小細工
勇者荒木は戦力の確認を行った。一般人須納瀬。まだ魔分消費量はわずかであり奥の手は使っていない。武闘家くろ。魔分は消費したが体力で戦うのでまだそこそこ戦える。勇者荒木。以外にも消耗していた。攻撃魔法、補助魔法、先ほど回復魔法を使用しあと3戦あると思うと心もとない。
だが、展示会が終わると再度支配人を設定できるらしいのですべてが水の泡となる。休んではいられない。
荒木が扉を開くと案内人、堤信吾がいる。第三階層ともなると亜人の数も少なくなりテーブルで会食を楽しむものもいた、使用人らしき者も数人いるのでより豪華な雰囲気がある。
今回も勇者一行は別室に案内されるとそこには一人の老人が椅子に座り読書をしていた。
「手塚さん。連れてまいりました。」
「よろしい。」
老人は頷く。
「お前がここの支配人か?」
荒木は尋ねる。
「いいや違う。ところで今回はここで引いてくれないだろうか?」
「断る。おれたちは戦うために来た。」
「亜人たちの心は乾いている。この展示会はそれを少しでも癒すためのものだ。この場が失われると暴動がおきるぞ。」
「お前と話をしに来た訳ではない。支配人を出せ。」
荒木は交渉術など持ってないのでとにかく要件を伝える。
「仕方ない。支配人はどこかにいる。探してみることだ。」
老人は消えていった。
「零海。反応はあるか?」
「残念。全くないの。本当に要るのかしら?」
恐らくあの老人の仕業であろう。この亜空間は支配人がいないと成り立たないらしいのでここにいることは間違いない。
「ここは任せてください。」
一般人須納瀬が宣言する。この一般人には小細工の類は全て通用しない。
圧倒的勝利により、小賢しい魔法がすべて消え去ると拘束衣を着た少女が浮かび上がる。
「見つかっちゃったか。」
この少女はどうやら立ち上がることさえできないらしく横になりながら呟いていた。
「零海。こいつは戦えるのか?結構魔分は持っているようだが。」
「この子は縫目神奈。多分非戦闘員だよ。」
荒木はがっかりする。恐らく抵抗しない相手に攻撃するのには気が引けるだろうという安易な作戦である。だがその作戦も対策済みである。
市民平等。新の独自能力創造主によって荒木に授けられた使い捨ての能力である。戦闘不能となった相手の特性、全ての能力、経験値、その他諸々を徴収する凶悪な能力である。それは「亜人」「支配人」という特性さえも例外ではない。
縫目神奈はよからぬ気配を察したのかじたばたする。
しかし、能力は発動し、支配人のいなくなった亜空間が崩れ落ちる。
勇者一行はまた扉の前に戻される。第3階層については釈然としない部分が多い。亜人DB上には縫目神奈の情報はほとんどなかった。
今は知るすべがなかったので考察をやめ、次の扉を開けることとした。




