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12話

※次回更新予定日:2019年5月26日 16時~18時



 ギルドを後にした僕は、【ブルーノ武具店】に向かっていた。

 目的は出世払いで購入した装備の残りの代金を支払うためだ。



 店に入ると、黒髪黒目の男が白い歯を剥き出しにして出迎えてくれた。



「おうルークの兄ちゃんじゃねえか、どした? 装備が壊れた……って訳でもなさそうだが」



 僕の装備を観察しながらそう言っている彼に今回の用向きを伝える。



「ちょっとした臨時収入があったので、約束通り全額支払いに来ました」


「早かったな、まあこっちとしては早い方が助かるちゃあ助かるんだがな」


「じゃあこれを」



 そう言って僕は白金貨一枚を取り出すが一向にガドが受け取ろうとしない。

 不思議に思い彼の顔を見てみると、額に汗をかいているのが見えた。そして、恐る恐る僕に尋ねてきた。



「なあ、ルークの兄ちゃんもしかしてもしかするんだが、それってまさか白金貨じゃねえか?」


「そうですけど、どうかしましたか?」


「……ルークの兄ちゃんは貴族かなんかだったのか?」


「……?」



 彼の言っていることが言われた瞬間分からなかったため首を傾げたが、自分の手に持つ白金貨を見て合点がいった。

 この世界において平民が白金貨を目にする機会など滅多になく、場合によっては一生に一度あるかないかのものなのだ。



 一般的な平民が取り扱う硬貨といえば銅貨・大銅貨・銀貨が精々で、大銀貨・金貨が大きいな商会が取り扱うものとなり、大金貨・白金貨ともなれば大貴族や王族、国などが取り扱うほどの価値の高い硬貨と言える。



 だからこそ僕が白金貨を取り出した時に「貴族か何かか?」と尋ねたのは極々自然な流れであると理解できた。



「実は少々高価なものをギルドに売った時に、かなり高値で買い取ってもらったんですよ。だから僕はただの冒険者ですよ? 出身もかなり田舎の村ですしね」


「そうか、それを聞いて安心したぜ」



 この世界において貴族というのは気位が高く、機嫌を損ねればその場で首を刎ねる貴族も珍しくない。

 だからこそガドは僕が貴族だと聞いた時少し焦った表情を浮かべていたんだろう。



「それで今手持ちに細かいのが無くてですね。白金貨での支払いになってしまうのですが、いいですか?」


「うーん、こっちとしては細かいのがいいんだが、仕方ないちょっと待っててくれ」



 そう言って店の裏手に引っ込んでいく彼を見送り、しばらく店内にある装備品を見て回る。

 主に革と鉄の装備品が立ち並び、あまり装備品としては性能が良くないのか、大体が無造作に展示されていた。



 だが、目利きができない僕でも装備を見ているだけで心がウキウキしてしまうのは、僕もやはり男なんだなと実感させられる。

 自分の事を客観的に見れば、僕はあまり男らしくはない部類に入るだろう。筋肉もあまりついておらずかと言って背もあまり高くはない。



 だからこそ冒険者の装備を僕が着ると、ものすごく違和感が生じてしまうのだ。

 分かり易く言えば、均整の取れた身体つきの女性に男物の服を着せるという例えだ。



 艶めかしい体つきなのにもかかわらず、武骨な男の服では物凄く違和感を覚えることだろう。



「今後の事を考えてもう少し身体を鍛えてみるかな……」



 そう呟きながら自分のそれはそれは薄い胸板に手を当てつつため息をついているとガドが戻ってきた。

 厳重そうな鉄製の箱を両手に抱えカウンターにドンと置くと、首からぶら下げていた鍵を使い鍵を開ける。



「えーっと、たしか装備の代金が大銀貨3枚と銀貨5枚だから……」



 この世界の貨幣価値を改めて説明すると、この世界には銅貨・大銅貨・銀貨・大銀貨・金貨・大金貨・白金貨の計七種類の硬貨が存在しそれぞれ硬貨十枚毎に格が上がっていく。



 例えば銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨十枚で銀貨一枚という計算方法となる。

 つまり白金貨一枚を銀貨換算にすると、一万枚という途方もない枚数になってしまう。



 一般的な平民ひと月当たりの生活費が銀貨二十枚と考えると、銀貨一万枚は約四十一年と半年分の生活費に相当するのだ。



 以前白金貨二十枚が平民の生活費五十四年分とか言ってたけど、計算間違いをしていたらしい。白金貨二十枚は平民の生活費約八百三十三年分という途方もない数字になるようです……。



「「……」」



 僕もガドもその答えに至り、改めて白金貨というものがどれだけ価値の高いものなのか思い知らされることとなった。

 何とも言えない空気が二人の間に漂う中、先に口を開いたのは僕だった。



「あの、やっぱりギルドで両替してもらってきます。失礼ですが、流石に銀貨一万枚なんてこの店に置いてないでしょうし……」


「そ、そうだな……そうしてくれると助かる。そんな金額をすぐ用意できるところなんざ大手の商会くらいなもんだからな……はぁー」


「わかりました。さっそくギルドに戻って替えてもらってきます」



 僕はそうガドに挨拶すると、足早に店を後にした。

 一体何をしに来たのかわからない結果になってしまったが、白金貨のとんでもなさを実感できただけでも収穫だったと自分を納得させギルドに向かった。







 ギルドに戻ると、何やらちょっとした騒ぎが起きていた。

 他の冒険者たちが困惑と驚愕の雰囲気が混じっており、ギルド職員も慌ただしく動いていた。



「何かあったんですか?」


「おう、それが……ってあんた……」


「……? どうかしましたか?」



 僕の姿を認めた冒険者が事情を話す前に怪訝な表情を浮かべる。

 何があったのか詳しく問い詰めようとした時見知った人物が声を掛けてきた。



「ルークさん、クエストに出てなかったんですね、よかったです」


「カリファーさん、一体何があったのですか?」


「詳しい話はギルドマスターが説明しますので、私と共に来ていただけますか」



 なにやら物凄いことが起こっていると感じ、面倒事には巻き込まれたくないと思いつつも仕方なくカリファーの後に付いて行った。

 いつもの部屋に通された僕は早速クリストファーに出迎えられ、状況の説明が始まった。



「実は、ルーク君が所属していた冒険者パーティーなんじゃが、数日前から彼らとの連絡が取れない状態となっておってな」


「そ、そんな……」


「わしらももう少し様子を見るべきと思うておるのじゃが、万が一何かのトラブルに巻き込まれていた場合、早急な調査が要求となってくる。そこで君には申し訳ないのじゃが、元Sランクの君を見込んで彼らが失踪した森の調査をお願いしたいのじゃ」



 さらに詳しい話を聞くと、彼らがクエストに出かけたのが十日ほど前で連絡が取れなくなって数日が経過している。

 彼らが受けたクエストの難易度から考えて、もうこの街に戻っていてもおかしくないはずなのに未だに連絡が取れていないらしい。



 予定よりも遅れているということも十分あり得るが、万が一何か不測の事態が起こっていた場合早急な対策を要求されるため、ギルドとしては追加で調査をするための冒険者を派遣することが決定した。



 だが、彼らが向かった【魔の森】の出現モンスターの平均ランクはCであるため実力がない冒険者を送り込んでは被害が拡大するだけだ。



 かと言って、そこら辺に実力を持った冒険者がゴロゴロいるかと言われればそれも皆無であり、仮にいたとしてもAランク以上の実力を持つ冒険者は遠方のクエストに出かけてしまっており目ぼしい者はいなかった。



「では今回受注しているクエストをキャンセルして、今回のクエストを受ければいいというわけですね?」


「おお、受けてくれるか!? こちらとしてはありがたい限りじゃ。すまないが、行ってくれるか?」



 僕がクリストファーの言葉を快諾するため返事をしようと思ったその時、突如として部屋のドアが勢い良く開かれた。



「話は聞かせてもらったああああああああ!!」


「だ、誰じゃ!? ここがギルドマスターの部屋と知っての狼藉か!?」


「あ、あなたは!?」



 そこに立っていたのは、仁王立ちで両腕を組んだAランク冒険者パーティー【メテオストリーム】のリーダーであるナディアだった。

 赤い短く切り揃えられたショートカットに緑がかった綺麗な瞳を持ち、女性として均整の取れた身体つきと整った顔立ちは見る者が見れば見惚れてしまうほどに美しい。



「というわけで、ルーク君、君が【魔の森】への調査に行くのなら護衛としてわたしたち【メテオストリーム】が同行しよう」


「それはありがたいのですが、ナディアさんには他に受けているクエストがあるのでは?」


「そんなものはキャンセルに決まっておろう! ルーク君が一人で【魔の森】へ行くなど自殺行為もいいところだ。それを見逃す事などわたしたちにはできるはずがない!!」


「はぁー、そこで“たち”を付けないでくれませんか? 今回の判断もあなたの独断ではないですか……」


「マリアンナさん」



 ナディアの高らかな宣言に水を差すような的確なツッコミを入れたのは、同じ【メテオストリーム】メンバーのマリアンナだ。



 青色の艶のある髪と黄色い瞳を持ち、体つきはナディアと並んでも引けを取らない。

 顔立ちも整っていて、大人の魅力あふれる知的美人な女性だ。



「そうっすよ、まーた面倒事になってるみたいじゃないっすか、そこに首を突っ込むなんて勘弁してくださいよ」


「だが、状況的にはこの問題を解決できそうなのは俺たちしかいないっぽいぞ」



 そこに現れたのは、二人の男性冒険者だ。

 一人は茶色の髪に黒目の少し軽薄そうだが、どことなく憎めない雰囲気を持つ男で、身に纏う装備から索敵に特化していることが窺える。



 もう一人は黒髪で灰色の目を持ち、筋骨隆々な素晴らしい肉体を持ち合わせてはいるものの、彼の纏う雰囲気が柔らかいものであることから悪い人間ではないという印象を与えてくれる。

 重戦士が身に纏うに相応しい重鎧を身に着け、背中には大振りの大剣を背負っている。



「おお、【メテオストリーム】の面々か、有難い申し出じゃがそなたらにはノルマのクエストがあった――」


「そんなクエストなどクソ食らえだ! 今ここでルーク君を一人で行かせてしまえば、何かあった時に結局二度手間になる。それならば我ら【メテオストリーム】が付いて行けば無駄な処理を行う手間が省けるのではないかギルドマスター! ってかダメだと言っても付いて行く、これは決定事項だ!!」



 取り付く島もないといった雰囲気で、その剣幕は凄まじいものがあった。

 それに気圧されてしまったクリストファーは渋々といった感じで彼女たちの同行に頷くしかなかった。



 それぞれ簡単な自己紹介を終えると、時間も惜しいということもありすぐさま【魔の森】へ向けて出発するのであった。

※次回更新予定日:2019年5月26日 16時~18時

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