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9話



「どれどれ……」



 クエストボードに張られたクエストが記載された用紙を一つ一つ確認していく。

 依頼の主な内容はモンスター討伐系のものが多いが、採取系や護衛任務などのその他のクエストもちらほらと見かけた。



 討伐系や護衛などは僕の冒険者としてのスタイルにあまり向いていないし、今のランクでは受注自体ができないクエストが結構ある。

 まあ受注が可能になったところでやるつもりはないのだが……。



「とりあえず、このクエストで様子を見てみるか」



 僕のランクで受注可能なクエストの中で、様子見を兼ねたクエストがあったのでそれを受けることにした。それがこれだ。



 【ルナー草の採取】


 ランク:F



 依頼内容:プリマベスタ近郊に自生するルナー草20本の納品



 報酬金額:銅貨5枚




 ちなみにルナー草は、回復薬と呼ばれるある程度の怪我であれば立ちどころに直してしまう薬の調合に使われる薬草で、別称としてポーションと呼ばれることもある。

 怪我に効く回復薬の他にも解毒薬や魔力回復薬など使用される用途は多岐に渡り、薬師により依頼は常に出され、常に不足している素材でもあった。



 自生している場所も様々で、比較的安全な場所に自生することが多いため駆け出し冒険者がよく受けるクエストなのだが、同じランクの討伐系クエストであるスライム3匹の討伐報酬が銀貨1枚のため駆け出し冒険者の間でも敬遠されるクエストの一つでもあった。



 今回受けるクエストも決まったので、掲示板から依頼書を剥がして受付カウンターに持っていく。

 今回担当してくれたのはカリファーではなかったが、僕の事を知っている人だったため僕の持ってきた依頼書を見て怪訝な表情を浮かべている。



「あの、失礼ですがルーク様ならもう少し難易度の高いクエストを受けられるのでは?」


「そうなんですけど、ソロでの活動に慣れておりませんので最初はこれくらいの難易度から始めてみようかと思ったのですが、ダメでしょうか?」


「い、いえ、そういう事でしたらこちらとしては構いませんが……」


「ではこれでお願いします」



 職員としてはもっと難易度の高いクエストを受けて欲しいというのが本音なのだろうが、身の丈に合わないクエストを受けて死んでしまっては元も子もないのだ。

 こういのは慎重すぎるくらいでちょうどいいと僕はそう考えている。命あっての物種っていう言葉もあるしね。



 クエストの受注を済ませた僕は、その足でさっそくルナー草のある場所へと出発するべくギルドを後にする。

 大通りを進んでいくと大きな門が見えてくる。そこに在中している門番にギルドカードを提示し街の外へと出かけた。



 プリマベスタには三つの街道が伸びており、それぞれレイブンフォール・ヴァレール・アダムルムテスと繋がっていて特にこの国の王都であるアダムルムテスを繋ぐ街道には多くの旅人や馬車を引く行商人の姿を見かける。

 それぞれ順に南東、北東、北西に向かって整備された街道は、ラトリア王国屈指の兵士たちが日々警邏の目を光らせているため、比較的モンスターや野盗の類はある程度間引かれている。



 街道に沿ってしばらく歩き続けて三十分の位置に、小規模の林を発見した。

 奥に進めば進むほど木々が鬱蒼と茂っていき、最終的には深緑が彩る名も無き森へと繋がっているようだが、その手前の林であれば迷う事もないしモンスターの襲撃にも対応できるだろう。



 林に入るとさっそくルナー草が群生している場所を発見する。

 採取の方法としては、根っこの部分も薬の材料となるためできれば土ごと採取するのが望ましいとされているが、根元から丁寧に引き抜く方法で採取する。



「これくらいにしとくかな」



 その場に自生している薬草を全て採取してしまわないように数本は残しておく。

 こうすることで再び増えていってもらい、そこで定期的に採取ができるようにしておくのだ。



 マナーの悪い冒険者は、そんなことを気にせず全て取りつくしてしまうことが多いが、それでは二度とその場所から採取することができなくなってしまう。

 どんなことにおいても言えることなのだが、何事もやり過ぎは厳禁なのである。



 その後場所を移して行くと、食べられるきのこや薬の調合で使える毒草なども見つかったので、こちらも一定数を残して採取した。

 自然の恵みの恩恵にホクホク顔で採取していると、ふと嫌な視線を感じた。



(この気配は……人の物じゃないな)



 そう思い辺りに視線を巡らせるとこちらに向かってくるモンスターの群れが現れる。

 全身が黒みがかった緑色の肌に覆われ、手にはそれぞれこん棒や木でできた不格好な盾などの原始的な装備を身に纏っている。

 体長はおよそ100から120センチ前後の人と比べて若干小ぶりな体型をしており、どの個体も見た目が醜悪なものばかりだ。



(なんか僕の知ってる【ゴブリン】ってモンスターに似てるな。でもゴブリンの身体の大きさは2メートルくらいだし、小型ゴブリンってやつかな?)



 などと余計な考えを巡らせている間にモンスターたちが下品な笑い声を上げながら向かってきた。

 モンスターの総数は全部で五匹でそれぞれこん棒を持っている個体が三匹、盾と細めの木の棒を持っている個体が一匹、残りの個体はその群れのリーダー格なのか、体の大きさが少しだけ大きく持っている武器も錆びてはいるが剣を装備していた。



「来るか?」



 まず前衛を務めている盾を持った個体が突進してくるが、これをスウェーで躱す。

 続けざまに三匹のこん棒を持ちが連続で向かってきたが、これも巧みに避けこん棒持ちの攻撃を全て躱しきると最後に攻撃した個体に向け拳を叩き込む。



 パーティーを組んでいた時は、積極的に攻撃に参加していなかったといってもモンスターに狙われないという保証はどこにもない。

 だからせめて接近戦ができるよう格闘術の真似事を我流で練習していたのだが、まさかここでそれが役立つ日が来るとは思っていなかった。



「ぷぎゃっ」


「……え」



 自身の拳を緑のモンスター顔に目掛け打ち込むと、一瞬にして顔が吹き飛びどす黒い血を辺りにまき散らす。

 元々このモンスターの防御力が薄っぺらいのだろう、僕の放った拳であっさりと絶命した。



 先の攻撃で残ったモンスターたちの警戒のレベルが、数段階引き上げられる気配を感じつつももう一匹のこん棒持ちに同じように拳を振るう。

 結局同じように攻撃するだけで顔が爆散してしまったが、残すところリーダー格の剣を持った個体のみとなる。



「ギイイイイイ」


「これで止めだ」



 そう言いながら、僕は地面を蹴ると奴の懐近くまで接近する。

 奴が自らの懐に入られたと認識した瞬間には僕の放った回し蹴りが奴の顔に直撃する瞬間だった。

 僕が放った蹴りもまたすさまじく、顔だけでなく上半身が全てまともな形を留めてはいなかった。



「ふうー、こんなものか」



 一通りの戦闘が終了し、他に敵がいないか周囲を警戒しつつ襲ってきたモンスターの残骸を一か所に纏める。

 こうしておくことで、肉食の魔物が餌として処理してくれるとかつての仲間の斧使いの男が教えてくれたことがあったのだ。



「それにしても、こいつらは一体何なんだ? ミニゴブリン?」



 ここでカリファーから説明された内容を思い出す。

 クエストを受注している間は討伐した魔物の名前と数がギルドカードに表示されると。

 現在討伐したモンスターはこいつらだけだったので、ギルドカードに載っているはずだ。



 確認してみるとやはり【ゴブリン】と表示されていた。

 だが、僕は腑に落ちなかった。なぜなら僕が知っているゴブリンは身体の大きさが二メートルはあったからだ。



 これは後になって知った事だが、どうやら僕が今までゴブリンだと思っていたモンスターはゴブリンの上位種で【ハイホブゴブリン】という討伐難度Bランクのモンスターだった。



 そんなこんなで目的のルナー草を20本採取し終えた僕はそそくさとその林を後にし、街へと戻った。



 冒険者ギルドに戻ると、クエストに書かれていたルナー草20本を納品する。

 ちなみに担当してくれたのはちょうど受付カウンターにいたカリファーだ。



「確かに、ルナー草20本納品確認しました。それとギルドカードでは新たにゴブリン五匹の討伐も確認しておりますので、前回のギルド指定のクエストの報酬とモンスター討伐の報酬加えて盗賊の撃退報酬、並びに今回のクエスト報酬とモンスター討伐を合わせた金額締めて銀貨37枚と大銅貨3枚なります」


「はいっ!?」



 驚くのも無理はない、一般的に銀貨四十枚という金額は平民が不自由なく暮らしていける生活費の約二ヶ月分に相当する額だ。

 それをたった二回のクエストを受けただけで稼いでしまったことに驚くのは無理もない事だった。



 上位の冒険者になれば一回で得られるクエスト報酬は、それこそ金貨や大金貨という庶民には縁遠い途方もない額になると聞くが、Dランクの冒険者が稼いだ額としては破格と言ってもいい金額だった。

 ちなみに僕がパーティーに所属していた時の報酬額はクエスト一回につき銀貨五枚だ。



「なにかの間違いでは?」


「いいえ、ギルド職員の名に掛けて適正な価格ですよ? ちなみに内訳は今回と前回のクエスト報酬で大銅貨10枚と銅貨5枚、モンスター討伐報酬が大銅貨260枚、盗賊撃退の報酬が大銅貨100枚。加えまして前回分のクエスト報酬を支払い忘れるという失態がありまして、その迷惑料として大銅貨2枚と銅貨5枚これが内訳です」


「迷惑料って……昨日支払うのを忘れたってだけですよね? それだけのことで――」


「ルークさんにとってはそれだけの事でも我々ギルドの人間からすれば大事なのです!」


「は、はあ……そ、そうですか」



 彼女の毅然とした物言いに思わず頷いてしまったが、どう考えてもそれだけの事だった。

 確かにお金によって人の生き死にが掛かっているような緊急を要する場合は彼女のいう事にも一理あるだろう。



 だがそれは下手をすれば、悪意を持った冒険者の手によってより多くの報酬を手するためのわざと報酬を受け取らずに行ってしまう者も出てくるのでは、と考えたところで僕の考えていることを察したカリファーが捕捉してくれた。



「確かにわざと報酬を受け取らずに迷惑料をせしめようとする冒険者の方はいるにはいますが、それもごく少数に限っての事なので問題ありません。それになにより、迷惑料はあくまでこちらの手続きに不備があった場合において支払うものであって故意に報酬を受け取らなかったことに対して支払う義務は当然ですがないのです」



 ということらしい。実に事務的な対応であり模範的な回答だった。

 その後流石に三十七枚もの銀貨を持ち歩くのは不安だったため、三十枚をギルドに預け残りは手持ちに持つことにした。



 ギルドは自分が稼いだ金を預かっておいてくれるシステムがあり、それを利用することにした。

 ちなみに引き出す際には、ギルドカードの提示をすることで引き出しが可能なためプリマベスタのギルドだけでなく他のギルドでも引き出すことができる便利なものだ。



「それではルークさん、他に何かありますでしょうか?」


「そうですね、強いて言えば装備類が少し心もとないのでいい場所があれば教えていただきたいのですが……」


「でしたら【ブルーノ武具店】に行かれてはどうでしょうか? このギルドを出て大門とは反対の大通りを真っすぐ進むと広場がありますよね? その広場から分岐している三本の通りのうち左の通りをしばらく進めば見えてくるはずです」



 僕はカリファーにお礼を言うと、彼女の説明に従ってその足で【ブルーノ武具店】を目指すことにした。

 彼女の道案内の通りに進むこと十数分後、目的の店の前まで到着した直後にそれは起こった。



「てめえふざけんじゃねえぞ、コラ!!」



 突如として、店の中からドスの利いた声が聞こえてきた。

 どうやら店の客が怒鳴っているようだが、どういった経緯でそういう状況になったのかは皆目見当がつかなかった。

 ただ一つ分かった事といえば――。



「ぐはっ」


「小僧、喧嘩を売る相手は見て選ぶべきだったな、おとといきやがれ」



 先ほど店の中でどなっていたであろう、筋骨隆々な冒険者風の男が大通りのど真ん中で大の字になって気絶していた。

 どうやらこの店の人間は喧嘩っ早い人のようだ。



「あん? おめえ何見てやがるんだ? そいつぁ、おめえの仲間か?」



 彼と目が合った瞬間にそう聞かれたので思わずこう答えてしまった。



「そんな筋肉だるまな人なんて知りません」 

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