ダークヒーロー
ダークヒーロー
木野俊は人気のない路地で横たわっていた。
先日の戦闘は彼にとって想定外のことが起こりすぎた。異世界から脅威となる存在が現れることは亜人達の間で噂になっていたが、この世界では亜人が最強の種族であるので特に気に留めてもいなかった。その亜人の中でも上位種である彼は自身を脅かす者が現れることを予測できなかった。
「ぐっ!」
傷がまだ痛む。分身が倒された際魔分を消費するためほとんど魔分は残っておらず、傷の回復にはかなり時間がかかりそうだ。
まだ悪意の結晶を集めたりない、展示会の期限が迫っているので休んでいられない。彼はよろよろと歩き出す。
展示会とは亜人達が集う会である。集めた悪意の結晶を展示し、鑑賞する。出席の義務はないが亜人として認められ格を上げるには出向く必要がある。
彼は向上心の高い亜人であった。悪意のある人間を狩るだけでなく悪意の養殖も可能であることを知らしめたかった。
木野俊はしばらく歩くと、悪意のを持った少年にを発見した。少年は高級そうな腕時計、ネックレス、指輪、その他装飾品を身に纏っていた。すべて盗品の類であることを確信した。
木野俊は上級魔法幻影を唱え、少年に近づく。しかし、少年が手に届く距離までに到達したとき急に身動きが取れなくなった。
「職能力拘束であんたを捕獲した。」
少年は冷たく言い放つ。
職能力は現実では聞いたことのないものである。大体能力は相手に干渉するものは存在しないはずである。その人固有のものである独自能力は枠にとらわれないものが多いがこの世の法則を捻じ曲げた分、魔分を消費するものである。しかし、少年には魔分の消費がほとんど感じられなかった。
木野俊は近くに待機していた分身を呼び寄せようとした。だがその前に少年の独自能力強制徴収が発動し、分身は消えてなくなった。少年はいつの間に2人になっていた。
木野俊の悲鳴が路地裏にこだまする。少年はとどめを刺したあとすぐにその場をあとにする。
「さすがケイト、異世界の大盗賊!」
携帯端末から声が聞こえてくる。
「今ので10億か。ここは楽園だぜ!」
ケイトは携帯端末を見ながらつぶやいた。