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敬天愛人  作者: 北海雄一
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江戸 1

吉之助は江戸に向かう大名行列の中にいた。

初めて薩摩藩を出た吉之助には見るもの見るものが新鮮だった。

道中ご藩主様、島津斉彬が休息を取るときがある。

そのご休息のある時島津斉彬は西郷の顔を見ておこうと思った。

実はあの藩邸の前で大声を出していたあの頃から西郷と言う男が気になって仕方なかった。

そばに控える藩士に言った。

「西郷というものがこの行列の中にいるな。」

「はっ、西郷でございますか。」

「うむ。」

そこでその藩士がすぐ西郷を呼びに来た。

吉之助は驚いた。ご藩主様がおいのことを。

急ぎ吉之助は島津斉彬の元へ行く。

「そちが西郷か。」

島津斉彬が言う。

「はっ。」

吉之助は腹の底から声を出した。

「面を上げよ。」

島津斉彬が言うと吉之助は恐る恐る顔を上げた。

目の前にあの島津斉彬公の顔がある。

まぶしくて直視できない。

「ははあっ。」

すぐにまた頭を下げた。

島津斉彬は驚いていた。なんというやつだと思った。全身に気迫が溢れている。それにしてもあの目はなんだろう。こちらが惹きこまれる目をしている。やはりわしの見る目に狂いはなかったと思った。

吉之助は行列に戻った。

共に江戸に向かう藩士に聞かれる。

「ないごてお殿様はおはんを呼んだとなあ。」

吉之助はきっとあの意見書をお殿様が見てくれたのだろうと思った。

「何を聞かれたとなあ。」

藩士は詳しく聞いてくる。吉之助は正直に答える。

「いんや何も。」

「何も話しとらんとな。」

「あい。」

しかし吉之助はお殿様が自分の事を覚えていてくれた事に身の震える思いだった。


江戸に着いた。何と華やかだろうと吉之助は思った。

ここが夢にまで見た江戸かと思う。

そのまま芝上屋敷に入った。先に江戸に来ていた有村俊斎が出迎えてくれた。

「吉之助さあよく来もした。」

「有村さあ。」

吉之助も喜び声を上げて抱き合った。

「よく来もしたあ。」

有村俊斎はそう言って吉之助を迎えてくれた。

その後すぐに吉之助は島津斉彬によってお庭方という役職に付けられた。

「そいはなんでごわす。」

有村俊斎はお役目を受けた吉之助に言う。

「よくわかりもはん、お屋敷のお庭を整えるお役目と聞かされもした。」

「そんな役目がありもしたか。」

有村俊斎は聞いたことがなかった。

実際そんなお役目はなかった。島津斉彬が吉之助を育てるために設けたものだった。

吉之助の身分ではお殿様と話そうと思っても話せない。しかし庭で控えているものに声をかけるのだったら身分も問題なかった。

その新しい役職を設けるほど島津斉彬は西郷吉之助に期待していた。


ある日いつものように吉之助がお庭を整備していると斉彬が通った。吉之助はすぐに畏まって頭を垂れた。

「西郷。」

斉彬の声が頭上からした。

「あい。」

吉之助は辺りに響く声で答える。

「藤田東湖を知っているか。」

藤田東湖、当代随一の学者であるということは有名だった。

「知っておりもす。」

「会ってこい、これを持っていけ。」

そう言って斉彬は藩主自らの紹介状を吉之助に持たせた。

「わかりもした。」


次の日吉之助は藤田東湖宅を訪ねた。

「お尋ねいたしもす。」

そう言って藤田東湖宅の前で言う。

すぐに下男が出てきた。

「どちら様でしょう。」

「西郷吉之助と申しもす、藤田東湖先生に会いに来もした。」

下男はジロジロと吉之助を見た。高名な藤田東湖に一目会ってお話を伺いたいと会いに来るものは多い。

「恐れ入りますがどなたかのご紹介などございますでしょうか。」

「ここに。」

吉之助はそう言って斉彬から持たされた紹介状を渡す。

「薩摩様の。」

下男はそう言って驚きすぐ藤田東湖に会える運びとなった。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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