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リアル・セイバー  作者: しき
第1章
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悪意を愛でるもの

悪意を愛でるもの

岡元芳樹(おかもとよしき)は狼狽していた。

 また、テストの点数が平均点以下であった

 ここ1か月いままで以上に勉学に励んだ。進路を決める高等学校2回生の時期にこの結果は本人にとっては致命的であった。

「気にするなよ。俺も同じようなもんさ。」

 友人の鏡信也(かがみしんや)は自身の成績表を見せながら話しかけてくる。

「ああ。」

 生返事をしながら岡元芳樹は呆然とした。

 授業が終わり、塾が休みであったので気分転換にいつもとは違う経路(ルート)を帰ることとした。電車に乗らず人混みを避け、人通りが少ない道を歩いた。歩いていると目立つ白いスーツを身に纏った青年が目についた。

 岡元芳樹には人並みの常識があり怪しい人物であることを察して目線をそらしつつ通り過ぎようとした。

「きみは変わりたいんではないのかい?」

 青年の言葉に岡元芳樹は立ち止まる。

「どういうことでしょうか?」

 岡元芳樹は青年に尋ねる。

「僕は木野俊(きのすぐる)。ちょっとした奇術が使えてね。」

 明らかに怪しいが岡元芳樹は聞き入る。

「この光を受けいれれば願いが何でも叶う。」

 木野俊の右手の平には光があった。その光は淡いもので幻想的なものあった。

「なんでも?」

 岡元芳樹は聞き返す。

「本当に望むものであるならば。」

 岡元芳樹は少し迷ったが頷きそれを受け入れるしかなかった。

 1か月後、岡元芳樹は学年で1位の成績を修めた。それどころかあらゆるスポーツ、芸術、その他で才能を開花させ学校中の注目の的であった。岡元芳樹の周りには教えを乞う人、部活の助っ人を頼む人が殺到した。

「この問題教えてくれるかな。先生の話分かりづらくって」

「この問題はこうすれば解けるよ。」

 岡元芳樹は女子生徒の持ってきた難関大学の入試問題をすらすら解説してみせた。

「ありがとう。」

 女子生徒はお辞儀をすると自分の席に帰っていった。

「岡元くんってやばくない。」

「岡元のことを神と呼ぶことにした。」

 彼に対する賛辞が聞こえてきて彼は悦に浸っていた。

「お前すごいな、あれから1か月でなにがあったんだ。」

 鏡信也が話しかけてくる。

「お前ものんきにしてないで他の人みたいに努力したらどうだ。」

 岡元芳樹は嫌味を言った。

「感じ悪!」

 鏡信也が離れていった。

 塾が終わったあと、岡元芳樹は岐路につくこととした。もっとも塾で学ぶことはもうないのであるが。

 なんとなく、1か月前と同じ経路(ルート)を歩いたとき、白いスーツを身に纏う青年は現れた。

 今度は自ら青年に近づいた。

「ありがとうございます。おかげで願いが叶いました。」

 岡元芳樹は丁寧に感謝の気持ちを伝えた。

「こちらこそありがとう。僕の渡した傲慢(プライド)をこんなに育ててくれて。」

「えっ。」

 顔をあげるとそこには黒く淡い輝きを放った青年がいた。岡元芳樹は人ではない何かであることが直感で分かった。

 岡元芳樹が死を覚悟したそのとき、青年が一歩引き、光のような速さの矢?が目の前を通って行った。

「惜しい!」

 携帯端末から残念そうな声が聞こえる。超高級ガイド役の零海の声だ。

「おかしいな。死角から狙ったはずなのに。」

 荒木は首を傾げる。しかし、考察は程々にしておく。荒木は相手の能力(スキル)に合わせて対応するより、自身の能力(スキル)を押し付ける方が遥かに有効であることを知っていた。

 荒木はすぐさま武器を弓から双剣に持ち替え、青年との距離を詰めた。そして、至近距離ににて斬撃を放ち続けた。青年は何とか紙一重で斬撃を交わし続けるもうめき声を上げた。荒木が精製する武器は魔法武器であり、かわしても蓄積ダメージを受ける仕様となっている。青年は距離をとり膝をついた。

「これはいったん引くとしましょうか。」

 青年は上級魔法幻影(ファントム)を唱えると煙のように消えてしまった。

「補足できるか?」

 荒木はアプリに尋ねる。

「痕跡が全くないから無理。」

アプリは残念そうに答える。

 荒木は呆然としている同い年ぐらいの少年に目をやる。

 少年はぼそぼそと「僕は悪くない。」と呟き続けていた。

「これからどうする。」

 荒木はアプリに問いかける。

「とりあえず連れて行ってみましょうか。」

 荒木は少年を抱えて岐路についた。

 数時間後目を覚ました岡元芳樹は四畳一間の部屋にいることが分かった。

 そこにいた年上の少女がパソコンをみながらにやにやしていた。

 パソコンの画面には有名なネット掲示板9ch(ちゃんねる)であった。画面には不特定多数からの書き込みがあった。

「うける-。」

 少女はつぶやきながら画面をスクロールする。

「あなたは誰ですか?」

岡元芳樹はおそるおそる尋ねる。

「あたしは浦川七海、このアパートの大家。よろしくね。」

 岡元芳樹はこの国有数の財閥である浦川財閥を連想した。一族の1人であることが恐らく間違いないだろう。この国を先導(リード)していく存在である人間が昼間からだらだら過ごしていることに不快感を覚えた。

「あなたはなんでここにいるんですか?」

「その質問は0点ね。」

 「なんなんだこいつは。」と思ったが仕方なく質問を変えた。

「9ch(ちゃんねる)好きなんですね。もしかして最近施行されたインターネット言論完全自由法はあなたの仕掛けですか?」

「表現の自由は大切だと思うよ。だって面白いじゃん。」

 図星のようである。この悪法はかなりの犯罪を助長したと噂される。こいつがこの世の諸悪の根源のように思えた。

「あたしは、この子たちを亜人から守りたいの。」

 浦川七海は掲示板にある罵詈雑言を見ながらそうつぶやいた。

 亜人?岡元芳樹は聞きなれない単語だと思ったが自身の置かれている状況から単語の意味を連想した。そして、先ほどの戦いは決して正義対悪の戦いではないことをなんとなく理解した。

「あなたには選択肢がいくつかある。どうするの?」

 なにもヒントを与えてくれない。恐らくほとんどの選択肢は死もしくはそれよりも恐ろしいことが待っているだろう。岡元芳樹は少し考え、自分なりの答えを出した。

「協力するので僕を助けてください。」

 特に返答はなかった。

「おーい起きたか?」

 ドアから聞いたことがある声が聞こえてくる。先ほどの少年の声だ。

「彼について行って。」

岡元芳樹はおもむろに起き、ドアを開けた。

 それから荒木、岡元芳樹は河川敷に向かった。岡元芳樹は荒木に抱えられ高速移動で揺さぶられたので全身の痛みで倒れた。そして、荒木は岡元芳樹に殺意の刃を向けた。

 「やめたまえ!」青年は大きな声を上げ、姿を現した。

「亜人の情報を表示するね。」

 携帯端末には青年の顔写真が映し出された。

 木野俊。25歳。奇術師として各地に現れる。彼による犠牲者数は1000人を推定される。討伐報酬ランクSの大物である。多彩な魔法と能力(スキル)を使用する。

「今度は正面から戦おう。」

 青年にとって倒れた少年の悪意に代わるものはないのだろう。

 荒木は逃走魔法を封じる初級呪術四面楚歌(キャッチ・フレーズ)を唱えた。これにより3分間相手の退路を断つ。呪術とは相手に負の状態異常を与えるものだ。

 続いて両手剣を精製し、青年の弱点を切り裂いた。2度目の戦闘より、動きが読みやすいことから威力のある両手剣を使用していた。青年は悲鳴を上げ崩れ落ちる。しかし、ほぼ同時に青年の声が聞こえる。左には無傷の青年が立っていた。先ほど倒した青年も新たに表れた青年も本人であろう。

「これが僕の独自能力(オリジナルスキル)無限増殖コピー・アンド・ペーストだ。」

 こうしている間にも2人、4人,8人と増えていく。荒木にとっては最悪の相性であった。

 こっちの世界では人間は初級魔法しか扱えず初級魔法には範囲攻撃ができるものがない。倒すスピードが増殖速度に追い付かず、あっという間に荒木は囲まれた。魔分も残りわずかであった。

 勇者といえどもあっけなく終わりは訪れるものである。最後に元居た世界で共に戦った仲間のことを思い出した。今思えば相手の能力(スキル)を甘く見ていたことを反省した。

 荒木があきらめかけたそのとき、豪風を伴う物体が戦いの場に降り立ち、敵の軍勢を薙ぎ払っていた。あまりの速さに目がおいつかないので能力(スキル)凝視を用い、状況の確認をした。その物体はかつての仲間の1人、クロゼッタであった。

 彼女は独自能力(オリジナルスキル)刹那を使い、何よりも早く行動することができる。その無駄に余りある「才」ほとんどを物理攻撃特化に費やした馬鹿である。魔法耐性が皆無であるため序盤の町に置いてきた。

 クロゼッタは一息入れる間もなく敵を蹴り飛ばし続ける。敵は目に見える範囲からは姿を次々に消していった。

「そんな馬鹿な。」

 敵は驚きを隠せなかった。だが最後の数人が補足され魔分量も相当消費された窮地の状況で四面楚歌(キャッチ・フレーズ)の効果が切れたことに気づき幻影(ファントム)を間一髪で唱え切った。クロゼッタが目標を見失った隙をつき岡元芳樹の方に回り込んだ。

「しまった。」

 クロゼッタが叫んだとき、もうすでにその悪意は回収されていた。

「この屈辱いつか晴らさせてもらう!」

 捨て台詞(ぜりふ)を吐き煙のように消えてしまった。

「わたしを置いて行ったこと後悔しているでしょ。」

 クロゼッタが荒木に近づく。その姿はジャージに短パン。と女子高等学校生を思わせるものであった。

もとの世界では髪を伸ばしていた記憶があるが、現在は短く切ってある。

「いいや。そしてなぜ来た?」

 クロゼッタは強いが脆い。荒木は仲間の危険(リスク)に敏感であった。自分の身は守れるが仲間を守れる自信はなかった。それは、現在も変わっておらず1人目の仲間として彼女が来たことに対して複雑な感情を抱いていた。

「なんでそんなに冷たいの!」

 クロゼッタは殴り掛かってきた。荒木は防御魔法は間に合わないのでダメージを負うも常時能力(パッシブスキル)自動回復(オート・ヒーリング)で瞬時に回復する。そして、初級魔法反射(リフレクト)で反撃すると彼女は倒れこんだ。彼女は涙目になっていた。

 いつものノリで雑にあつかってしまったが助けてもらったのは事実なのであとでお礼をしようと心のどこかでは思っていた。

 今回の討伐は失敗だった。戦力増強は急務であることを痛感した。

 

 


 

 



 

 



 



 

 




 




 





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