7 記憶を手繰れ
「ダグ様はね、とっても強くて優しいの!でもね母親の貞操観念の低さがトラウマで女性に対しての嫌悪感が酷いわけ!」
何度も失敗するダグラスルートの攻略方法を聞いた俺に、万結は説明してくれた。
ダグラス·モーティマー侯爵令息、16歳。
モーティマー侯爵は厳しい男で、自分に課した厳格さを家族にまできっちりと求めるような男だった。ダグラスはそんな父を誇りに思っていたが、妻は息が詰まって死にそうになっていた。
子爵家出身だったモーティマー侯爵夫人は貴族に生まれながらも平民に近い人間だった。
華やかな風貌に気さくな性格が禍して社交界で尻軽と陰口を叩かれるほどによくモテた。自由な恋愛を好む平民感覚に惑わされ、彼女は愛を囁く男たちを次から次へと蝶のごとく渡り歩いた。当然のことながらモーティマー侯爵の知るところとなり、彼女は領地での軟禁と離婚の二択に迷わず離婚を選択した。
ダグラスがまだ6歳のときだった。
艶やかに輝く漆黒の髪を揺らして去る後ろ姿がダグラスが最後に見た母だったという。
モーティマー侯爵はすっかり女性不信になり、後添えを貰うことなくダグラスを育てた。
なぜ自分には母がないのかと泣いて縋る息子にモーティマー侯爵は感情のない声音ではっきりと教えた。
おまえの母は淫乱の血が抑えられずに私たちを棄てていったのだよ、と。
ダグラスはその日を境に泣かなくなった。
笑うこともなくなった。
そしてやはり父親と同じように女性に嫌悪感を抱くようになった。
母親譲りの漆黒の髪を後ろでひとつに括り、涼やかな碧眼を持つ顔面偏差値の突き抜けて高い男に育ったのに、ダグラスはどの女性にも惹かれることはなかった。
ヒロインのキャロラインにすら。
彼は近寄る女性すべてに同じことを思った。
所詮こいつらには愛がないんだ、と。
ダグラスの持つ次期侯爵という身分を、外見の麗しさ、そして近衛騎士団長とも期待される強さを見ているだけで、誰も本当のダグラスを理解していない、と。
薄っぺらで空っぽな女たちだ、と見下していたのだ。
こうして氷の騎士は出来上がる。
「じゃ、どうすれば攻略できるんだよ?」
同じ男として煌びやかな女性に囲まれる有り得ない環境を厭う2次元ダグラスに不愉快な嫉妬を感じながら俺は万結に詰問した。
万結は可愛らしく肩を竦めると、わかんない、とだけ呟いた。
わかっていたら、さっさと攻略してるよな、と俺は乾いた笑いを溢した。
「ダグラス様の心をとかす女性…」
私はそっと囁いた。
そしてノートに書き込むと、私はその文字を大きく丸で囲んだ。
健気に誠実に!清く正しく!!
どこかの小学校で掲げられる標語のようだったが、私にはそれ以外考え付かなかった。
まだやっと15歳になる少女なのだ。
仕方がない。
そこまで書き終えて、私はベッドにダイブした。