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幕間「逃がした魚はデカく、今更後悔しても後の祭りだ」

※次回更新予定日:2019年5月12日 16時~18時



 時は少し遡り、ルークがパーティーの仲間たちに戦力外通告を言い渡され、ギルドの査定クエストを受けた後、今朝まで泊まっていた宿に荷物を取りに行く途中の裏路地でパーティーメンバーとすれ違った時だ。



 とあるパーティーの一団が、裏路地を無言で歩いている。

 その雰囲気は暗く、まるでパーティーの仲間が死んだような重苦しさを孕んでいるかのようだった。

 なんとかそれを払拭するべく,パーティーのリーダーが口を開いた。



「いつまでもルークの事で沈んでるわけにはいかない。ルークの事については、散々話し合って出した結果なんだからな」



 ルークが追い出される前に何度も彼らの間で話し合いが行われていた。

 議題はルークをパーティーメンバーとして所属させ続けるか否かという単純なものだった。



 実力が伴っていないメンバーによって窮地に立たされるというのは、冒険者の間ではよくあることだ。

 だからこそ、パーティーのリーダーにはメンバーの脱退と加入という二つの権限が与えられている。



 リーダーがメンバーの力不足を判断した時に、足手まといにならないようリーダー自らが戦力外通告するというものだ。

 だが彼は自らの判断でルークを戦力外通告することに些かの抵抗を感じていた。



 だからこそ他のパーティーメンバーの意見を聞き、何度も話し合った結果ルークのパーティーメンバー脱退を決断した。

 パーティー結成時から苦楽を共にしてきた仲間に対し、戦力外通告するには荷が重かったからだ。



 他のメンバーもそんな彼の心の機微を理解してか、慎重に話し合いが行われ、Sランクの昇格と同時にルークに戦力外通告が言い渡される形となった。



「そうよね。わたしたちが沈んでたって、アイツが戻ってくるわけじゃないし、いずれこうなることは覚悟の上だと理解してたしね」


「確かにな」


「それはそうですけど……」


「……」



 女性魔法使いが、リーダーである彼の言葉に捕捉を入れ、順に斧使いの男性と女性神官が彼女の言葉に同意し、男性盗賊は黙して語らない。

 本音を言えば、ここにいる誰もがルークを脱退させたことに後ろめたさを感じていた。



 新人冒険者として、パーティー結成時から今まで誰一人として欠けることなく生き残ってきた。

 時には命がけのクエストをこなし、何度死ぬ思いをしたのか数えるのも馬鹿らしいくらいに今まで共に行動してきたのだ。



 強大なモンスターによって、仲間が命を落とす事など冒険者の間ではよくある年中行事のようなものだが、仲間が生きているのにいなくなってしまうというのもこれはこれで後味が悪かったのだ。



「さあ、今日もクエストが俺たちを待ってるんだ。ルークのためにも頑張らなきゃな」



 そう言うとリーダーの男性剣士は、他のメンバーを先導するかのように歩き出した。

 自分たちが下した決断が間違っていないんだということを証明するために。






 ルークのかつての仲間たちは、決して軽くない足取りながらも冒険者ギルドへとやってきた。中に入るとその場にいた連中の無遠慮な視線が突き刺さる。

 ある者は好意的な、またある者は敵対的な、値踏みするかのような視線を向けられ一瞬顔を顰めそうになるが、これも名が売れたパーティーの性だと割り切りクエストボードへと足を向ける。



 いろいろクエストを見てみたが、荷物持ちとはいえパーティーメンバーが一人欠けた事に変わりはなくメンバーの精神状態を考慮し、Sランクに上がったばかりだったが大事を取ってBランクの討伐クエストを受けることにした。



 受付カウンターでクエストを受理し、かつてのルークのメンバーたちは準備をするためそこで一旦解散となった。



 それから1時間後、準備が整ったメンバーたちは街の大門に集合したがここでいろいろともたつく事態が起こる。



「そう言えば、馬車の手配やらなんやらは全部アイツが管理してたんだっけ?」



 そう呟いたのは女性魔法使いだった。

 今までこのパーティーが行っていた雑務のほとんどを担当していたのがルークであったため、馬車の手配をしていなかったのだ。

 ここに来てルークがやっていたことが地味だが面倒なことだったんだとそこにいた誰もが思い知らされることになり、誰ともなく苦笑いが浮かぶ。



 馬車の手配が終わり、改めて出発しようとしたのだが、またしてもトラブルが起こってしまう。



「じょ、冗談じゃありやせんよ! 誰が好き好んで【魔の森】に行くって言うんでさぁ!?」


「そこをなんとかお願いできないだろうか? 我々の中に馬を操れる者はいないんだ」


「悪いですが、それは無理ってもんですぜ旦那。この街にいる御者の中であの森に近づく奴なんて、自殺願望があるかよほどの命知らずかのどっちかだ」



 実はこのパーティーメンバーは馬車の手配をルークに一任していたが、御者もまたルークがずっと担当していた。

 パーティーのランクがBランクを超えた辺りで、現地まで連れて行ってくれる御者がいなくなってしまったため、いつの間にかルークが御者をやっていたのだ。



 Bランクのクエストともなれば、かなり危険の伴う内容の依頼が多く本当に実力が無ければ攻略することは困難だと一般的に言われていた。

 そのため冒険者として実力のある人間ならまだしも、非力な御者が彼らと行動を共にするのは自殺行為に等しいものだった。



「仕方ない、徒歩で行くしかないな」


「ちょっと冗談じゃないわよ! 徒歩なんて一体どれだけ時間が掛かると思ってるのよ!? 少なくても片道十日以上は掛かるわよ」


「だが、このまま依頼を受けないわけにもいかんだろ? もうクエストは受理されちまってるんだし」


「ルークさんがいてくれれば……」


「ともかく他の御者を当たってみたらどうだろうか? 御者は彼だけじゃないんだし」



 リーダーが徒歩で行くという提案に反論する女性魔法使いを斧使いの男性が窘め、女性神官がルークの名を呟き男性盗賊が他に請け負ってくれる御者がいないか探そうと提案する。

 ここにいる誰もが薄々理解しつつあった。今までルークという存在がどれだけ役に立っていたのかということを。



 その後も他の御者に頼みに行くが、誰も彼らの依頼を受ける者はいなかったため、妥協案として魔の森近くの村までという条件を出したらなんとか受けてくれる御者が見つかった。



 だが、依頼料は通常の金額よりも当然高額で余計な出費をしてしまったとリーダー含めた他のメンバーは嘆いた。

 何はともあれこれでようやく出発できることを喜んだ五人は目的地の【魔の森】に向け出発した。








 事態が急変したのはプリマベスタの街から出発して三日後の事だ。

 突如として馬車の周りをモンスターに取り囲まれるという事態が起こった。

 ランク自体はDやEランクそこそこのモンスターだったが、いかんせん数が多すぎた。



 彼らとて伊達にSランク冒険者まで上り詰めていないため、この程度のモンスターが出てきた所で鎧袖一触だが、五人の冒険者に対し百を超えるモンスターの数では当然討ち漏らしが出てくる。



 そして、非力な人間にとってDやEランクというモンスターは十二分に脅威に値する化け物である訳で……。



「く、くそー! おい、御者がやられちまった!」


「マジかよ……このあとどうすりゃいいんだよ? 俺ら馬なんか操れないぞ」


「まったくまさか馬車での遠征がここまで大変だったなんて信じられないわ」


「ルークさん……」


「とにかく落ち着くんだ。今は冷静に目の前のモンスターを殲滅することに集中しろ!」



 男性斧使いから始まり順に男性盗賊、女性魔法使い、女性神官が声を上げ狼狽える中、リーダーの男性剣士が最優先でやるべきことを指示する。



 それから全てのモンスターを掃討出来たのは、数時間が過ぎ辺りが暗くなってからのことだ。

 数十匹というモンスターの死骸をそのまま放置するわけにもいかず、夜通し死骸の処理を行い全ての作業が終了した時には真夜中をとうに過ぎていた。



 彼らがこのような事態に遭遇したのは初めての経験だった。

 それもそのはず、いままで御者を担当していたルークは無意識のうちにモンスターが大量発生する場所を見抜き、魔物除けの対策を施しながら御者の仕事に徹していたのだ。



 今回担当した御者は、プリマベスタにやってきて日が浅くプリマベスタ近郊でのモンスター事情も明るくなかったため、魔物除けの対策を怠っていた。



 プリマベスタの御者にとって、道中でモンスターが大量発生することがあるというのは常識だったのだが、街にやってきて日が浅かった御者は楽観的な性格をしていたため万全な準備をしていなかったのだ。



 その結果モンスターが大量発生し、その襲い来るモンスターの攻撃により帰らぬ人になってしまった。

 いくらSランクの冒険者と言えども数の暴力の前には無力なのである。

 自分の身は守ることはできても、他人の事を庇いながら戦うのは至難の技だったのだ。



「リーダーこれからどうするの?」


「とりあえず夜が明けるまでここで野営するしかないだろう。下手に動いてモンスターの襲撃を受けるわけにはいかないからな」


「ここで野営する事には賛成だが、どうやって魔の森までいくつもりだ? 幸い馬車と馬は無事だったが、俺たちの中に馬車を操れるやつはいないぞ?」


「とにかくそれは夜が明けてから話すべきだ。今もモンスターがこっちの隙を窺ってるからな」



 他の仲間が今後について話す中、女性神官は一人離れた場所で物思いに耽っていた。

 かつての仲間であった彼、ルークをパーティーから脱退させたことは間違いではなかったのかと。

 彼のお陰で何の不自由もなく、かつ安全な冒険ができていたとするのなら彼をパーティーから追い出してしまった事で危険度が増すのではないだろうか?



 それは他のメンバーも薄々感じているが、敢えて口に出さないようにしていることだった。

 あれだけ話し合って出した結論が間違いであったと認めたくないからだ。

 そして、今まで地味な雑務と馬鹿にしていたこと一つ満足にできない我々の無能さも同じように受け入れられないことだからだ。



(逃がした魚はデカかった、それを今更後悔しても後の祭りということですかね……)



 そう心の中で呟いた女性神官は今後の方針が決まった他の仲間の元へと小走りに走り寄っていくのだった。






 その後、なんとか一夜を乗り切った彼らは拙いながらも御者の真似事をしながら進んでいた。

 だが、御者という仕事はそれほど簡単なものではないようで、途中馬があらぬ方向に進んで行き整備された道とは別の方向に進んで行く事態が頻発したため、何度も馬車の進行が止まっていた。



 それでもなんとか、馬を元の道に誘導しながらも徒歩より早い時間で魔の森手前の村までたどり着いた。



 ここで【魔の森】について説明するが、【魔の森】とは“冒険者の墓場”と称されるほど危険な森であり、一度入れば生きて出ることは不可能とさえ言われている場所だった。



 だが彼らはそんな場所を幾度となく生還しており、だからこそ四年という短期間でSランク冒険者パーティーまで上り詰めることができたと言っても過言ではなかったのだ。



 【魔の森】のモンスターの平均ランクはCランクと言われているが、出現するモンスターのランクが最低でもCという意味のものに過ぎない。



 状況如何によっては、Bランクや災害レベルのAランクという強大な力を持ったモンスターも頻繁に出没するため、高位の冒険者でなければその森に入ることは憚られるのだ。



「ふうー、なんとかここまでたどり着いたな……」


「ええ、ホントにここまで苦労したわ」


「とりあえず、今後の方針はここまでで消費した装備の補充と体力の回復のための休息ってところかな?」


「確かに今回はとかく疲れた気がする」


「……」



 この場にいる誰もが思っていることだったが、誰も口には出さなかった。

 “これだけ苦労したのは、ルークがいなかったからではないのか?”という言葉を……。



 その後十分な休息と魔の森に入る準備を整え、彼らは魔の森に向け出発した。

 だがこの時以降彼らの姿を目撃した者は誰もいなかった。

 そして、この新生Sランクパーティーが失踪したことで、新たにルークに面倒な依頼が舞い込むことになるのだが、そのことをまだルークは知るよりもなかった。

※次回更新予定日:2019年5月12日 16時~18時

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