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10 お兄様、ネックレスをプレゼント

アランお兄様の日用品を買い揃え、私の学用品も買い足し、私たちはカフェで一休憩いれたあと、王都散策と洒落込みながらウィドウショッピングを楽しんでいた。


それにしてもお兄様はなかなかスマートなエスコートをなさるのね。


足の長さの違いもあって本来なら私が小走りしなくてはならないのだろうが、アランお兄様がゆったりとした足運びで合わせてくれるので、とても楽に歩けていた。

お兄様の腕に軽く乗せた私の手をアランお兄様の反対の掌がそっと包み込んでいるおかげでキョロキョロとあちらこちらに興味を示しても迷子になることもなかった。


お店の選び方も女性の喜びそうなところばかり。


ちらりと見上げて私は自分のお兄様がいかに美しい男性なのかと思い至る。


なにも仰らないけれど恋人とかいらっしゃるのかしら?


「なんだ?俺の顔になにかついてるか?」


マジマジと凝視されていることに気付いたアランお兄様が前を見たまま聞いてきたので、私は視線を動かすことなくお兄様の容姿を誉めた。


「アランお兄様はとっても綺麗な方なんだな、と思いました」


「は?な?え?あ?」


予想外だったらしい応えに耳まで赤く染めながら狼狽えるお兄様が可愛らしくて、私は思わずくすりと小さく微笑んだ。


「兄を揶揄かうもんじゃない」


ぶすりと低い声で言って、アランお兄様は前方にある店を指差した。


「パトリシア、あそこに行こう」


「はい」


賑やかな王都中央通りに面したその店は全面ガラス張りの洗練された店構えで、ウィドウに飾られている商品を見る限り、アクセサリーを扱っているのだとわかる。


誰かに渡すプレゼントを選ぶのを手伝ってほしかったのかしら?


いつでも剣一筋の武骨なお兄様がどこぞのご令嬢のためにアクセサリーを選ぶ姿はとても想像がつかず、私に相談したかったのか、と考えた。


けれど今日のカフェも学用品のお店もどこもかしこも素敵なところでしたから、お兄様が選ばれるならなんでも趣味が宜しいのではないかしら?


寧ろ、あの壊滅的なドレスを選ぶ破壊的センスの持ち主である私を信じるなんて、その方が美意識を疑ってしまう。


そんなことに首を傾げながら私はお兄様にエスコートされるまま、店内へと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ、バーナー様」


お兄様が入るとすぐにオーナーらしき男性が滑るように寄ってきて挨拶をした。深々と折られた腰からはお兄様がここでかなり散財しているのが見てとれた。


でも誰に?


「あぁ、先日のは?」


「出来上がってございます。ご用意致しますので、どうぞこちらへ」


オーナーに促されて私たちは店奥の個室へと向かった。


「お兄様はよく来られるの?」


囁く私にアランお兄様は身を屈めて答えてくれた。


「母上がね、俺は飾り剣くらいしか買ったことはない」


なるほど、と私は納得した。確かに式典などでアランお兄様が腰に携える飾り剣は見事な宝石で装飾されている。あれは鍛冶屋ではなく確かにアクセサリーの部類だろう。


新しい飾り剣でも買うのかしら?


私はまた美しい剣を見られるのかと期待満面で勧められたソファに腰を下ろした。すぐ隣にどさりとお兄様も腰を据える。


「こちらでございます」


恭しい手付きでオーナーが差し出したのは細工も美しい銀製品で出来たアクセサリーケースだった。アランお兄様が満足げに頷くとオーナーが勿体ぶった大仰な仕草でケースをぱかりと開けた。


「ふん、期待通りの出来映えだな、さすがだ」


アランお兄様の掛け値なしの褒め言葉に相応しい輝きを放つネックレスがそこに鎮座していた。


華奢な鎖に通されたペンダントトップはエメラルドが燦然と光を放ち、その周囲は繊細な蔦模様の銀細工で飾り立てられている。


「なんて綺麗…」


思わず零れた感嘆の言葉にアランお兄様は嬉しそうに眼を細めると、


「気に入ったか?」


と窺ってきた。


「はい」


「これはパトリシアのものだ。防御の魔法が付与されている。学園入学の祝いだ」


大きな手の割に器用にネックレスを手に取るとアランお兄様は私の首にちゃちゃっと着けてしまった。


「できれば肌身離さず着けておけ」


「宜しいのですか?」


驚いた私が慌てた様子で聞けば、お兄様は相好を崩してよく似合っている、と褒めてくれた。


「返されても母上くらいにしかやるところはないからな、今までみたいに俺も傍にはいられなくなるし、パトリシアも学園が始まるだろう?着けていてくれたら俺が安心できるんだ」


そして秘密を打ち明けるようにウインクひとつ投げてから、そっと耳を私に見せた。


「揃いなんだ」


はにかんだ笑顔が眩しい。

私の眼が眩みそうだが、確かによく見ればアランお兄様の耳には同じ蔦模様で囲まれた小さなエメラルドのピアスがあった。


「母上と揃いではマザコンと騒がれる。頼むからパトリシアが着けていてくれ」


頬を赤くして頼む姿に私はふわりと優しさに包まれた気分だった。


「ありがとうございます。大切にします」


私の胸元で揺れるエメラルドにそっと指先で触れてから、お兄様を上目遣いで見つめた。


「でもシスコンの噂が立っちゃいます」


呵呵と笑うとアランお兄様は私の頭をくしゃりと撫でた。


「なに、マザコンよりシスコンのほうがまだ嫁の来手がある!」


確かに!


私は妙に納得してお兄様にお礼を言った。

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