不愉快な現実
不愉快な現実
「ふざけるな!」
荒木は激怒した。
アパートの大家、浦川七海と金髪碧眼美少女、いのりは鍋をつついているところだった。
「静かにしなさい、近所迷惑。」
浦川七海は窘める。
ここはアパートの101号室、このアパートには大家以外住んでいる者はいない。
つっこみそうであったが荒木はなんとか堪えた。
「なんで財布が1000Nなんだ!」
荒木は携帯端末の残高表示画面を見せ、亜人の討伐報酬の一億Nがなくなっていることの説明と求めた。
「携帯代、それ定額制ではないんだよね。」
どうやら多機能型亜人探査DB、零海の通信料らしい。
確かに言わんとしていることはわかるが理解したくなかった。1000Nは中等学校生の平均お小遣い額程度であった。これはあまりもひどい。
「こんなの聞いてないぞ。」
荒木は浦川七海を問い詰める。
「あなたは未成年、身元保証人のいのりちゃんと契約しているから問題なし。」
この二人はぐるであった。
荒木は、怒りに身を任せて鍋が乗っているテーブルをひっくり返そうと思った。
しかし、いのりの精神系魔法によってその怒りは消えてしまった。
この部屋には魔分生成器があり、魔分が満ちていた。それを利用すれば上級魔法である喜怒哀楽を使用するのも大魔導士のいのりにとってはたやすいことである。
「ゆるせ、でし。すべてはせかいへーわのため。」
いのりはもぐもぐしながら話した。
勇者はあくどい大人に屈した。
「この携帯を解約してくれ。」
「それがないと亜人を見つけることはできないよ。」
浦川七海は探査魔法が使えない荒木の弱みを突いてくる。
「あいつさえいれば。」
荒木はもとの世界で出会った、仲間のことを思い出す。
魔王城の直前まで同行させたのは最上級支援魔法を使える賢者ただ1人だった。彼がいたからRTAをするかのように最短ルートで魔王城にたどり着いた。彼がいればこの状況を逆転できる。
「師匠、私の仲間を連れてきてはいただけませんか?」
「いま、すかうとちゅーなのだ。」
どうやら最初からそのつもりらしい。
師匠は鍋を平らげるとご馳走様と一言残し転移魔法で消えていった。どうやら、自分のみの転移は詠唱省略できるようだ。
「まあ、冷蔵庫にあるものとっていって。」
浦川七海は鍋の具材がなくなったことについては申し訳なく思ったのか冷蔵庫を指さした。
荒木は菓子パンを取り出し101号室をあとにし、102号室で出動を待つこととした。
荒木の財布の残高からきっちり100Nが引かれていた。