憧れ2
斉彬が藩主になって城に入り家臣に最初のあいさつする日がやってきた。
久光派だった重臣達は平伏しながら恐怖で言葉もでない。これで自分達は終わったと皆思った。 しかし斉彬は上座につき家臣一同を見渡し驚くことを言った。
「私が新たな藩主になった島津斉彬である。
私が藩主になるまでにはお家でいざこざがあった。しかし今私が藩主になったからにはそのいざこざも終わりである。」
皆平伏している。
「そこの者どもには変わらず忠勤を励むように。」
そう言って久光派だった者たちを見る。
皆驚いた。そして斉彬派だった者たちは落胆した。 まさか久光派だった者達が許されるとは夢にも思わなかったからだ。
「わかったな久光殿。」
そう言って控えている弟を見た。
久光は恐縮しきってしまった。なんと偉大な兄上だろう。そもそも久光自身は兄を押し退けて藩主になろうなど思っていなかった。
ただ父と母がそうしたがっただけだった。
「ははっー。」
久光は深く頭を下げる。
「わかったな皆の者。」
斉彬の言葉で家臣一同かしこまる。
とにもかくにも薩摩の上から下まで皆が思っていたようなお由良派の成敗はなされなかった。
「そげな馬鹿なことがありもんそか。」
吉之助は正助の家で憤る。有馬新七と村田新八もいる。
「ないごてじゃ。」
二人は地面に突っ伏して涙を流す。
大久保正助は怒りと落胆で涙も出てこない。
「おいは許されんとか。」
ただそう呟いた。
「そげな馬鹿なことありもはん。」
吉之助はそう言い立ち上がる。
「今からご藩主様に意見しに参りもんそ。」
そう言って有馬新七と村田新八を見る。
「ああ、もちろんじゃ。」
正助は驚き止める。
「やめてくいやんせ、そげなことをしたら命がなか。」
しかし、3人はもう家を出ようとしていた。
「やめてくいやい。」
正助は叫んだが3人は振り返らなかった。
吉之助たちは藩邸の塀の前にきた。
門番がおはんら、なんじゃと言った。
「殿様に会わせてくれもはんか。」
吉之助は正直に言った。
門番の二人はなにを言ってるんだという顔をする。
「そげなこと出来るわけなかろうが。」
そう言って追い払う。
しかし吉之助たちもこのまま引き下がれなかった。
「ご藩主様聞こえもすかあ。」
吉之助は周りが驚く大声を出した。
「や、やめんか。」
門番が止める、しかし吉之助は地面に突っ伏して言う。
「下加治屋町の大久保正助いうものの父ぎみは先の騒動で鬼海島に流されておりもす。
その正助どんも未だ謹慎の身でありもす、どうかご赦免願えんでしょうか。」
有馬と村田も頭を下げ言う。
「お願いしもす。」
門番達も地面に突っ伏す3人の扱いに困った。
「ええからはよ帰らんか。」
藩主に告げ口もするきがおこらないのは門番の二人も三人の気持ちが分かるからだった。
なぜにお由良の一派は成敗されんのじゃろ。
そう思う藩士は非常に多かった。
しかし結局藩主島津斉彬に会うことは敵わず吉之助たちは大久保の家に帰っていた。
「すいもはん正助どん。藩主様にお目もじかなわんかった。」
有馬と村田も泣いていた。
「そげなこと、おいどんなんかのために。」
正助は嬉しさで泣いていた。
「馬鹿なことをしなさんなぁ。」
正助は三人が切腹にでもなるのではないかと気が気ではなかった。
「おはんらが生きて帰ってきてくれたことがなによりでごわす。」
正助はこの日のことを生涯忘れなかった。
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