襲撃
襲撃
「ところでこんな堂々と侵入していいのか?」
「全部新と作戦打ち合わせてるから問題ないよ。」
荒木の質問に案内アプリ零海は答える。だが、荒木の求めている返答ではなかった。
今回の討伐メンバーは3人。勇者荒木、武闘家くろ、一般人須納瀬であった。目的は亜人たちの集う展示会の襲撃。これまで行ってきた討伐と訳が違う。くろは精神系能力を使用し落ち着こうとしていた。須納瀬は身を震わせながらなんとかここまでついてきた。
3人はとあるビルの扉の前にいる。ここが展示会に続く扉である。最も展示会の会場はここではなく、この扉から続く亜空間にある。展示会では5つの亜人が作り出した空間である亜空間で開催され。それぞれの空間に支配人がいる、今回の目標は5人の支配人である。
「開けるぞ。」
荒木は後ろを向く。2人は頷く。
扉を開けると美術館のような気品のある空間が広がっていた。最も飾られているのは芸術作品ではなく悪意の結晶であった。そこには悪意の結晶を鑑賞して回る正装の亜人たちの姿があった。
「ここは第1階層。来場回数の少ない客の転移先よ。」
零海は説明する。どうやら来場回数によりたどり着く階層が違うらしい。
「この亜人たち、襲ってこないね。」
「亜空間内では支配人以外の戦闘行為は原則禁止されているみたい。」
くろの問いかけに零海は答える。
それにしても、相変わらず亜人と人間の違いは見当たらない。ただの富裕層の集まりに見える。新は亜人とは単なる職のようなものだと説明していた。新が職をはく奪した者にサリーと草間未来がいたが、2人とも亜人としての能力はなくなっていたようだった。
「ようこそ。招かれざる者たち。」
目の前に細身の青年がいた。
「堤信吾。展示会の運営メンバーの一人よ。」
零海は説明すると3人は身構える。
「違うよ。僕は戦う力はないんだ案内しに来ただけだよ。」
堤信吾は奥の扉を指差す。
「客に危害を加えられるとまずいんだ。」
荒木は堤信吾に報奨金が掛かっていないか確認する。どうやら雀の涙程度のものであった。荒木は堤信吾を無視し、扉を開けるとあたり一面の砂が広がっていた。
「長浜領事。S級亜人よ。人をやめてモグラにでもなったみたい。」
亜空間は支配人の意思で自在に形成されるのでそういうことなのであろう。
「須納瀬!極小蟲の力を使え!」
須納瀬は扉を出て練習したとおり魔分の網を張り巡らせる。くろは様子を見て自分は不利だと察したのかこちらに来ず扉から応援している。
須納瀬は自身では何もできないが短期間で極小蟲の扱い方がなんとなくつかめてきたようであった。
「いた!人間の大きさじゃないけど。こっちに向かってくる。」
あいにく荒木は全方位の魔法は使えないので跳んで空中戦を挑むことにした。恐らく須納瀬でなく自分を狙っていることが能力第六感で分かった。
地表から敵が姿を現したのは一瞬であった。武器は間に合わないため、初級攻撃魔法雷撃で敵を貫いた。こちらも吹き飛ばされはしたが能力物理無効で無傷であった。
「ぐおおおおー!」
人ではないような声がした。
敵はまた砂の中に潜る。しかし、極小蟲の独自能力環境汚染であたり一面の砂は毒素で満ちていた。亜人は1分もしないうちに浮かび上がってきた。人間と親和性があるとはいえ災厄級の魔物が味方になって敵を倒すのは滑稽ではあった。
亜空間は崩れ去り、3人は扉の前に戻る。どうやらこれをあと4回繰り返すの必要があるらしい。
荒木は新が来ていない理由を察した。




