テスト期間到来
「・・・もう一度聞く。なんでここにコイツがいて、俺らと一緒にランチタイムを過ごしているんだ?」
愁はびしいっと自分の目の前に座る男子高生を指さした。
体育祭後日。
いつも通り屋上で昼食をとる日課だが、今日は少しメンバーが増えていた。
「同席したら悪いか?」
首をかしげたのは北斗。
黒羽やいなりとの会話に水を差されたことを特に気にもせず、純粋な疑問をぶつけている。
「悪いも何も、俺あれ以降記憶ねえんだけど。何があった。」
「何もありませんよ。」
愁の記憶を飛ばした超本人であるいなりはというと、そんなことはもうなかったというような涼しい顔でもくもくと弁当を食べていた。今日の献立は鯖の煮つけとおからと大葉の和え物。佐助の料理の腕がひかる品たちである。
「いやあっただろ。」
「ないです。」
「あった!」
「ないです。」
しつこい追及を軽くいなし、いなりは箸を進める。しっかりと味の染み込んだ鯖はとても美味しく、ご飯がすすむ。
「あ、そうだー!ねえねえ、今回の中間の生物の範囲なんだけどさー。」
「確か教科書の最初から三十頁まででしたよ。」
「ありがといなりー。・・・なんで愁は地獄を見たような顔してんの?」
そこには、先程まであんなに騒いでいた愁ではなく、絶望に顔をゆがませた愁がいた。
静かどころか、呼吸音さえ聞こえてこない。
「な、なにかなー・・・?ちゅうかんてすとってなーにー?おいしーのー?あははははは。」
死んだ魚のような目で宙を仰ぎ、壊れたラヂオのような声を出す愁。
「中間テストは定期的にある高校の試験で確か来週の――」
「冷静に答えなくていいわキリン野郎!!」
そろそろ気でも狂ったのか愁は頭を床に打ち付けだす。だが、愁の方が頑丈なので、屋上の方にひびが入り初めました。
「あー!なんで高校に入ってもテストなんかやってくるんだあああ!赤点取ったら夏休みが休みじゃなくなる!!」
この学校の方針は文武両道。もし、今回のテストと一学期期末テストで赤点をそれぞれ三つ以上取った場合、夏休みに補習地獄が待っている。とはいえ、夏は部活動にとっても大事な時期なので部活動のない時間に限る。つまり、ほぼ毎日学校に来なくてはならない。
「こいつ・・・、馬鹿だとは薄々感じていたが、まさかこちらの面も馬鹿だったとはな・・・。」
北斗の冷たい視線が愁をぶすぶすとさす。
先日といい、最近愁の扱いが手荒くなってきたような気がする。
少しだけ、爪の先の部分程度に愁が可哀想に思えたので、いなりは助け舟を出してやることにした。
「今回の範囲、私も不安な箇所があるので勉強会でもします?」
「あ、それいいねー。場所どうするー?」
パチンと指を鳴らして賛同する黒羽。察しが良くて助かる。
「妥当なのは長居のできるファミレスか、公民館の共用スペースですかね。」
「でも公民館じゃ喋れないっしょー?」
提案しといてあれなのだが、いなりは勉強会というものをやったことがなかった。
基本いなりの勉強スタイルは家で毎日コツコツタイプである。テスト期間はチェックしておいた箇所の見直しや、問題集の解き直しを一人でもくもく進めるので複数人での勉強の勝手がよくわからなかった。
どうしたものかと三人で頭をひねらしていると、ここでもやはり救世主が現れた。
「俺の家があいているからそこでやらないか?」
それは、北斗の発言だった。
思いがけぬ人からの救いの手に、三人は目を見張る。
「なんだその目は。」
「いや、なんつーか・・・。」「・・・意外だなーって。」「以下同文です。」
心外だと言わんばかりに北斗はため息をついた。だが、いなり達も別に悪気があるわけではない。
北斗はどちらかというと真面目そうに見える。勉強会はむしろ嫌う方かと思っていた。
そんな相手からの申し出。このような反応になるのも仕方がないというもの。
「俺の家、今は爺さんしかいないしな。場所もあるし、ファミレスよりは静かだぞ。」
「え、マジでいいのか?」
これはお言葉に甘えるしかないだろう。
「では、テストが来週の木曜日からなので日程は今週の土曜日でいいですか?」
「賛成ー!」




