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第2話 夫の想い人

 縁談をケルネス様の方から断って頂くようお願いするために会いにきたはずなのに、私はケルネス様と結婚する事になった。

 

 両家とも互いの子供の結婚がやっと決まった事に安堵したのと同時に、気持ちが変わらない内に…という不安からか、ケルネス様とお会いしてから五日後に式を挙げる事になるなんて…早すぎません?


 結婚式の当日、私はケルネス様のお兄様と奥様、それに小さなご子息とお会いした。


 義兄となるフランク様はケルネス様とよく似ていらっしゃる。雰囲気はケルネス様より穏やかな感じですね。


 義姉となるディアーナ様はビロードのような長い黒髪にアクアマリンの瞳を兼ね備えた美しい方。

 ケルネス様とフランク様とディアーナ様は昔からの幼馴染だそうだ。


 ご子息のユトレヒト様はまだ6歳。面立ちはお義兄様にそっくり。髪と瞳の色はお義姉様譲りですね。恥ずかしそうに私を見ていらっしゃる。ふふふ。

 

「クラティスと申します。今後ともよろしくお願い申し上げます」


「こちらこそよろしく。我が愚弟と結婚してくれて、本当に…本当にありがとう! このまま独り身なのかとやきもきしていたんだ」

 お義兄様は嬉しそうに笑って涙された。


「いい年して、こんなところで泣くなよ」

 ケルネス様があきれ顔で冷たい言葉を投げかけた。


「いいだろ! 嬉しいんだから!」

 泣き笑いの顔で反論するお義兄様。


「女性同士でしか話せない事がたくさんあると思うから、何でも聞いてね」

 お義姉様はお義兄様を慰めながら私に声をかけて下さった。

 

「お心遣い、感謝致します」


 ケルネス様とお義兄様は仲がよろしいみたいね。

 お義姉様は優しそうな方で良かった。

 

「ユトレヒト様、仲良くして下さいね」

 私はユトレヒト様の前で膝を突き、挨拶をした。


「は、はい、クラティスお姉様」

 はにかみながらも微笑んで下さったその笑顔!

 く―――っ! 天使降臨!!


 …それより問題はお義父様。両家顔合わせの時にも思ったけれど、どこか横柄な印象の方です。

 身体も…自己主張の激しい体型。食べ過ぎだわ。


 先程もご挨拶をしたけれど、「うむ」とか「ああ」とかまともな会話をする気がない様子。


 ずっと独身だった次男の結婚が決まった事は喜ばしいけれど、家格が下でおまけに嫁き遅れの私が気に入らないらしい。それでも息子が初めて結婚する気になったため、渋々承諾したという状況。

 この結婚式も率先して動いて下さったのは兄夫婦だったそうだ。


 しかしこんなに偉そうな人だけれど、実はこの方婿養子らしい。


 パレルモア伯爵令嬢だったお義母様が一人娘という事もあり、子爵令息の三男であったお義父様が婿入りしてパレルモア伯爵家の当主になった。(自分も元々は子爵家じゃないっ) 

 

 ご兄弟はどちらもお義母様似ね。良かったわ、ゴツイお顔のお義父様に似なくて。

 

 お義母様は常に一歩下がっているもの静かな方で、お義父様の言動に異を唱える事はない。

 この方と一生添い遂げなければならないお義母様には同情してしまう。


 私は一緒に暮らしていない事が幸いだったが、お義姉様は気苦労が絶えなそう…


 それでもこの結婚は私にとってメリットの方が大きい。

 私は笑顔を振りまいて幸せな花嫁になりきった。


「お母様ぁ…」

 ユトレヒト様が恥ずかしそうにもじもじとお義姉様に話しかけていた。

 あ、ご不浄ね。


「ごめんなさいね。少し失礼します」

 お義姉様はユトレヒト様を抱き上げて、その場を後にした。

 

「私も少し風に当たってきます」

 ずっと挨拶回りで少々疲れてしまった。


 私はケルネス様に一言断りを入れて、一旦廻廊に出た。

 花たちが色とりどりに咲き誇る美しい庭園だわ。


 ベンチに座りながらボーッと庭園を眺めていると、ユトレヒト様を抱っこしながら廻廊を歩いて来るお義姉様が見えた。


 かわいいユトレヒト様のお顔が見たくて近づくと、ケルネス様も一緒にいらっしゃっていた。


 私は思わず、足を止め、息を潜め、二人の様子を見ていた。

 なぜだろう…何となく邪魔をしてはいけないと思った。


「素敵な奥様を見つけたわね」

 お義姉様が嬉しい事を言って下さった。


「はぁ…まぁ…」

 ケルネス様は困ったように笑った。


 なぜ困る? そこは素直にお礼を申し上げればいいだけでしょ?

 …まぁ、いいですけど。


 二言三言言葉を交わし、お義姉様は広間へと戻って行った。その時、ハンカチーフを落とされたが気が付かずに行ってしまわれた。


 残されたケルネス様は落ちたハンカチーフを拾い上げると、愛おしそうに胸に押し当てた。


「!!」

 その時私はケルネス様の言葉を思い出していた。


『僕には愛する女性がいる。その人とは決して結ばれる事はないけれど、彼女を忘れる事は出来ないんだ』


 私の視線に気が付いたケルネス様が驚いたように私の名前を呼んだ。


「クラティス!」   

 あわててハンカチを隠したが、時既に遅し。


 そう…ケルネス様の忘れられない愛する女性って…兄嫁であるディアーナ様だったんだ。

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