~社畜アニメーターが異世界でアニメスタジオを設立する話~
序章 Ⅰ
明日やろう。
そう思って昨晩、いつものように作業机に突っ伏して眠りについた。
本来ならば、妙に空気の悪い部屋の小さい窓から盛れた光で朝が来たことを知り、そのまま作業に取り掛かる僕がいるはずなのだ。なのにどうだ。
草 木 土 そよ風 天井のない夜空
どれも就職してからは見る機会さえ無かったそれらに囲まれ、目が覚めた。
おかしい。
夢遊病にでもなってしまったのだろうか。
無意識の内に都会の喧騒を離れ、田舎で健やかな日常をだとかそういった老後のテンプレみたいな生活を欲していたのか。
いや、アニメ監督を志して森と山しか娯楽のない地元から上京してきたのにそんな欲求あるはずが無い。
東京の専門学校を卒業して、しばらくフリーターで食いつなぎ、ようやくアニメスタジオの就職を勝ち得てからは、いつか社会現象を巻き起こすアニメを作ってみせるという思いを胸に今まで生きてきた。
その為にも今の仕事を一刻も早く終わらせなければならない。エナジードリンクを机が埋まるまで飲み干し、今月3度目の5徹を乗り切ったのだ。なんてことは無い。すぐに職場に戻ろう。
そういえばちゃんと睡眠が取れたのか身体も軽い。昨日まであった吐き気や頭痛、目眩も収まっている。まだ頑張れそうだ。走っても問題ない。早く山を降りてしまおう。
それにしても綺麗な景色だ。普段気にならなかったけど、少し空を見上げると沢山の星が見える。月も大きいしなんか幾つかある。僕が気付かなかっただけで外ってこんな風景だったのか。これからは月に1度くらいは外に出てみようかな。
しかしかなり山の奥まで来てしまっていたのか、全然人工物が見えない。ビルの景色はおろか道路や街灯がある様子も無い。
寝ぼけていたのかスマホや腕時計などの貴重品は持ってなかったから、今が何時なのか検討が付かない。月の位置で分からないかとも思ったがどの月を見ればいいかも分からない。
大人になってからもちゃんと勉強するんだった。一般常識はあると思っていたが月の数すら間違って覚えていた。
新しい物事を吸収できるように常識に囚われ過ぎない考え方を心掛けていたけど、ここまで常識が無いとは自分でも思わなかった。流石に恥ずかしい。帰るついでに図書館にでも寄っておこう。
しばらく走って来たところでようやく街が見えてきた。街というには小さめだけど幾らか人の気配がする。もう明るくなってきてしまったが、もしかしたら今頃起きてくる人もいるかもしれない。ご迷惑を承知でその人に案内をお願いしよう。
財布も持ってないから交通機関も使えないし、スマホも無いから迎えも呼べない。そもそもここがどこなのかも分からないから、やはりここの人に助けて貰う他無い。
随分走ってきた事だし、休むついでに住民が起きてくるまで待とう。
5/20 後々になって見返せるように、この世界の事をとりあえずメモっておこうと思う。
幸内 純