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第6章 自己紹介は公開処刑

俺のクラスは1年A組だったな。まあ、担任の一寸子先生が教室に誘導してくれたから良かった。俺は教室に入ると、40人程度の男女がザワザワしていた。


それと、男女の割合は半々位だ。クラスメイトは黒板に座席表が張ってあったので、それを見ながら各自の席に着きはじめた。男女が隣同士になるように、配置されているようだった。


俺は窓際の一番後の席で、隣にはチューコがニコニコしながら席に座っていた。

「兄様、隣ですね。良かったですよ」

「よくないよ、まったく。いや、マジで」

チューコの横はうるさくて、寝られないのでマジで嫌である。周りのクラスメイトも、俺達のように前後や左右で雑談をしている。


その雑談の内容が耳に入る。どうやら俺の事を言っているみたいだ。

「あいつ、ダブりらしいぞ」

「マジかよ。この高校はそんな頭良くないでしょ。ガセじゃあないの?」

「いや、俺の1コ上の先輩が言っていたから間違いない」

げっ、もう噂になっている。目立っているじゃねえかよ……最悪だ。


しかし、雑談は一寸子先生によって幕を閉じたのであった。教壇に立った先生が手をパンパン叩きながら喋った。

「はいはい。皆さん、お静かにお願いしますよ。自己紹介をしてもらいますよ。まずは、出席番号1番の……」


1人ずつ、先生に名前を呼ばれた奴から、その場に立って自己紹介をしていく。極度に緊張している奴もいれば、受け狙いの奴、無難な奴と様々だ。


一寸子先生がチューコの名前を呼ぶ。

「では、次は小塚原チューコさん」

チューコは席を立って大声で挨拶をした。

「はぁーい。小塚原チューコです。よろしくお願いします。趣味は食べる事です。えへへ」


俺はチューコの目を見る。それで終わりでいいと合図を送った。余計な事を言うとボロが出てしまうからな。察したチューコは席に座ったのであった。座ると俺の方を見て小さくピースサインをした。そして、クラスメイトの拍手がパチパチとされた。


チューコにしては目立たないように挨拶が出来たし、俺も目立てないように自己紹介をしよう。しばらくして、俺の自己紹介の番になった。

「次は石川モンゴ君ね。よろしくお願いします」

そう言って、先生は親指を立てた。フォローするハンドサインのつもりなら止めてくれよ。逆に目立つわ。俺は気を取りなおして、自己紹介をしようとした。


そこで、クラスメイトの1人がポツリと呟く。

「あいつ、ダブりらしいよ」


その言葉が伝染したのか、教室がザワザワし始めた。

「マジかよ。ダブりかよ。なんか気まずいな……。タメ口はあかんよね?」

「ヤンキーとか? 見た目は普通っぽいけど」

「ダブりは本当みたいだよ。敬語使った方がよくない?」


まずい、目立っているし。さっさとパンピーだと分かってもらえるように終わらそう。最初が肝心だ。大声でテキパキと終わらせるのが一番だ。


俺は素早く席を立って自己紹介をした。

「石川モンゴです。みんなの言う通り、留年しているのは事実です。でも、敬語とか使わなくて大丈夫です。みんなと楽しい1年を過ごせればいいと思います。あと、ダブりって呼ばれるのは恥ずかしいから、モンゴって呼んでくれよ。まっ、留年キャラっていうことでヨロシク」

そう言うと、クラスが爆笑の渦になる。まるで笑点の会場のようだ。

「留年キャラww」


おっ、何か好感度に包まれている感じだ。まあ、悪くはない感触だ。お笑い担当は何処のクラスにでもいるし、特に怪しまれないだろう。しかも、このレベルで笑いが起きるクラスだからガキばっかりで助かるぜ。


しかし、その雰囲気を担任がぶち壊したのであった。一寸子先生が教壇をバンと叩いて、大声で叫んだのである。

「笑うなぁー」


クラスメイトの1人が笑いながら先生に言う。

「アハハハハハ。先生、何マジ切れして……」

先生は更に大声で言葉を消す。

「うるさーい」


すると、教室がシーンとなった。先生の顔はまるで鬼のようだった。先生は教壇を更に強く叩く。

「あ・や・ま・り・ま・し・ょ・う。これはイジメです。イジメに違いないです。いや、もはやイジメであるに寸分もない状態であるのです。つまり、くどくど……」


一寸子先生はイジメ、イジメと不気味な呪文のように何度も言っていた。これには、俺もドン引きだぜ。この先生はイジメにトラウマでもあるのだろう。多分、クラスメイトも同じ事を考えていたみたいだ。


すると、クラスメイトがボソボソと小さい声で呟く。

「モンゴくん、ごめんね」

「モンゴ先輩、すいませんでした」

「モンゴさん、サーセン」


クラスの雰囲気がクソみたいな空気になった。その中心の俺は共感性羞恥を味わっており、死にたくなっている。くそ、なんでこんな辱めにあうのだろう。もはや、初日でクラスのポジションが決まってしまった。


このポジションから変わる事が出来ないのが現実だ。はぁー、学校やめたいぜ。この日、俺に声を掛けてくれるクラスメイトはいなかった。最悪の2回目の1年生生活が始まったのである。


それから、時刻は正午を過ぎると、学校の1日が終わろうとしていた。最悪の自己紹介が終わり、今日は下校して終わりだ。俺は革靴を履いて、校門の方へ向かう。校門前では、新入生と親が写真を撮っていた光景が目に入る。みんな、幸せそうで羨ましいぜ。

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