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「零海=浦川七海なのか?」
荒木は102号室で携帯画面に映る少女に話しかける。
「違うよ、あたしたちは1年前開発されてから1度も性格の更新はされていないもの。」
零海は答える。
「道理でお前の方が性格がいいのか。」
「そんなー。七海ちゃんに悪いよ。」
と言いながらもうれしそうな表情をしている。
「性格のいい零海に聞きたいことがある。木野俊と討伐報酬の件だ。」
「それか。七海ちゃん隠してたもんね。」
その通りである。荒木は隠されていない情報を知る能力がある。
「要は、あなたたち招待枠だけでなく公募枠もあったということだよ。」
情報が画面に表示される。
1年前、浦川七海は亜人の対応について思慮を巡らせていた。
現実の技術のみで対策を講じた場合、亜人に蹂躙される未来しか見えなかった。しかし、浦川七海は不定期に現れる同居人、いのりから異世界の存在を知っていた。そして、異世界につれて行ってもらったとき、亜人討伐計画の実行を決意した。異世界には「才」や能力の概念があり、現実の人間よりも遥かに優れていた。しかし、そのせいもあってか苦手な分野はとことん苦手であり平和になった異世界で戦闘に特化したものは肩身の狭い思いをしていた。最初は世界を勇者のみを呼ぶことも考えたが現実では戦いにおいて重要な要素である魔分がほとんどないことから勇者とその一行の招待枠、戦闘に優れたものを公募枠にて選定した。
荒木は木野俊が公募枠の異世界人Xに討伐されたことを理解した。そして、その討伐報酬は与えたダメージの量で配分されることがわかった。
今回の討伐も零海の機能を複数回利用したこともあり、荒木の手元にはほとんど残らなかった。
「アラン。起きてる?出かけるよ。」
「わかった。ここでは荒木と呼んでくれ。」
木野俊の討伐に大きく貢献したことにより大金持ちとなったくろである。故郷の村に仕送りができるほど余裕があった。最も現実の通貨Nを元居た世界の通貨Tに交換すると半分が手数料としてなくなるのであまりお勧めはしないのだが。
「荒木、映画館とか興味ない?七海ちゃんに教えてもらったんだ。」
「映画か、ちなみにどこにあるのかわかるのか?」
「わかるわけないじゃん。案内してよ。」
「了解。」
くろは無知の知が常人並みにしか使えないのでこの世界のことをほとんど知らない。なので何もない日は2人で現実の街に繰り出すことが多かった。
「七海ちゃんも誘ったんだけど外に出ると死んじゃうらしいんだ。」
「引きこもりの常套句か。」
こうして2人は駅に向かう。荒木には光速で移動できるくろと電車に乗るのが滑稽で仕方なかった。