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敬天愛人  作者: 北海雄一
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江戸 3

次の日吉之助はいつもの様にお庭方の仕事をしていた。

そこに足音が遠くからしてきた、この足音でお殿様だと吉之助は分かった。

「西郷、どうだった。」

島津斉彬が頭上から尋ねる。どうだったとは藤田東湖がどういう印象だったかと言うことだろうと吉之助は思った。

「ご立派なお人でございもした。」

「違う。」

そういう事を聞いているのではないと島津斉彬は言う。

「お前は何を学んだか申してみよ。」

「あい、今日の本は異国に狙われていると聞きもした。」

「それで。」

「あい、その為に公武合体が必要であると教わりもした。」

「なるほど。」

そこで島津斉彬は言葉を切った。そして

「今日の本は危機にある、それは西郷お前にも分かっただろう。これからこの国は大きく変わる、その先頭に薩摩が立たねばならん。」

「薩摩がでございもすか。」

「そうだ、その為に今重大な事が進められている、いずれ西郷お前の力を借りるときがくる。」

島津斉彬は朗々と述べた。

重大なこと、それが何かは分からないが殿はその為にこの吉之助の事を必要だと言ってくれた。

この時の吉之助の感動はとても言葉では言い表せられない。

「今日はまた藤田東湖に会ってこい。」

最後に島津斉彬はそういうと忙しそうに奥に消えた。


吉之助は昨日に引き続き藤田東湖宅に来ていた。

「来たか。」

藤田東湖はそう言って吉之助を出迎えてくれた。

昨日と同じ部屋で向かい合い座る。

藤田東湖は煙管を吹かしながら言う。

「尊王攘夷を知っているか。」

「あい、言葉は最近よく耳にしもす。異人を追い払おうとする思想でございもんそか。」

吉之助は答える。

藤田東湖は吉之助を見つめ

「少し、だが大きな部分が欠けている。」

と言った。

「西郷、この国の頂点に君臨するお方はどなただ。」

「頂点でございもすか。」

「うむ。」

吉之助は考えた、普通に考えれば将軍という事になる。しかし、この国には京に天子様という方がおわすということは聞いたことがある。

「天子様か公方様ということになりもすが。」

「どちらが上だと思う。」

藤田東湖は少し笑いながらそう言った。

天子様と公方様に順列などつけられないと吉之助は思った。確かに順列をつけるなら天子様より上はないであろう。位階等も全て朝廷から送られる、公方様とてそうなのだ。

しかし、一面吉之助は武士である。武士である以上武家の棟梁は神に等しくそれが公方様なのである。

その様なことを考えながら

「おいには分かりもはん。」

そう言った。

「お前は正直な男だな。」

藤田東湖はそう言い笑う。

「先生はどちらが上だと言われるのでございもそうか。」

「天子様である。」

藤田東湖は断言した、吉之助は絶句した。

「そのようなこと。」

恐れ多いという言葉を吉之助は飲み込んだ。

しかし藤田東湖は全く怯まなかった。

「そもそもこの国の中心は今も昔も恐れ多くも天子様であらせられる。確かに公方様は武家の棟梁であらせられ武家を纏められるお方である。どちらも大切だ。」

藤田東湖は言う。

「しかしこの国はその頂点にあらせられる天子様を長い間なしがしろにしてきた。」

なんという事を言うのだろう、吉之助はそう思った。




最後まで読んでくださりありがとうございます。

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