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アイシテルと好き

広い原っぱと、大きな森。

その境目に小さな川が流れています。

そこに一軒の小さな家がありました。


住んでいるのは、これまた小さな男の子一人きり。

物心ついた時には、もう一人きりでした。

そして誰にも会った事がないので名前がありません。

そうですね、仮にアイシテルとでもしましょうか。



太陽は沈み、辺りは暗い夜のカーテンに覆われています。

アイシテルは珍しく、眠る事が出来ずにいました。

今日読んだ本の事がどうしても気になったからです。

本の内容は、悲しい恋愛。

相手の事を好きで好きで、どうしても好きで…。

だけど、相手は自分の事を好きになってはくれず、主人公はボロボロになりなっていきます。


恋愛ってなんだろう?


アイシテルが他の本を読んで知っている「好き」とは、何かが違う気がするのです。

だけれど、何が違うのかどうしても分からず、気になって眠れないのでした。


恋愛は大変なんだ。


考えても、そんな事しか思いつきません。

アイシテルは窓を開けて、外を見てみました。

月が優しく原っぱを照らし出しています。


アイシテルは、自分が好きな物を考えてみる事にしました。



原っぱが好き。

お花が好き。

川が好き。

水が好き。

森が好き。

果物が好き。


お月様が好き。


自分の好きと、本の中に書いてある好きは何が違うのだろう。



雲一つない、明るい月を眺めていたアイシテルは、一つだけ気が付きました。

自分が一番分からない所がどこなのか、という事です。


あの主人公は、どうして悲しいのだろう?


アイシテルには分かりません。



何かを好き。

誰かを好き。

好き。

それはすごく嬉しい事。

それだけで幸せな事。


アイシテルは、人を好きになった事も、人に好きと言ってもらった事もありません。

アイシテルは一人きりなのですから。

それでもアイシテルは悲しいと思う事はありません。

アイシテルの世界では、アイシテルの想いしか存在しません。

アイシテルが好きだと思う、それだけで完結してしまうのです。

好きな人からの、好きと言う感情を独り占めにしたいと云う想い。

自分が好きだと思うだけ、相手にそれを返して欲しいと望む想い。

そんな物は、アイシテルには、決して分かるはずはないのです。



もし、誰かが好きと言ってくれたら…。

好きと思う事より、どれくらい幸せなのかな。

好きと思うだけで、嬉しい気持ちになるんだから、きっと想像も出来ないくらい、幸せなんだろうな。



アイシテルは、分からないままに、知る事の出来ない幸せへの想いを巡らせ始めました。

胸にあったモヤモヤも、いつの間にか無くなって、いつしか寝息をたて始めます。



開け放したままの窓から、月の明かりがアイシテルを照らします。

アイシテルは、誰からも嫌われません。

そして、誰からも好かれる事はありません。

それでも悲しくならないのは、この世界がいつまでも暖かく見守っているからかもしれません。

すやすやと眠る、アイシテルの寝顔を。

いつまでも、いつまでも。

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