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2話



「えっ? 【運送】……ですか?」



 カリファーさんから今後の活動についての打診があった時に彼女の口から出た単語だった。

 当然その言葉だけでカリファーさんの意図を理解することなどできるわけがないので、訝しげな表情を浮かべてしまう。



「はい、ルークさんはギルドの重要な手紙や荷物が、どのようにして運ばれているか分かりますでしょうか?」



 そのような質問が飛んできたので、しばらく考えた後思いついたことを答える。



「町から町へ商いをしている行商人に届けてもらっているのではないでしょうか?」



 この世界には国と国が交易を行う際に中規模から大規模の隊商が組まれ、荷物と商人たちを護衛するために冒険者や傭兵などが雇われることがある。

 だが各都市に設営されたギルド同士でそれを行う場合、商人と護衛のそれぞれに報酬を支払わなければならないため、余計にお金がかかってしまう。

 加えて、ギルド間での取引は国同士の交易と比べると、かなり小規模になってしまうためギルド専属の運送をやってくれる商人はほとんどいない。

 理由は至って単純で、他の商品を取り扱った方が儲けがいいからだ。



「正解です。ですが商人側としては、自分の商いを優先しますので、当然馬車の走る速度は荷物を傷つけないようゆっくりと走ります。ところが、ギルド側としては一刻も早く情報を他のギルドと共有させたいので、できるだけ早く重要書類や荷物を届けたいのです」



 例えば、ある森で災害レベルの高い魔物が発生した場合、各ギルドと連携して冒険者をそれぞれ派遣し、早期解決に尽力する。

 だが書類や荷物の運送が現状行商人頼みになっているため、なかなか他のギルドに情報が行き渡らない場合がままあるらしい。

 


 行商人によっては街に到着したにもかかわらず、自分の商いを優先したためギルドの書類の提出が遅れてしまったことで、村一つが魔物の手によって壊滅したなどという事例もあったとカリファーさんは顔を顰めながら教えてくれた。



「ですから、ギルドの重要な手紙や荷物だけを運ぶことを目的とした専門の運送業者を探しているのですが、なかなかそんなことを請け負ってくれる行商人もおらず、困り果てていたところに――」


「ちょうどパーティーを追い出された僕が現れたと?」



 僕はカリファーさんが全てを言い終わる前に結論を述べた。

 どうやら正解だったようで、肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。



「ルークさんが荷物の運搬に特化している冒険者だという事はこちらも知っておりますし、できればお願いしたいのですが……」



 こちらとしてもいきなりモンスター討伐などの冒険者らしいクエストをこなすつもりもなかった。

 最初は薬草採集や僕でも回収が可能なモンスターの素材集めを中心としたクエストからやっていくつもりだったので、カリファーさんの提案はこちらとしても有難かった。



「こっちも最初は簡単なクエストから始めていこうと思っていたので、大丈夫ですよ」


「本当ですか! ありがとうございます、ルークさん」



 僕が依頼を受けることを了承すると、彼女の顔が明るくなり、僕の手を取ってぶんぶんと上下に振り回した。

 その姿から本当に嬉しいのだなというのが伝わってくるのと同時に、僕と同い年なのに案外子供っぽいところも垣間見れて、とても可愛らしい。



「ど、どういたしまして。あの、カリファーさんそろそろ手を離してくれませんか?」


「え? あ、す、すみません私ったら……」



 僕としてもいつまでも彼女と手を握り合っているのも吝かではないが、現実的にそうもいかない。

 僕が指摘したことが恥ずかしかったのか、カリファーさんが頬を染め首を竦める。

 二人の間に少し気まずい雰囲気が流れたので、話題を変えるため運送の仕事について聞くことにした。



「それで具体的に【運送】の仕事を説明してもらえますか?」


「はい、わかりました」



 彼女の説明によると、運送と言っても何も難しい事をするのではなく、少し大きめのリュックサックに書類やら荷物やらを入れ、できるだけ早く別拠点のギルドに運搬するというものだ。

 だがここである疑問が浮かんだため、彼女に聞いてみる。



「あの、運搬という事は基本的に徒歩での移動となるわけですけど、それなら馬車で移動している行商人の方が早く到着するのでは?」


「先ほども説明した通り、行商人の場合デリケートな商品を扱っていることが多く、またできるだけ荷物に傷を付けたくないということから、馬車の速度は徒歩で移動している人よりも遅い場合が結構あるんですよ」


「なるほど、町のように舗装された石畳を走るならともかく、街道は舗装されてない凹凸の激しい場所ですからね。そりゃ人の足よりもゆっくり走らせるわけだ」


「それに、馬車の場合は馬の体力も考慮して頻繁に休息を入れるので、拠点と拠点の移動という一点を見れば、行商人が引く馬車よりも徒歩で移動している人の方が早かったりするんです」



 確かに、言われてみればその通りだ。

 よくパーティーの遠征などで馬車を使う事があったが、馬を引く御者が定期的に馬を休ませるため休息を願い出ていたのを思い出した。

 いくら馬の体力が人と比べてかなりのものであるとしても、総重量数百キロもあるものを引き続ければどこかで体力が尽きてしまう。

 基本的に荷車を引く馬の頭数は小さいものなら一頭ないしは二頭、大きいものだと八頭もの馬を使って引く場合もある。



 それだけ馬にかかる負担が相当なものなのだと想像できる。

 話が少しそれてしまったが、続けてカリファーさんが仕事内容の概要を説明し始める。



「次に運送に関しての仕事の部類なのですが、基本はギルドからの指名クエスト扱いとなります。ですが、ルークさんが所属していたパーティーから現時点であなたの脱退申請を受けておりませんので、仮脱退という扱いで受けてもらいます」



 パーティーに所属していた者がパーティーを抜ける際、リーダーを務める者がギルドに脱退申請を出さなければならない。

 少しばかり説明すると冒険者のランクは現在存在しているランク持ちを入れると、最高でSS、一番下でGまでいるが、最高ランクはSSSがあると聞いている。

 つまり冒険者のランクはSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、G、の計九段階存在していることになる。



 またクエストも同じくSSSからGまであり、自分が持つランクの一段階上のランクまでなら受けることができる。

 例えば、Aランクの冒険者ならばSランクまでのクエストなら請け負う事ができるといった寸法だ。



 加えてパーティー自体にもランクがあるが、僕のように一人だけランクに見合っていない存在がいる事が多いため、パーティーランクというのは実際のランクよりも一段階下の評価になる場合が多い。

 Sランクの冒険者パーティーならばAランクの冒険者と同じ扱いになるというわけだ。 



「これからルークさんに依頼する内容は運搬していただく荷物の重要度から算出してCランク扱いのクエストになります。それとこのクエストの達成度により今後あなたの冒険者ランクが変わりますのでご注意を」


「わかりました」



 一度パーティーを抜けた冒険者はギルドによって再びランク査定が行われ本来の実力に見合ったランクが与えられることになる。

 実力が伴わなければ、パーティに所属していた時よりもランクが落ちることがほとんどだが、稀にパーティーにいた時よりも上のランクが与えられることがあるそうだ。

 もっとも、ずっと荷物持ちばっかりやっていた僕なんて、精々Fランクがいいとこだろう。下手をすれば最低ランクのGだってあり得る。



「ではルークさんギルドカードの提示をお願いします」


「はい」



 そう言うと僕は懐に入れてあったギルドカードを取り出し、カリファーさんに渡す。

 ギルドカートは冒険者ギルドに所属している証で、言わば身分証明書のようなものだ。

 名前と年齢、ギルドカードが発行された都市の名前に現在のランクと最高到達ランクが表記されている。

 


 偽造することは不可能で、そのような行為が発覚すればギルドから永久追放扱いとなり犯罪者として投獄される。

 僕からギルドカートを受け取ったカリファーさんが手を翳すと魔法陣のようなものが浮かび上がる。

 そして、魔法陣が消えるとそのまま僕にギルドカードを返却した。



「これで先ほどご説明したクエストの受注が完了しましたので、確認をお願いします」



 ギルドカードには個人情報が記載されているが、それとは別に余白の部分がある。

 そこに今回受注したクエストの内容が追加されていた。

 これはクエストを重複して受けることがないようにするための措置で、魔術によって記載されているため改竄することはできない。



「大丈夫みたいです。それで荷物の方はどこにあるんですか?」


「準備はすでに整っておりますので、こちらへ」



 案内されたのは、応接室のような場所でテーブルやソファーといった簡易的な家具以外に調度品も何もないシンプルな部屋だった。

 部屋のど真ん中に通常より少し大きいリュックサックが置かれており、中身はそれと分かるほどパンパンに詰まっている。



「こちらが運搬していただきたい荷物です。一人で運ぶには少々重いでしょうが、ルークさんなら大丈夫かと思います」


「そうですね、これくらいならいつも運んでる荷物の三分の一くらいなので問題ありません」


「え?」



 僕の言葉が聞き取れなかったのか、素っ頓狂な声で聞き返してきたが、それよりもまだ聞いてないことがあったので立て続けに質問する。



「そう言えば何処に運ぶのかまだ聞いてませんでした。この荷物は何処に運ぶんですか?」


「え? あぁ、はい。運んでいただく目的地はここプリマベスタから南東にある都市【レイブンフォール】のギルドです。今回はあまり緊急を要する書類などはありませんが、それでも情報の共有が早いに越したことはありませんので、無理のない程度に急いでいただけるとこちらとしても助かります」

 

「わかりました。ではこのまま出発しますが、何か他に伝え忘れたことはありませんか?」



 現在の時間は早朝の賑わいが落ち着いた時刻的には朝と言っても差し支えない時間帯だ。

 今からすぐに出発しても僕としては問題はない。



「ギルドとしては助かりますが、準備はよろしいのですか?」


「はい、宿に自分の荷物が置いてありますので、取りに戻らなければなりませんが、その後すぐに出発します。じゃあカリファーさん行ってきます」


「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」



 こうして、僕の新たな仕事として、荷物の運搬クエストを受けることになった。

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