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15 私はキャロライン

産まれたときから天使だと持て囃された私はキャロラインと名付けられた。


つるんとした白磁の頬には神の祝福のごとき薔薇が咲き誇り、ばちりと開いた瞳には桜が満開だった、とパパは教えてくれた。

ほやほやとした髪は赤ちゃんとは思えないくらいに艶々で、見たこともないストロベリーブロンドだとママは自慢していた。


物心ついたときには私の周囲は男の子でいっぱいだった。囲まれる私を遠巻きにする近所の女の子たちのじとりとした眼がはじめはとても怖かった。


でも次第にそれは私のなかで優越感に置き換えられていった。


女の子と遊ぶより男の子からチヤホヤされるほうが楽しくて、私には友達と呼べる子がいなかった。幼馴染みのガレとミアだけ。


ガレはどこにでもいるような男の子で、将来の夢が騎士様だった。ブラウンの瞳にブラウンの髪。彼の親は鍛冶屋だ。なかなかの腕前の職人らしく、王都でも名うての騎士が出入りしていたからガレが憧れるのも無理はないと思う。


「騎士様になったらあんたと結婚してあげてもいいわよ」


いつかの夕暮れ。別れ際。

幼い私はガレに告白した。


けれどガレは子供の癖に大人びた苦笑を洩らすと、


「よせやい、おまえとなんか、ごめんだよ」


と背中を向けた。


この日から私は騎士より格好いい(ひと)と結婚するんだ、と心に誓った気がする。


ミアは活発な女の子で、ほとんど男の子と変わらない遊びばかりをしていた。生傷の絶えない彼女に両親はハラハラし通しだった。

寝たり起きたりの虚弱だった私には羨ましくて仕方なかったけど、男の子と混じって遊ぶミアになりたいとは思わなかった。だって私は男の子と遊びたいわけじゃない。特別優しくされたいだけだから。

私ほどじゃなかったけど、ミアもなかなか可愛くて、12歳の誕生日に貰ったという桜色のワンピースを着てみせてくれたとき、私はパパのお店の手伝いをしよう、と決めた。

女の子らしい格好をするとミアはとても可愛い子だった。

私の瞳の色のワンピースがよく似合っていて、今まで私をチヤホヤしていた男の子たちが急にミアを囲むようになった。


だから身体も丈夫になってきた私はお店に出た。


近所の男の子みたいな子供じゃない大人が今度は私を可愛いとチヤホヤしてくれた。


王都のお貴族様でもこれほど可愛い子はないよ、と王城に勤める騎士様も褒めてくれた。

一生懸命に働けば、働くほどに可愛がられ、大きくなったらお嫁に欲しい、と何人にも言われた。


14歳のとき、最近会ってなかったガレが訪ねてきた。騎士見習いのために寮に入ると言った。鍛冶屋じゃなくて本当に騎士になるんだと私は感心した。


「凄いじゃない」


褒め言葉にはにかんで、ガレは私を真っ直ぐに見つめて言った。


「俺、騎士になったら…」


やっぱり夕暮れ。

夕日のせいだけじゃなくガレの顔が紅い。

私は告白されるんだと、痛いくらいに高鳴る胸を押さえて彼の次の言葉を待った。


「ミアを嫁に貰いたいんだ。悪いけど俺が帰るまであいつのことを頼むよ。マジで大切な人なんだ」


吐き気がした。


小さく頷くことしかできなかった私を見て、満足そうに笑うとガレはやっぱり私に背中を向けた。

躊躇いも未練も感じない動作。


ガレはミアになにも伝えずに行ったらしいと知ったとき、私はガレから告白されたと嘘を吐いてやろうと思っていた。騎士になったら私と結婚するんだ、て。

きっとそうすればミアは別の人と結婚するだろうと思った。だってミアもガレが好きだったから。


だけどそんな嘘を吐く前に私は魔力持ちだと認定された。


パパもママもがっかりしてたけど、私は嬉しくて一人のときに飛び跳ねた。これで私はお貴族様が通う学園に入学できるんだ。嬉しくないわけがない。


騎士なんて下っ端だ。


騎士を従えるお貴族様、もしくは王子様だって夢じゃない。


だって私は可愛いんだもの!


これから通うために不敬があってもいけないから、と教会を半ば脅すようにして手に入れた貴族名鑑をワクワクしながら毎晩読んだ。

読み書きくらいはお店の手伝いでできるようにはなっていたから、読むのはなんの問題もなかった。


王族と当主だけは自画像が載っていたけど、それ以外はさすがに名前だけ。

けれど関係性だけでもわかれば私には充分だった。


私が在学中にいる王族は2人。

第二王子様のアルセール様と第三王子様のカルセール様。


アルセール様は分厚いメガネのせいでよくわからないけれど、カルセール様は精悍なお顔立ちでとても綺麗。真っ赤に燃える瞳が私をぞくぞくさせた。


アルセール様には婚約者がいてローズウッド公爵家のダリアライト様。

カルセール様にはまだ婚約者はいなかった。


ダリアライト様は私と同時に入学するようだから、近付きになればアルセール様カルセール様とも知り合えるかも。


ただ話しかけたんじゃ相手にされないのは私だってよくわかってる。だってあまりにも高位貴族すぎるもの。


せめて男爵子爵、いや伯爵くらいなら私の可愛い笑顔ひとつでなんとかなるかもしれないけど、侯爵以上は近付くことすら難しい。


だって独りになることがないらしいのだから。


将を射んとすればまず馬から、て云うじゃない?


私はダリアライト様とまずはお友達になるわ。


そのためにはどうしたらいいのかしら?


各家の紋章を頭に叩き込みながら私はダリアライト様とお近付きになるための策を練っていた。


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