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14話



「いた、ナディアさんだ」



 一人でモンスターのいる森の奥へと突っ込んで行ったナディアに追いつくべく、僕たちは彼女を追いかけて来た。

 彼女の姿が目に飛び込んできたときにはすでに戦闘が始まっていた。



 彼女を取り囲んでいたのは、芋虫によく似た【ハイキャタピラー】というモンスターで体長2メートル弱ほどの大きさにもなる。



 【魔の森】で出現するモンスターの中で最低ランクと言われるCランクに属しているものの、主に数匹の群れを形成していることが多く場合によってはさらに上位のBランクのモンスターに随伴していることもしばしばある。



 主な攻撃手段として、身体を丸めその巨体を生かした体当たり攻撃に、口から吐き出される糸は一度絡みついたらAランクのモンスターでも抜け出すのに一苦労すると言われているほど強靭なものだ。



「はあ、やあ!」



 剣を片手に四匹のハイキャタピラーと対峙するナディアに追いつくべく、全員が駆け足になる。

 遠目からであるが彼女が一匹のハイキャタピラーに攻撃を仕掛けるも背中部分の固い甲殻に阻まれ攻撃が弾かれる。



 ハイキャタピラーの外皮は背中から腹部に近くなればなるほど柔らかいが、普段背中部分しか見せないため弱点である腹部を攻撃することは難しい。



「ナディア、無茶をするんじゃない!」


「俺が前に出る、ナディア一旦下がれ」


「いきなり一人で突っ込んでいかないで欲しいっす」



 マリアンナ、ガゼット、フィロスの順にナディアの元へと駆け付ける。

 一方の僕はと言えば、モンスターと彼女らの位置を全体で把握できるよう手ごろな木に登り太い枝から観察している状態だ。



 田舎の村にいた時は同じように木に登り遠くの風景を見渡したことが何度もあるためこういった木登りは得意であった。



「フィロスさん、後ろから攻撃が来ます。マリアンナさんは右にいる敵に攻撃魔法を」



 木の上から観察することで、戦場全体の位置関係を把握し的確な指示を出す俯瞰的戦術把握を可能としている。

 ルークはかつてのパーティーで戦闘にはほとんど参加はしていない。



 だがこうやって森などの戦闘の際は、木の登り戦場を俯瞰的に観察できる安全な場所に位置取りそこから仲間に的確な指示を出す司令塔のような役割をしていたのだ。



「ガゼットさん、正面の敵をブロックしてください。ナディアさんは隙を突いて弱点の腹を攻撃してください」


「お、おう」


「わ、わかった」



 最初は半信半疑だった彼らも徐々に理解し始めた。

 彼が荷物持ちだとはいえ、なぜSランクの冒険者パーティーに所属できていたかを。



 モンスターとの戦闘において最も注意すべきは死角からの攻撃だ。

 だが戦場全体を上から観察し、いつ攻撃が来るのかを把握している人間がいたとしたら。

 そして、その攻撃に対応できるよう的確に指示が出せる人間がいたとしたら、これほど安全なことはないだろう。



 そこから一方的にナディア達の蹂躙が始まり、十数分後には四匹のハイキャタピラーの死骸だけが横たわっていた。







「すごい、凄いっすよ、ルーク」


「ああ、まさかこれほどの能力を持っていたとは」



 そう称賛するのは今回が初めての顔合わせとなるフィロスとガゼットだ。

 僕はかつて所属していたパーティーの時と同じように邪魔にならないよう木に登って戦場を観察していた。



 だがただそこでじっとしているだけでは彼らに申し訳ないと思い、モンスターが攻撃してくるタイミングとこちらが攻撃するタイミングを教えていただけだ。



 これは前にいたパーティーで普通にやってたことなので、僕としては何がすごいのかまったく分からなかった。



「そんなことないですよ、僕じゃあハイキャタピラーなんて相手にできないでしょうし、凄いのは皆さんです」



 そう返答する僕の言葉に異を唱えるように残り二人も彼等の援護射撃をする。



「そんなことはないぞルーク殿、例え高い位置から見下ろせたとしてもあれ程的確に指示はできない。そこはやはりルーク殿の能力がすごいからだと私も思います」


「やっぱり、わたしの目に狂いはなかった! ルーク君はすごい荷物持ちだったんだ!!」



 彼らが手放しで褒めるので少々居心地が悪くなり、僕は彼らが倒したハイキャタピラーの死骸に近づいた。

 目的は【魔石】と呼ばれるアイテムを手に入れるためだ。



 ある特定のランク以上のモンスターは体内に【魔石】という魔力が籠った石を生成することがある。

 それはあらゆる分野に使用され、有名なところで言えば魔道具や魔剣などといった魔力を必要とする道具や装備に使われることが多い。



 それ故、魔石は通常のモンスター素材よりも高値で取引されることもあるため手に入れておくべきものなのだ。

 この魔の森ではCランク以上のモンスターしか出ないため、それだけ手に入る魔石も多くなる。



 だからこそ、魔の森と呼ばれるここは冒険者にとって一攫千金の狩場でもあるのだ。



「よし、魔石四つ入手完了っと」



 手早く解体し、魔石を取り出す。

 手に入れた魔石は直径2、3センチほどの小ぶりのものだったが、これだけでも銀貨二十枚は下らない。

 こんな小さな魔石一つが一般的な平民の一か月分の生活費に化けてしまうのだ。



 ちなみに魔石以外のハイキャタピラーの素材は売れないことはないが、今回はこいつらが目的ではないのでそのまま放置することにした。



 少し慌ただしかったが、なんとかモンスターを倒せてよかったと思いながら僕たちはさらに森の奥へと足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
[一言] お話の続きが楽しみです♡
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