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夢物語

作者: 立花カズ

夢とは不思議なものである。


夢の中であなたは何にでもなれる。悪と戦うヒーローにも、世界を支配する魔王にも、あるいは道端のアリにだってなれるだろう。


何より不思議なのは、どんなに意味不明な夢であろうとも、それが現実だと認識してしまうことだ。


奇想天外な大冒険を繰り広げたあなたは、目覚めてからこう言うだろう。


「ああ、夢だったのか」

 俺は自室で身長180cmのティラノサウルスみたいなやつに襲われた。殴ったりして抵抗するが、着ぐるみのようなブヨブヨした感触で歯ごたえがない。どうにか腕を掴んで抑えつけると、ティラノの頭がイ○ズマイレブンの壁山になってポロリと取れ、ふわ〜っと浮かんできた。


「うわっ!」


 壁山ヘッドはハリボテが電球を覆う、まるで流す方の灯籠のような構造だった。いつもなら懐かしさと親しみを感じる壁山の顔がやけに不気味に感じられた。


 俺は恐怖を覚えて逃げる。そしてどうやったのかは覚えていないが、ティラノと同サイズのゴジラを呼び出した。


「助けに来てくれたのか!」

「おう、任せとけ!」


 なぜか喋れるゴジラは、ティラノとバトルを開始する。

 なおこのとき、これまた不思議なことに、ティラノは骨だけになっており、また舞台がいつの間にか別の家(祖父母の家に似ていた)になっていた。


「おらっ!」


 流石はゴジラ、圧倒的な強さを見せつける。

 しかしここでティラノがゴジラに背を向け、俺に向かってきた!


 突然の事態に俺はパニックになり、ゴジラが「逃げろ!」と言うが早いか駆け出し、その家から出て、隣家の自宅へ逃げ込んだ。俺の家はマンションの7階のはずなのだが、このときのみ一軒家になっていた。


 自分の部屋に入りドアを閉める。よもや古代の恐竜が、現代のドアノブの開け方を知るわけもない。そう安堵していたが、ガチャと音がしてノブが回されーーーー


「っ!?」


 俺はすぐさまドアに飛びつき、内側から抑えようとする。しかし相手は小さいとはいえティラノサウルスだ。


「誰か! 助けて!」


 叫ぶ声は虚しく響き、ドアは徐々に押されていく。


 こうなったらと力の方向を変えて一気に開け放つ。驚いたティラノの隙を付き、俺はリビングへ逃げた。


 しかし家族がいるはずのリビングには電気がついておらず、人の体温のぬくもりすら微塵も感じられなかった。


 俺はみんなティラノに殺されてしまったのだと悟った。そして後ろから迫りくるティラノ(いつの間にか受肉していた)と再び戦闘になる。


「このっ!」


 やはり殴ってもダメージが入っている様子はない。俺は1度目の戦闘と同様にやつの腕を掴み、今度は抱きつくようにして拘束、地面に抑えつける。


 しかし、俺の必死の抵抗を嘲笑うように、ティラノの腕が触手のように伸びだし、また頭が壁山になって浮かんでくる。


「ひぃっ!?」

(このままじゃ逆に捕まえられる!?)


 俺は死の恐怖に悲鳴を上げ、ティラノを離して窓から逃げようとした。窓を開けきる前にポン、と肩を叩かれる。

 肩と背中から感じるティラノの気配と存在感。ここで振り返ったり肩に置かれたゴツゴツした手をはたき落としたりすれば、俺はすぐに殺されるだろう。やつはそういう存在だ(このときはそう思った)。怖くてたまらないが無視しなければならない。


 勢いよく窓を開け放ち、ベランダに出る。そして柵を越えて飛び降りた!

 そう。このとき俺は、これが夢であるという確信を得ていたのだ。


「これなら流石に追ってこれないはず……!」


 しかし安堵したのもつかの間、俺は全く前に飛べていないことに気づいた。それどころかろくに落ちてすらいなかった。


「なんで!? なんでだよ!?」


 この軌道では6階のベランダに落ちる。そしてすぐにティラノがくるだろう。

 俺は必死に手を動かし前に進もうとする。


 なんとか6階に落ちることを回避すると、いきなり自由に飛べるようになった。とりあえずは一安心である。


 グライダーのように滑空しながらマンションから離れている中で、俺は衝撃的な光景を目にする。



 その世界は動物に支配されていた。



 この夢の世界では俺が住むマンションは都会にあるらしく、原宿のように複数階の建物が多く並んでいた。


 その上を巨大な白鳥が飛び、建物の屋上ではゴリラの集団が騒いでいる。地上でも多種多様な動物が歩き回っていた。しかも彼らは皆、人間サイズだった。


 人間もいるが少数で、しかも動物たちに支配されているようだった。奴隷というわけではなく、ともに暮らしている存在だが優劣がついているような感覚だった。


 屋上にいたゴリラたちに捕まりそうになり(俺は全動物に追い回される立場のようだ)ながらも、動物のいない場所を探した。しかし高度が落ちて都心のど真ん中に着地してしまう。


 幸い近くには人しかいなかったが、すぐに動物が来るだろう。俺は近くの建物へ走った。


 近づくまで気づかなかったが、その建物には地下につながる階段があった。しめた、とばかりに降りようとするも、俺の足は階段の寸前で止まった。

 地下からアヒルが列を成して登ってくるのが見えたのだ。


 俺は引き返し、隣にあったトイレへ逃げ込もうとした。しかしトイレはエレベーターに転じてしまう。夢ではありがちな現象だが、今回は命取りになりかねない。


 俺はエレベーターのボタンを押し、地下への階段との間にある壁に張り付き、アヒルたちがそのまま建物の外へ行くことを願った。


 なかなか現れないアヒル。俺は様子を見るため壁から顔を出しーーーー


ーーーーその瞬間、黒い影が階段から出てきた!


(っ!)


 一瞬身をすくめたが、よく見たら黒い服を着た女性だった。なーんだ人か、と何度目かわからない束の間の安堵とともにもう一度階段を見ーーーーあ。



 目が、合ってしまった。



 絶妙なタイミングで出てきたアヒルたち。彼らの目は、頭のほぼ側面についている。


(やばいやばいやばいやばい!!!)


 俺はパニックになりつつすぐさま隠れたが、無駄なことだと頭では理解していた。


 死へのタイムリミットはあと少しか。俺は天に祈りながら目を閉じた。



◆◆◆



「ハッ!」


 そして、俺は目覚めた。布団から起き上がり、周囲を見回す。

 当然ティラノサウルスなどいなかったし、部屋の外からは家族の話し声が聞こえてくる。悪夢からやっと解放されたのだと、俺は最後にして最大の安心感に包まれた。


 未だ胸に残る恐怖心をなだめながら、俺は勉強机に向かった。


 愛用のシャープペンシルを手に取りつつ俺は思う。あれは、本当に夢だったのか、と。あるいはあれは、別世界の俺であったのかもしれない。


 動物が支配する世界の、俺。


 だとするなら、俺が元の世界に帰ってこられたのはーーーー。


(······勉強に集中しないと)


 脳裏に浮かんだ光景を振り払うべく、俺は参考書を開く。しかし何問解いても、アヒルたちに囲まれて血の海に沈む少年の姿が、頭から離れなかった。

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