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第13話 狂乱の様相

「おらぁ!!! サリア、まずはここで寝ている連中全部治療しろぉ!!!」




 連れてこられた先は、治療を行っている天幕。瀕死の人が大勢寝かせられており、何なら私が到着すると同時に運び込まれた人もいる。



 血の臭いでむせ返りそう――でもやらなきゃ。そこに助けを求める人がいるなら、残らず助けなきゃ。



 それが聖女の役目だ。団長に言われなくても、そうやっている――




「うぐっ、げほっ、おえっ……」



 続いて背後から、他の聖女も応援にやってきた。しかし――



「う゛っ……!」



 到着してすぐに口を押さえ、そしてむせ始めた。彼女達もまた治療が必要な有様だった。






「こっ、これはこれは! どうか無理はなさならないでください!!」




 その様子を目撃したゲール団長、真っ先に聖女達の所に向かっていき――



 背中を擦ったり嘔吐用の袋を持ってきたりと、最善の優しさを尽くしていた。





「――おらぁ!!! 何ぼさっとしてるんだサリアァ!!! 貴様は平常心でいられるんだから働け!!! こんなにも苦しそうな方々に無理をさせる気かぁ!!! 流石は国王陛下を殺した大罪人だなぁ!!!」





 ふと振り向いた時の彼の態度から、逃げるように私は怪我人達の方を向いた。




「さ、さあ楽にしてください。息を吸って――吐いて――すると魔力が全身に行き渡りますからね――」



 誰に言われてもいないのにそんなことを説明したのは、自分の気持ちを抑え付けるためだったのかもしれない。






「おらサリア!!! こっちに来い!!!」




 ふと耳元でそんな怒鳴り声がしたかと思うと、



 私はゲール団長に腕を掴まれ、連行されていく。



 どこにとかどうしてとかいう問いは、他の人が情報共有に使っている声でかき消されてしまった。






「聞けサリア!!! おいたわしいことに他の聖女様方が、この悲惨な光景を前にして気絶されてしまったのだ!!! 」



「だからお前が穴を埋めろ!!! 罪滅ぼしとして責任を取れ!!! 下々の輩がお上様の世話をするのは大大大常識だスカタンがァーーー!!!」




 叫び散らかした後、ゲール団長は他の騎士に呼ばれ、指示を出しにずけずけと戻っていった。つるつるの頭からは今にも湯気が噴き出しそうだった。




 彼を見送った後に、私は周囲を見回し、ここが炊事所であることを理解した。また、他の聖女達が気絶してしまって、急遽増設された天幕の下に寝かせられているのも確認できた。




「……」



「あっ、あのっ……」



 私は炊き出しを行っている騎士のうち、同じようにおどおどしている人を狙って、指示を仰いだ。



「サリア様、ですよね? えっと……とにかく作ってください」

「はい……」



 騎士はどうにか関係ない素振りを決め込もうとして、私に何も言わなかった。






「おいサリア!!! てめえがいなくなったから、今度は回復役がいねえぞ!!! さっさと終わらせて戻ってこい!!!」




    なんで。




「サリア!!! 東方面のバリケードが壊れたぞ!!! 今すぐ修復に行け!!!」




   どうして。




「何もたもた戻ってきているんだ!!! 聖女ならとっとと仕事終わらせられるんだろうがぁ!!! 次は炊き出しをやれ!!!」




   何故だろう?




「キビキビ動け戦争の基本だぞ!!! 次は治療!!! あとは魔道具に魔力詰めろ!!! それからバリケードの修繕に伝令にそれからそれから――」




   どうして、この人は、




「ウガアアアアアアーーーーッ!!! どいつもこいつも俺の指示通りに動かないクソ共め!!! ムシャクシャするんだよサリアーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」




   私に対して、こんなにも、




「サリアァ!!! サリアサリアサリアサリアサリアサリアサリアサリアサリアサリア――!!!!!!!!!!!!!!」




   こんなにも、こんなにもこんなにもこんなにもこんなにもこんなにも――





「サリア! サリアはいるか!」






 ――その声が聞こえるまでの記憶が、もう私の中からすっかり抜け落ちていた。



 今の私は、騎士の治療をしながら、炊き出しに使う野菜を魔法で剥いていた。思わず後ろを振り向いて、治療も中断されにんじんが地面に落ちる。




「……る、ルーファウス、様」

「おおサリア! ここにいたか! ゲールよ、彼女を少し借りるがいいか!?」



 切羽詰まった様子のルーファウス様にそう詰め寄られ、ゲール団長は瞬時に直角のお辞儀で応対する。



「はっ! 構いませんとも! こんなゴミクズなんぞ、使い潰してくださって結構ですから!」





 その発言に、私の中で何かが壊れようとしたが。





「感謝する! あと少しの辛抱だが、持ちこたえてくれ!」

「奮励のお言葉、ありがとうございます!」




 ルーファウス様が馬の上から手を差し伸べてくれたのを見て、瞬時に気を張り詰める。








 ――向かっている先は恐らく戦場だろう。魔物達の行軍の足音が、馬を通して伝わってくる。




「サリア! 僕の腰をしっかりと掴んでいるな!?」

「は、はい、この通りに……!」



 ルーファウス様は馬の後ろに私を乗せ、不安定な状態でも馬を上手く走らせていた。今の私にできるのは、しっかりと彼に掴まって、馬から振り落とされないようにすることだった。



「いいぞ、その調子で掴んでいてくれ! あと3分で目的地に到着するぞ!」

「わかりました……!」



 指示をされなくても、腰元にしがみつく力は、無意識のうちに強くなっていく。






 到着するまでの3分で私は考える。ルーファウス様は――




 さっきのゲール団長のあの発言を聞いて――




 私を庇ってくれてなかったのは何故なんだろうと。







(……あああああっ、ああ……)





 力が大きくなっているのは安堵感からだと、途中で気が付いた。




 もうあの人のとてつもない怒号を聞かなくていいのだと――




 最初にちょっぴり思った安心が、とめどなく広がっていっていて――





「何だよサリア!!! 泣くなよ!!! 泣きたいのは僕もなんだぞ!!!」








「……えっ?」




 ルーファウス様の声で我に返り、私はぱっと目を開ける。馬が徐々に減速しており、どうやら目的地に着いたらしい。3分はあっという間だった。




「いいか、ここは魔物の進軍してくる道だ。今は補給の為かいなくなっているが、直に通ってくる。足音が聞こえたら、ここで思いっ切り魔法を放ってほしい」



「そうして弱った隙を見て、僕達が後に続く。サリア、最初にどれぐらい弱らせられるか、全ては君の腕にかかっているんだ」




 ルーファウス様は私を馬から降ろし、更に肩を抱きながら、真摯な眼差しでそう伝えられた。




「は……はい。私、頑張ります……!」



 思わず身体を震わせながら、私はそう応えた。




 ルーファウス様が頼りにしてくださっている――その事実だけで、もう、私は、




「いい返事だ。では僕は配置に戻る! 後は頑張ってくれ!」

「はい……!」





 魔物が来るであろう方角に私は向き直る。ルーファウス様はすぐに馬に乗り去っていく。走っていく音が遠く彼方に向かっていった。





「よぉし……!」






 もうこうなったらなんだっていいや――






「「「ブモオオオオオオ……!!! ブモッ、ブモオオオオオ!!!」」」



   オークとかゴブリンとかその他諸々。



   もう何にも怖くない。



「「「グギャギャギャギャギャ!!!」」」



   初めて見る魔物もいる。



   図鑑に載っていないから、



   生態がわからなくてドキドキする。



「「「――ちゅりーーーーーーーーん!!!」」」



   私に与えられた役目を遂行したなら――




   後はルーファウス様がどうにかしてくださる。





   この、世界の終わりのような地獄が、終わる。






「はああああああああああ……っ!!!」




 大気中の火の魔力をとにかく集める。天に掲げた両手に収まり切らない、巨大な火の玉を生成して――



 ――それが大きくなっていくのを見守る間、指先の感覚がなくなってきた。手も足も同様に、そして視界がくらくらと霞む。陽炎かと思ったけど違う、これは眩暈だ。




「魔力が……尽きてる……でも……やらなきゃ……!!!」



 ここまで完成させたのだから、無駄にはしない――





 ああ。でもなあ。




 私、上手くできるかな。




 城下町を焼いた炎みたいに。




 上手く相手を焼けるだろうか?




「くらえええええええええええーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」





 ルーファウス様の予測通り攻め込んできた魔物の群れに対して、両手を振り下ろし火の玉を投げつけた所で、私の意識は途切れた。




 いや、厳密には、意識を失う前にもう一段階あった。()()()()()()()()()()()()()()()()

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