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リアル・セイバー  作者: しき
第1章
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支配者

支配者

 須納瀬栄人(すのせえいと)は困惑していた。

 ここは偏差値最底辺の高等学校、不良のたまり場の教室で平然と授業が行われていた。昨日までは教師に罵声を浴びせていた瀬戸忠二(せとただつぐ)も真面目に教師が黒板に書いている文字をノートに写していた。

「ここまでで今日の授業は終わり、次回も予習、復習を怠らないこと。」

 チャイムと同時に教師は授業を終わらせる。本日最後の授業であるので生徒たちは帰宅していく。

 須納瀬栄人は周囲を観察していた。いつもなら教室でたむろしているグループまで荷物をまとめて帰っていた。気づけば教室は自分と教師のみとなっていた。

「居残りしないで帰った帰った。」

 教師が声を掛けてくる。新米教師草間未来(そうまみらい)だ。

「すぐ帰ります。」

 須納瀬栄人は教室を後にした。

 須納瀬栄人は自宅から近いからという理由で現在の学校に進学をし、入学後後悔した。教室は荒れに荒れ、警察沙汰、登校拒否、自殺未遂など問題が噴出した。教師たちも授業初めにプリントを配った後、教室を出ていき生徒を放置する始末であった。

 あまりに素行の悪いものは退学処分となったがそれは氷山の一角に過ぎず、真面目に勉強するものが常に攻撃の的となっていた。

 須納瀬栄人は特に何かにやる気があったわけではなかったので、とりあえず卒業までの3年間を目立たずやり過ごそうと考えていた。

 今日もいつもどおり授業開始ぎりぎりに教室に到着する。するとそこには真面目に朝のHRを行っている自分以外がいた。須納瀬栄人は眩暈がした。

 須納瀬栄人はとりあえず席に着く、静かな教室の居心地はとても悪かったが耐えるしかなかった。

 1限目の授業は新米教師草間未来の古文であった。生徒たちは自分の偏差値ではわかるはずのない古文の解釈などを真剣に聴いていた。

「須納瀬君!昼休み生徒指導室に来るように。」

 草間未来が言い放った。須納瀬栄人は身震いした。

 あっという間に昼休みが来た。須納瀬栄人はしぶしぶ生徒指導室に向かった。そして、気づけば扉の前に立っていた。

「失礼します。」

 須納瀬栄人は中に入った。部屋にはいつも通り赤のジャージ姿をした。草間未来が立っていた。

「なんで、呼ばれたのでしょうか?」

 須納瀬栄人はいきなり質問をする。嫌な予感がした。早くこの場を離れたかった。

「あなたにはわたしの指導が効かなかったみたいだからもっと強めの指導をしようと思って。」

 草間未来は可愛らしい笑顔で言い放つ。その言葉に須納瀬栄人は恐怖を覚えた。

 草間未来はまるで短歌を詠むように呟きだす。須納瀬栄人は意識が遠のいていく。

「そこまでだ!」

 同い年ぐらいの少年が姿を現す。制服を着ていないので生徒ではなさそうだ。

 少年は大剣を取り出し、草間未来を串刺しにする。その直後我に返った須納瀬栄人を抱え走り出す。

「予定通り屋上に案内するね。右に進んで突き当りの階段を上がって。」

少年のポケットから声が聞こえる。

「逃がさないよ。」

 草間未来は自らに刺さった大剣を抜き、追いかけてくる。外傷はないようだ。

 校内の防火扉が次々と締まり少年の行く手を阻む。少年は片手剣を取り出し薙ぎ払いながら前にするむ。

「次が屋上だよ。」

 また、少年のポケットから声が聞こえる。

「師匠!お願いします。」

 屋上にたどり着くと少年が叫ぶ。

 すると空間の割れ目のようなものができ、少年と須納瀬栄人は吸い込まれた。

 須納瀬栄人は気づいたら四畳一間の部屋の椅子に座っていた。目の前には見知らぬ青年が座っている。

「須納瀬栄人。17歳。ごく普通の高等学生。特技趣味なし。特に目立った友好関係なし。」

 青年は続けて話しかける。

「我は新。貴様を助けた者の仲間だ。」

「先ほどは助けていただきありがとうございました。」

 須納瀬栄人は状況が飲み込めなかったがとにかく話そうと思った。

「やっぱり、あの学校はおかしくなってたんですね。」

「そのとおりだ。あの亜人、草間未来の手によってな。」

 新は説明を始めた。亜人とは悪意の結晶を集めるもので、教室は亜人の手によって悪意の抜かれたものとなってしまったことを理解した。そして、悪意を持たなかった須納瀬栄人に対して洗脳魔法がかけられようとしているとことを助けたとのことだ。

 また、厄介なこと校舎内は草間未来の職能力(ジョブスキル)校則(レギュレーション)によって、支配されており、部外者は常時能力(パッシブスキル)能力無効(スキル・イレイザー)を持っている荒木しか戦うことが出来ないとのことであった。

「このままでは貴様は登校することすらできない。」

 新が冷たく言い放つ。

「どうすればいいんですか?」

 須納瀬栄人は新に尋ねる。特に日常に戻りたい訳ではなかったが、洗脳され他の生徒のように風間未来の人形となるのは嫌であった。

「貴様が戦え。手段は用意してやる。」

 新は赤黒い液体の入った小瓶を差し出す。小瓶の中では液体が波打ちまるで意思を持っているかのようであった。

「これは現存する最後の魔物極小蟲(ナノ・ワーム)だ。異世界の魔王に匹敵する力を持つ。貴様は人格の一部と引き換えに亜人に対抗できる力を持つ。受け入れたら日常には戻れない。」

 あの支配者に一泡吹かせられるな試す価値がある。そう思い須納瀬栄人はその液体を飲み干した。

 飲み干した瞬間、今まで概念すらなかった魔分の扱い方が手に取るようにわかるようになってた。

 須納瀬栄人は高揚感に満ち、亜人の討伐を決意した。

 翌日、須納瀬栄人はわざと30分遅刻をした。当然のように生徒指導室に呼び出される。生徒指導室には草間未来が待っていた。

「あなたは私の指導に逆らったから退学よ。」

「先生は間違ってる!」

「なにが違っているの?あなたも平穏な教室で学校生活を送りたいと思っていたはず。」

「個人を犠牲にしてまで得るべきものではないと思います。」

「それが正しいと思うなら私を超えて見せなさい。」

 草間未来は神々しい魔分を発する。

 須納瀬栄人は登校前に支給された2丁拳銃を取り出し発砲する。当たりはしたが傷はみるみるうちに塞がっていく。

 草間未来は鞭を取り出す。ひとたび鞭を振るうと扉や壁は真っ二つなっていた。

 須納瀬栄人は喧嘩すらしたことのない自分には接近戦は無理であることをさとり生徒指導室から出て距離を取る。鞭はうなりを上げて向かってくる。躱そうとしたが持ってた拳銃ごと右腕が吹き飛ばされる。

 須納瀬栄人は痛みでうずくまる。そして自身の中から極小蟲(ナノ・ワーム)の声が聞こえた。

「情けない奴だ。力を持ったからといってそれが扱えると思ったか。」

「思ったさ。馬鹿な奴だと笑ってくれ。」

 須納瀬栄人は心の中で会話を行う。

「いきなり、宿主がやられても面白くない。一つヒントをやろう。」

 極小蟲(ナノ・ワーム)が話を続ける。

「私がいることでお前は能力(スキル)が使える。お前の今まで使われていない「才」で独自能力(オリジナルスキル)を発動させろ。」

 須納瀬栄人は自分に何ができるか考えた。ふと、昔RPGではじめの村でレベルを上限まで上げゲームをクリアしたことを思い出した。

 草間未来は早めにとどめを刺そうと職能力(ジョブスキル)教鞭(パワー・ウィップ)を使用した。

しかし、鞭は動かない。さらに自信が校舎内で絶対無敵の支配者となる職能力(ジョブスキル)校則(レギュレーション)も発動していないことに気づいた。

「どういうこと!」

 草間未来は目の前に膨大な魔分を持つ須納瀬栄人がいることに気づいた。

 須納瀬栄人の独自能力(オリジナルスキル)は対象の能力(スキル)、魔法、呪術を封じる圧倒的勝利(イージー・ウィン)である。戦闘技術はないのでとにかく全身全霊の魔分を込めて殴り続けた。

 草間未来の魔力はすぐに底をつき、ひたすら謝っていた。とどめを刺すのに気が引けていたところ新が現れ職能力(ジョブスキル)市民平等(ジョブリセット)で草間未来を無力化した。

 こうして、人間ははじめて亜人に対抗するすべを得た。

 



 

 



 

 


 

 









 


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