憧れ3
その頃藩邸では島津斉彬が薩摩藩家老小松帯刀といた。
「今の声はなんだ。」
吉之助の大声に対して言った。
「さて、なんでございましょう。」
なにを言っていたかは分からないがすごい声が斉彬のもとまで届いていた。
「放っておかれませ。」
小松帯刀は代々高い身分で島津家安泰が第一である。
「調べよ。」
斉彬はそれだけ言った。
しばらくしてそれが郡方書役助の西郷吉之助だということがわかった。
「それでその者はなんと言ったのだ。」
斉彬は小松帯刀に言う。
「なんでも大久保正助なるものの父が島流しにあっているそうでご赦免願いたいと。」
小松帯刀は言う。
そうか、とも言わずに斉彬は考え込んだ。
そしてしばらくして
「よし、わしは皆の意見を聞こうと思う急ぎそうせよ。」
小松帯刀は下々の意見まで殿様が聞くのはどうかと思ったが反対はしない。
「わかりました、急ぎそうさせます。」
そう言った。
「その西郷吉之助とやら、会ってみたいものだ。」
斉彬がそう言ったのを小松帯刀は驚いて見た。
その様な人物だろうか、小松帯刀には殿様の考えが分からなかった。
しばらくして吉之助たちは殿様が自分達の意見を聞こうとなされてることに驚き感激した。
吉之助はさっきからしきりに大久保正助に
「さすが斉彬様じゃ。」
と口にしている。
正助も感激していたが謹慎の身なので自分が意見を言うことはできない。
「心配することなか正助どん、おいが意見を出しもんで。」
吉之助はそう言う。
「ありがとうございもす。」
そう言って正助は吉之助にお礼を言った。
その日から吉之助は何度も意見書を書いた。
その意見書を書いているときだけ西郷は崇拝する殿様と話すことができた。
「国の根本は農業でございもす。農民が食えぬ有り様では国は成り行きもはん。」
吉之助は郡方書役助の役目についていたから農民の苦しみを直に見ていた。
「また、不当な嫌疑をかけられたままそのまま役目を解かれたり島流しになっているものが多くおりもす。不当な嫌疑は晴らさねば国は成り行かんと考えておりもす。」
この様に吉之助は何度も書いて意見書を送った。 ご藩主様が見てくれているかは分からない。 しかしあの仰ぎ見た斉彬様ならきっと見て下さっていると吉之助は信じていた。
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