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11 結縁の月、初イベントを邪魔しちゃえ!

三月(みつき)にもなるお嬢様生活の賜物とアランお兄様お手製のトレーニングマシンのおかげで、弘毅とパトリシアの記憶が入り交じった状態でありながらも私の所作はかなり改善された。

最近ではマーガレットに睨まれることも、お父様から心配されることもなくなった。


まさに環境が人を創る、だな、と弘毅の部分の私が思う。


「パティ、そろそろ出掛けますよ、馬車の用意もできてるわ」


お母様がドア越しに急かすが、私は素直に返事だけしてジリジリと時計とにらめっこ。


早くも遅くもダメ、お母様が学園まで送ってくださるなら尚更タイミングが大事になるわ。


今日は緊張の初日。


結縁の月1日。

学園の入学式がある。式といってもオリエンテーションの意味合いが大きいので保護者の参加はない。学園理事長の話を聞き、簡単なクラス分けテストが行われ、決められた教室へと向かうだけ。

クラスメイトとの顔合わせがメインなのだろう。


けれど私にとってのメインイベントはそれではない。


今日はキャロラインとダリアライトの接触事故とアルセールとの出会いのイベントがある。


私はそれを阻止して、まずゲームが開始されないようにするのだ。キャロラインの起こす出会いイベントを潰す必要があると判断したものをことごとく潰して歩き、逆ハーをつくるほどのモテ度を封印させて私というモブの存在をダグラス·モーティマーに気付いて貰わなければならない。


「パティちゃん?!大丈夫なの?」


あまりにも部屋から出てこない私に不安になったお母様が焦りを滲ませていたので、私は鞄を持って部屋から出ていった。時計を見れば、なんともギリギリのいい時間だ。


「ごめんなさい、緊張しちゃって…」


俯いて言い訳をすれば、お母様はがばりと私を強く抱きしめた。そして頭にキスをする。


「パティちゃんなら大丈夫よ、夕方にはお母様がお迎えに行くからね」


「はい、ありがとうございます」


にっこり笑って私はそっと胸元に指先を送る。

触れるのはアランお兄様から貰ったエメラルドのネックレス。

今日の入団式のためにお兄様は2日前から寮生活を始めていた。だけどネックレスのおかげで寂しくなんかない。


「じゃ、行きましょ」


お母様に促されて私は玄関へと向かっていった。



園門前で馬車を降り、お母様に挨拶と礼をして私は門を潜った。門を入ってすぐにさっと木立の影に隠れる。

門内は大きな一本道が真っ直ぐに校舎に向かっていて、その両脇に森かと見間違えるような木々がたくさんある。そのひとつに私は身を潜めてキャロラインが来るのを待っていた。


暫くすると重厚な馬車のやってくる音がしたので、私は顔をひょっこりと出して覗き見る。

蔦が絡まるなかに薔薇が咲く紋章を眼にして一気に緊張が高まった。


弘毅最推し、ダリアライト·ローズウッド公爵令嬢だ。


「うわぁ、まんま、スチル!」


意味もわからず私は感激してしまう。

爽やかなブルーに銀糸で刺繍が施されたスマートなドレスを翻して馬車から降りてきた彼女はどこから見ても女神そのものの美しさ。

揺れるドリル金髪までが神々しくって、私の胸は高まるばかり。


お友達になってみたいわ。


うっとりとそんな妄想をしていた私の眼の端にピンクのなにかが入ってきた。

ハッと我に返って視線をやれば、これまたスチルそのままのキャロラインがトースト咥えて走ってきている。


衝突事故まであと数十秒。


私はスカートの裾を両手で持ち上げると思いっきり踏みきってその場を勢いよく駆け出した。せっかくマーガレットが可愛く結ってくれた髪や繊細なレースに葉が絡み付いていたが、そんなことも構わないで、ダリアライトに突進するキャロラインから公爵令嬢を守るべく、私はひたすら猛進した。


そしてキャロラインがダリアライトに向かって幅跳び選手さながらのジャンプの踏み込みをみせたとき、私はダリアライトの腕を取り、抱え込むようにしてくるりと回転して抱き締めた。


本来、ダリアライトにぶつかるはずだったキャロラインは派手にダイブすると、そのまま宙を跳んで……


べしゃりと地に墜ちた。


私は彼女を無視してその場に跪くと、ダリアライトの身体を隈無く確認した。

どこにも怪我はなさそうだ。

ホッと安堵して肩を落とすと、私はダリアライトを見上げてほわりと笑んだ。


「お怪我はございませんでしたか?ローズウッド公爵令嬢様」


なにが起こったのか、理解が追い付かない様子だったダリアライトが呆然と眼差しをべしゃりと潰れているキャロラインに向けていたが、ハッとして私に視線を寄せた。

その刹那、ダリアライトの頬がボボッと上気した。


「え、ええ、大丈夫のようですわ、あの、貴女は…?」


私は立ち上がるとドレスの裾をパパッと払ってから、散々練習させられたカテーシーを披露した。それは成果がかなり現れていて、とても優美なものだったと軽く頭を下げながら私は自画自賛した。


「バーナー伯爵家が娘、パトリシア·バーナーと申します」


「わたくしはダリアライトです。よくわからなくて申し訳ないのだけど、助けてくださったのよね?」


「はい」


ちろりとキャロラインに視線を流してから、


「彼女がローズウッド公爵令嬢様にぶつかりそうになっておりましたので、とっさに…」


「そう、ありがとう」


彼女と私の視線が絡まり、なんだかばちりと刺激を伴った音がした気がした。

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