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呼び出し

「ついに・・・ついに終わってしもた」「俺らの夏休みぃぃぃいいい!!」

「うるさいです。」

「やかましいー。」

「新学期早々辛辣すぎだろ。」


 登校初日、そうそう騒ぐ馬鹿コンビ。久しぶりの教室で再会を喜ぶも、突っ込むのがめんどくさくなってきたと黒羽と顔を合わせ、いなりはため息をついた。

 夏休みが終わり、いよいよ二学期が始まった。熱さはまだまだ続いているが、それでも季節の変わり目の一つであることを肌で感じる。

 そんなふうに周りの空気は変化を遂げているというのに・・・相変わらずこのメンバーは通常運行のようだ。

 

「あーあー、ほんとあっという間に終わっちまったなー、夏休み。」

「いつまで名残惜しんでいるんですか。」


 そんなこんなで四人はそれぞれの休み期間中の出来事をぽつぽつと話していた。その内容の大半を占めていたのは新宿で三人が遭遇した事件のことだった。

 

「・・・はー、うちがおらへん間にけったいなことあったのか。っち、バンド練休めばよかった。」

「おい、休むなよ。全然面白くねえから。」


 出かけ先で偶然遭遇してしまった奇怪な暴漢事件。東京の都心部で起きたというのもあって、その後ニュースで結構大きく取り上げられた。夏休み中というのもあって、いなり達以外にもその場に居合わせた八坂高校生徒がいたということがあって八坂高校内の噂話もその事件の話でもちきりだ。

 面倒事には自ら首を突っ込んでいくことを好む八重は、自分がそこに関われなかったことを悔しがっているのである。

 そんな話をしているうちに、教室の扉が一際大きな音を立てて開かれた。


「あれ、今日大丸(だいまる)来るの早くね?」

 

 大丸というのは、いなりのクラスの担任のあだ名だ。

 大和(やまと) (まる)という、どこの軍艦の名前だと言いたくなるような名前であるので、生徒達からは大丸という愛称で親しまれている。

 いつもならチャイムと同じタイミングで入ってくる大和だったが、なぜだか今日は来るのが少し早い。些細なことかもしれないが、それは四組の生徒にとってはかなり驚くことである。体育科教師で生活指導員である大和は非常に時間に正確だ。五分前集合はあまり心掛けないが、本当に時間ぴったりにやってくる。そんな“歩くストップウォッチ”の異名を持つ大和が時間ぴったりにやってこないのは、生徒達に何かあったことを匂わせるのに十分だった。

 そのように生徒に思われているのを知っているのかいないのか、大和はいなり達の座るわる席の方に向かってきた。


「吉祥寺、松林、大江山、お前らちょっと来い。」


 ざわざわと教室内の生徒達が話す中、大和はいきなりそんなことを言い出した。


「え、なんなんすか?」

「来客だってよ。」

 

 愁が軽い調子で聞くと、大和は嫌な顔せず答える。


「俺も詳しくは知らんが、事務員さんたちがとにかく呼んできてくれと。」


 事務員というと、事務の先生方のことだ。つまり相手方は直接ではなく、わざわざ学校を通して会いに来たということである。

 いなりは今のところ思い当たる節がないが、黒羽と愁も心当たりがないようだ。


「なんや、三人して全く理由が分からへんの?」


 八重が不思議そうに首をひねっているが、本当にないのだ。

 とりあえず、さっさと来いと先生に催促され、いなり達は担任について教室を出た。




◇◆◇




 連れていかれた場所は学校の応接室だった。適当な教室ではなく、応接室。校長先生がお偉いさん相手しか使わないような部屋だ。

 室内には大理石の高そうな商談机が真ん中にどんと構え、向かいあうように革張りのソファが二つある。机の上にはやっぱりこちらも高そうな、どこぞの匠が作ったであろう壺が花も生けられずに飾ってある。

 そのうちの一方にいなり達は腰掛けていた。随分悠長なものだが、どうやら、呼び出しというよりも客人が来るらしい。大和は既に退出してしまい部屋には三人だけが残され、客人の到着を待っていた。


「一体なんだってんだ。俺らいつの間にそんな偉くなったけ?」

「それは絶対ありえません。」

「だよねー。ていうか、なんでまた僕らなん」


 ドアが開いた瞬間。

 会話が途切れた。

 その変わりに、三人の間に緊張が走った。

 ここにいては危険だと。こいつらは危険だと。

 入ってきた奴がどんな奴なのかは分からない。知らない。それどころか、まだ顔さえも見ていない。

 だけれども、考えるよりも先に本能が告げた。


「待たせて悪かったな。」


 入ってきたのは中学生くらいの見た目の青年と不健康そうな男の二人組だった。

 青年の方はスーツを随分ラフに着ており、ワインレッドのカラーシャツを着ている上に首にチョーカーを巻いている。見た目だけならただの粋ったチンピラ中学生だ。

 もう一方の男の方はきちんと剃っていないのかまばらに髭が顎に残っており、髪もぐしゃぐしゃとしている。目の下にはどす黒い隈ができており、瞳はまるで死んだ魚の目だ。


「一体何の用でしょうか。ただの()()()には見受けられませんが。」


 いなりは絞り出すように、声をかける。

 沈黙すること数秒。ピリピリとした空気が、五感を刺激する。

 刹那。

 先に動いたのは愁だった。愁は首元のお守りに手を伸ばす。

 だが、袋が開けられる前に二つの銃声が響いた。

 一つは愁の顔のすぐ横を通り過ぎ、もう一つはいなりと黒羽のすぐ足元に撃ち込まれる。


「動くな。」


 見た目に反した低い、ドスの効いた声が室内に響く。

 青年の手には二丁の拳銃。

 銃口からは薄青い煙が一筋、立ち上っていた。


「いいのー?ここ一応学校なんだけどー。そんな物騒な物ほいほい持ってちゃ、お巡りさんに捕まっちゃうぞー。」

「悪いが、そのお巡りさんってのは俺らだ。」

 

 青年の目が鈍く光り、三人を見定める。


「単刀直入に言う。」


 その睥睨(へいげい)は、幾千もの戦場を抜けた兵士のような鋭さがあった。


「警視庁特殊組織陰陽寮だ。半妖狐(はんようこ)・吉祥寺 いなり、半鬼(はんき)・大江山 愁、および鞍馬の烏天狗・黒羽の三名、同行を願う。」



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