッタはそう言った。

 するとコーネリアスは、ひどく悲しそうな顔をしたあと、再度強くロゼッタを抱き締めた。

 その腕が、かすかに震えているのが伝わってくる。


「もう、大丈夫だ。お前にはつらい思いをさせることはしない。お前の助けを求める声が聞こえた。もう二度と、その声を聞き逃すことはしない」


 そう言って、コーネリアスはロゼッタを抱く力を強めた。

 その抱擁と言葉の温かさに、ロゼッタの目頭がまた熱くなる。

 今度こそ、自分は幸せになれるかもしれない。そんな思いが、ロゼッタの胸にわいてきた。


「おとうさま……」


 ロゼッタは、コーネリアスの腕の中で目を閉じた。もう大丈夫だという安心感に包まれて、意識が沈んでいく。


「これからは私がお前を守る。その紫色の瞳……今度こそ必ず守ってみせるから」


 眠りに落ちる寸前に、そんな声が聞こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 首を絞められてる最中に大声出すのは無理だと思います。それも3回に分けて喋ってますけど、殺す気でずっと首絞められながらでは不可能でしょう.... 特に2回目、あれだけ長文叫ぶにはまず息を…
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