表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

13話

※次回更新予定日:2019年6月2日 16時~18時

(次回投稿後、一時的にうp予定日を不定期にします)



「ようやく着いたっすね」



 鬱蒼と覆い茂る森の入り口で彼はそう呟いた。

 彼の名はフィロス、Aランク冒険者パーティー【メテオストリーム】の索敵を担当している盗賊だ。



 茶髪黒目の一見すると軽薄な人柄に見えるが、どことなく頼りにはなりそうな雰囲気を醸し出している男だ。



「気を抜くなよ、大変なのはこっからだ」



 フィロスにそう忠告したのはガゼットという名の同じ【メテオストリーム】のメンバーだ。

 黒髪灰色目の見るからに戦士の身体つきをした男で、前衛職に相応しい重鎧を身に着けている。

 自分の背丈ほどもある大きな大剣を背中に背負い森の方を睨みつけている。



「流石戦士って感じですね、普段とはえらい違いだ」


「これから【魔の森】に入るっていう奴がピクニック気分でのほほんとしてても、それはそれで違和感があると思うが……」



 僕がガゼットの普段との雰囲気の違いを指摘すると、もっともな意見をガゼットは返してきた。

 このガゼットという男は普段は筋骨隆々な肉体に反して柔らかな物腰をしているのだが、さすが冒険者の戦士とあって身の危険が近くにある時の眼光は本物の戦士のそれになるらしい。



「三人とも無駄話は謹んでください、これから魔物の巣窟と言われている【魔の森】に入るんですよ」



 僕たちが話しているのが気に障ったのか、胸を張りながら注意してくるのはマリアンナだった。

 【メテオストリーム】の実質的な副リーダー的存在で、事務面、実力面の両方から見ても優秀な人間だ。



 大きな胸をフルンと揺らしながら注意するものだから目のやり場に困って仕方がない。



「じゃあみんな準備はいいな、ルーク君もわたしたちから……いやわたしの胸から目を離さないように」


「ナディア、言動が痴女になっているのだが、それにルーク殿がそのような不埒な真似をするわけが――」


「じー」



 マリアンナが絶対にあるわけがないと思っていたことを見てしまったために呆然と固まってしまった。

 僕はナディアに言われた通り、彼女の大きな胸から目を離さず凝視していた。



 彼女はこう見えてもAランククラスの冒険者であることに変わりはない、彼女の胸を見るという行為が何か意味のあるものであった場合、下手をすれば命に係わることだって可能性としてはゼロではないと僕は考えた。



 だからこそ、素直に彼女に指示に従い僕は彼女の二つの双丘を見つめ続ける事したわけだが……。



「……ルーク殿、一体何をしているのかな?」


「え? ナディアさんが胸を見ろと言ったので彼女の指示に従っただけですが、なにか?」


「うぅ……」



 一方のナディアはナディアで、ルークが自分のたわ言を真に受けると思っていなかっため八割方冗談で言ってみたのだが、突然の彼の行動に羞恥心に苛まれていた。



 顔を真っ赤に染め腕を縮こまらせもじもじと動きながら、ルークの視線に耐えている。

 ルークとてまだまだ若い十代であるため、女性に興味がないと言えば嘘になる。

 そして、今彼が凝視しているナディアという女性は、色眼鏡で見なくても美人であることは確実だ。



 十中八九男が彼女を見れば美人だと答えるだろう、そんな彼女が自分の胸を見ろと言えば嫌がる男はまずいない。

 男好きという特殊な嗜好を持っていない限り、ほとんどの男がルークと同じ行動を取ることになるのは明白だった。


「あー、それはナディアの冗談なので気にしないでいただきたい、いつもの色ボケ癖が出ただけですので」


「そうですか、教えてくれてありがとうございます……じー」


「ル、ルーク殿?」



 そう僕に教えてくれたマリアンナにお礼を言ったあと、彼女の胸もなんとなく凝視する。

 そうした理由は何となく彼女の胸を凝視しないと不公平な気がしたからだ。



 ナディアと比べても遜色ないほど胸部分のローブを押し上げており、自己を主張している。

 彼女の人柄を鑑みるに少々お堅い印象を与えてしまうが、知的な雰囲気と見事なまでのプロポーションは同性ですら感嘆の声を上げるほどだ。



「……」


「す、すいません、あまりにも美しかったからつい見惚れてしまいました」


「っ~~!?」


「ふぁっ!?」



 僕の視線に居たたまれないような仕草をしたマリアンナに取り繕う様にそう言い訳する。

 言っておくが、僕は嘘はついていない。



 彼女の容姿は麗しく、誰が見ても美人だと答えるだろう、それはこの僕も例に違う事はない。

 そう答えたつもりだったのだが、マリアンナとナディアの反応があまりにも対照的だった。



 マリアンナは自分の容姿を褒められることに慣れていないのか、先ほどのナディアと同じく顔を真っ赤に染め、それに対しナディアは僕の言葉が信じられなかったのか驚愕の表情を浮かべていた。



 ナディアがどうしてそこまで驚いたのか僕にはわからなかったが、彼女の中で僕が取った言動が珍しかったのかもしれない。 



 マリアンナはマリアンナで異性から褒められ慣れていないのかとそう思ったのだが、索敵役のフィロスが「俺が褒めた時はそんな反応してくれたことないっす」とか言っていたので、仲間以外に褒められることが少ないからだと結論付ける。



「ナディアもマリアンナもルークとイチャコラするのは結構っすけど、今から魔の森に入るんで気を引き締めて行く――ごぼぁ」


「「誰がイチャコラしてるって(いるのだ)?」」



 フィロスが僕と二人のやり取りを見て、からかってきたが気付けば彼は吹っ飛ばされていて木の幹に背中をぶつけていた。



 彼を吹っ飛ばした元凶の二人を見ると、片足を上げ蹴る体勢になっているナディアと右腕を突き出しているマリアンナの姿があった。

 恐らくナディアが蹴りでマリアンナが拳でフィロスを吹っ飛ばしたのだろう。



「はは、じゃあここから魔の森に入りますし、気を引き締めて行きましょうか」


「ああ、身辺警護は任せておけ」


「心得た、こちらも後ろからルーク殿を守らせてもらおう」



 僕の言葉に大袈裟に頷くナディアと右手を恭しく振りかざしながら一礼するマリアンナ。

 その仕草はこれまた対照的で、二人の人柄がよく出ていると思った。



「ガゼットさんもよろしくお願いしますね?」


「ああ」



 ぶっきらぼうな短い返事だったが、その短い返事がなんとも頼もしく感じた。

 一方木の幹にぶつかったフィロスはナディアに脇腹を蹴られ追い打ちという止めを刺されていた。



 これから魔の森に入るのに大丈夫だろうかとも思ったが、すぐに復活してくれたので体格の割に意外とタフだなと思ったのは彼には内緒だ。








 【魔の森】と呼ばれるその場所は、冒険者ギルドの中で超危険区域に指定されている森であり出没する魔物の平均ランクもCランクと他の森と比較してもかなり高い。



 ちなみに僕が調査に行くはずだったプリマベスタ北東部の森の魔物の平均ランクはEランクなので、これだけでも【魔の森】がどれだけ危険か理解できるだろう。



 しかも平均ランクとは名ばかりで、このCランクというランクは【魔の森】で出没するモンスターの最低ランクがCランクだという意味を持っている。



 そのため冒険者ギルドは最低でもBランクの冒険者でなければ森の立ち入りを許可しない。

 ……って今の僕のランクってDランクなんですが、これ如何に?



「まあ、何事にも例外はあるよね……はは」


「うん? どうかしたのか、ルーク殿?」


「いえ、なんでもありません」



 あまり例外として扱われても嬉しくない例外だなと思いつつも、改めて森の周囲を確認する。

 そこは鬱蒼と木々が覆い茂り、地面は雑草が生え揃い道などと言うものは全くの皆無だ。



 木と木の間に自然的にできた空間を歩くような手探りの状態での探索だが、今回は索敵役がいるため最悪魔物が襲ってくれば察知することはできるだろう。



 現在の僕たちの布陣は先頭に索敵に優れたフィロス、その後方に前衛職のガゼットとナディアで固め僕が真ん中にいて、その後ろをマリアンナでカバーするというものだ。



 それぞれができることが違うため今の布陣としては決して悪くない布陣だ。



「ルーク殿、いざというときは我々を捨て駒にして逃げてください」


「何を言ってるんですかマリアンナさん、皆さんを置いて僕一人だけ逃げられるわけないでしょう」


「それは違うぞルーク君、今回の【メテオストリーム】の目的は君の護衛だ。だから君を生き残らせることが今与えられたわたしたちの任務と言ってもいいのさ」



 マリアンナの言葉を捕捉するようにナディアが話した内容を肯定するかのようにガゼットとマリアンナが頷く。

 


 確かに彼女たちの言ったことは冒険者としては正しいのかもしれない。

 護衛任務の場合対象となる人物を生き残らせることができれば、任務としてこれ以上の成功はない。



 だが、いくら護衛すべき対象を生きて無事な場所へ行き着いても、自分が生き残らなければそれはただの犬死ではないだろうか?



 任務である以上生き残らなければ報酬も貰えないだろうし、仮に報酬が貰えても死んでしまっては何の意味もない。

 世の中生きているからこそ意味があるものなんて星の数ほどある、今回の護衛任務もそうではないだろうかと僕は思った。



 そんなことを考えていると、先行しているフィロスが急に立ち止まり、手で僕たちを制した。



「何かいたか?」


「数は四、動きがあまりないところを見るに無機質系のモンスターか、昆虫系モンスターのどちらかだと思うっす。距離は三百メートルくらいっすね」


「どうするリーダー、進行してこのまま殲滅するか迂回して行くかどっちかだと思うが」


「ルーク殿がいる以上私は迂回すべきだと思――」


「ようし、野郎どもぉぉぉおおおお、皆殺しだぁぁぁああああ!!」


「って、ナディアさん一人で突っ込んじゃいましたけどいいんですかね?」


「「「よくねぇよ(ないっす、ないわよ)!!」」」


「ですよねーははは……ってナディアさん待ってください、一人で突っ込んじゃダメですよー!!」



 索敵役のフィロスが敵を発見し、この後の行動をどうするか話している間にナディアが他の仲間の意見を聞かずに突っ込んでいってしまった。



 どんだけ好戦的な人なんだと思いつつも、一人で突撃はさすがに無謀としか言いようがない。

 リーダーが突っ込んでいってしまった以上それに続かなければ、リーダーを見捨てることになってしまうため今後のパーティーの方針はサーチ&デストロイに決定したようだ。



 この後もこれが続くのかと内心でため息をつきながら、護衛対象の僕が護衛のナディアを追いかけるというまったく逆の構図になっていることに苦笑いを浮かべた。

※次回更新予定日:2019年6月2日 16時~18時

(次回投稿後、一時的にうp予定日を不定期にします)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ