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アイシテルと宝物

広い原っぱと、大きな森。

その境目に小さな川が流れています。

そこに一軒の小さな家がありました。


住んでいるのは、これまた小さな男の子一人きり。

彼は今まで誰にも会った事がありません。

だから名前もないのです。

仮にアイシテルとしましょうか。


お日様は今日も暖かく、アイシテルはいつもの様に本を読んでいます。

その本の題名は、『宝島』。

宝を巡って海賊と対決する話です。


アイシテルは首を傾げました。

宝ってなんだろう。

読んでいくうちに、少しだけ分かってきました。

とても大切な物だと云う事です。

アイシテルは考えます。

大切な物って…。


アイシテルは、散歩に出る事にしました。

アイシテルにとって大切な物。

アイシテルの宝物を探すために。


先ずは川へ行きます。

川の水を手で掬って飲んでみます。

少し冷たくて、美味しい。

思いきって飛込んでみました。

と言っても、川は浅いので浮かんだままでも川底に手が着きます。

全身がさっぱりしたので、次は森です。

背伸びをすれば届く所に、食べ頃の木の実が生っていました。

一口かじると芳ばしい香りが鼻に広がります。

お腹がいっぱいになったので、アイシテルはぐるっと森を回って原っぱに出ました。


原っぱでは、赤い花が咲いていました。

花をむしって、根本を吸うと甘い蜜が出てきます。


結局アイシテルは、いつもとさして変わらない道のりで家に帰ってきました。


歩き疲れたアイシテルは、ベットに寝転がります。

そして、考えます。


今日したのは、いつもとほとんど変わらない事。

ですが、アイシテルにも大切な物が見付かりました。


それは、アイシテルを包み込んでいる世界の全てです。


美味しい果物も、良い香りのする木の実も、綺麗な川の水も、家もベットも…。

その全てが無いとアイシテルは生きていけません。


アイシテルの宝物とは、アイシテルが知ってる全ての物なのです。


アイシテルの大切な物は分かりましたが、アイシテルはやっぱり首を傾げます。


大切な物を、どうして奪い合うんだろう。

誰かがいて、その誰かと同じ物を大切だと思う。

すごく素敵な事だと思うのにな。


アイシテルには知りません。

価値とは時に、他人よりどれだけ優位かを計るために在ると云う事を。

そして時に、その大切な物を守るために、お互いが殺し合う程憎しみを抱くと云う事を。

一人きりのアイシテルは知りません。



アイシテルは歩き疲れて、考え疲れて眠ってしまいました。

それを察したのか、窓から差し込む光は赤くなり、そして段々と翳っていくのです。


この世界が大切にしている宝物は、間違いなくアイシテルなのでした。

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