表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/53

21 デュラント王立魔法学園生徒会

デュラント王立魔法学園は3つに区分される。


主に生徒たちの教室などがある学舎。

これは唯一の正門からのびる道を真っ直ぐ進んだ先にある園内一番の大きさと壮麗さを誇る建物である。かつては王城の離宮として使用されていたというだけあって細部に至るまで美しい細工が施されている。それだけでなく王族を護る目的でかけられた多くの(いにしえ)の魔法が未だに何箇所も現存しており、年に一度くらいはそれが発動して大騒ぎになることもなくはない。


学舎の左右にそれぞれ建物が建て増しされているのだが、ひとつはなんらかの理由で通うのが難しい生徒のための寮である。

出入口は2つ。

右が男子寮、左の入り口が女子寮。

男子寮と女子寮の間には食堂が設置され、朝の6時から夜9時まで営業している。

寮費食費ともに国庫と寄付から賄われているため、寮生であればここでの食事に費用はかからない。


残りのひとつが部室と実験室などの設備室及び各教科の教師の居室である。

基本的には教師は通い推奨なのだが、宿直できるように居室には生活に困らない設備が整っているので、ものぐさなものなど、自宅に帰らず、ここで寝泊まりするものもいた。


デュラント王国エリートだけが所属できると名高いデュラント王立魔法学園の生徒会は部室と同じ扱いになるので、この建物の最上階に3部屋与えられていた。


生徒会に所属するほど有能なものたちは卒業後もその能力を遺憾なく発揮して要職に就くものが多いことからデュラント王国のエリート集団と呼ばれているだけなのだが、実際は王子を中心とした側近の集まりなので、卒業後の就職先が必然的に要職だというだけのことだ。

もっとも有能でなければ王子の側近ではいられないので、エリートであることは間違いない。


ちなみにカルセールは生徒会などの雑務に追われるくらいなら剣の腕を磨きたい、とアルセールに生徒会会長の座を譲り、辞退したので、現在、生徒会役員はアルセールの側近で占められている。


「今年はひとり光が出たそうだね!」


無邪気に明るく声を上げたのは役員でもあり、アルセールの影としての役割も担っているフィリス·ダンカン伯爵令息だ。

短い緑の髪をかきあげて、蠱惑的に煌めく紺碧の瞳を眇めた。口許はいつもながらににやにやと弛んでいる。髪をかきあげたせいで左耳に着けられた大きなエメラルドグリーンのピアスが目立った。


「そうですね、彼女に癒しの力があればいいのですが、ただ灯りを灯せます、だと期待外れもいいところですね」


淡々と応えたのは小さな鼻メガネをつけたひょろりと背の高い男。こちらは肩までの長さの茶髪をぱっつんと切ったおかっぱ頭に、色素の薄いグリーンの瞳を持つ。感情を露にすることがないらしく、瞬きすらできないのではないか、と懸念するほど表情筋が動かない。おかげで言葉を発したはずなのに誰も彼が唇を動かしたところを見ていない有り様だ。


「期待外れの可能性が高い」


医務室まで話題のキャロラインを運んだウィリアム·スペンサーがおかっぱ男リチャード·コルソン子爵令息に冷淡に答えた。


「でも魔力は多いんでしょ?」


軽やかなまでに涼やかな声音で聞いたのは、このメンバーのなかでもダントツに美しく奇抜な男。

彼の名はロバート。家名はない。

平民出身の、孤児だからだ。

彼の魔法の才能はピカ一で3歳のときから自由自在に水を操ったと噂されている。それを恐れた両親が教会の前に彼を棄てたのだと。

頭脳明晰な彼は魔法だけの能力を評価されたのではなく、ここにいる。

真夏の盛りでも涼風を感じさせる切れ長の眼、すらりと通った鼻筋に、つい触れてみたくなる肉感的な唇は薔薇のよう。

頬に影を落とす睫の長さは彼を男にしておくには惜しいほど。

瞳は爽やかなスカイブルーに煌めき、グレーにも近いアイスブルーの髪と抜群に合っていた。


そんなパーフェクトマンのロバートにはたったひとつ、飛び抜けた個性がある。


ふらりと立ち上がったロバートはウィリアムにしなだれ掛かると、その耳朶をかぷりと軽く噛んだ。


「うぉっ!」


常に冷静なウィリアムでも突然のこの愛情表現には飛び上がる。顔を真っ赤に染めながら噛まれた耳を片手で押さえる様はまるで襲われた淑女のよう。


「なによ、私のこと、無視するからでしょ!」


そう、ロバートはウィリアムラブのオネエである。


「いや、無視はしてない、断じてしてないぞ、ロバート」


狼狽えながら一歩ずつ後退るウィリアムをジリジリと追い込みながらロバートは妖艶に微笑んだ。


「いやぁん!ロヴィて呼んで!ていつも言ってるでしょ!」


壁まで追い詰められたウィリアムの腕に自分のを絡めるとロバートはこてん、と頭を彼の肩にのせた。その様子にフィリスは足をバタバタさせてゲラゲラと笑い、リチャードは無表情のまま、もうすぐ来るであろうアルセールのためにお湯を沸かしはじめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ