エピローグ
俺とチューコは深夜の高層ビルにいた。
時刻は深夜の2時過ぎ頃である。今回のターゲットは悪徳IT企業である。詐欺まがいの情報商材を売っているので潰してやるのだ。今や情報商材ビジネスは、世間知らずの若者に売れまくっている、IT系のビジネスのひとつだ。もちろん、中身はスカスカの代物だ。
俺もモモ姉に言われて色々と調べて、大学生なのに借金までして、100万もする情報商材セットを買った奴もいるらしい。当然、ビジネスはうまくいくはずもなく、借金だけが残り、大学中退をよぎなくされたらしい。
そして、鬱病になって、引きこもりになるという、よくあるパターンである。まあ、日本では騙される奴が悪いとよく言う。でも、自分の家族が同じ状況になったら、同じことを言えるだろうか? やっぱり、俺は騙す奴が一番悪いと思うぜ。それが、合法ビジネスだとしても……。
なので、今回は顧客データと金を盗み、顧客の口座に金を返すだけのシンプルな仕事だ。もちろん、ブラックカンパニーの関連企業である。まったく、豊臣もこりない男だぜ。
前回の闇金業者と同じで、ビルからビルに忍び込むパターンである。IT企業の社長はホスト風の男で、高級マンションの最上階に住んでいた。まったく、成金は高級マンションの最上階が好きな奴が多くて困るぜ。俺はロープの矢が付いたボーガンを鞄から取り出す。
前回の闇金と同じく、こちらの高層ビルより、高級マンションの高さが低い。なので、マンションの屋上の壁に向かって矢を打ち込んだ。すると、ビル間に1本のロープが斜めに張られた。このロープに、自転車のようなハンドルがついた滑車をつけて滑るだけだ。
前回はチューコを背負って、首を絞められて、落下するという結果になってしまった。なので、今回はタンデムパラグライダーのような器具を使用する事にした。タンデムパラグライダーとは、2人乗り専用のパラグライダーである。
前側をチューコにして、後側に俺がいる形だ。俺がチューコを、後ろからベルトのようなモノで、お互いの腰を固定する形とイメージしてくれ。これなら、後から首を絞められる可能性はゼロだ。
俺はチューコの後ろから、腰ベルトをまわして固定する。
「よし、チューコ痛くないか?」
「何か、赤ちゃんの抱っこショルダーみたいで、かなり恥ずかしいですね。てへてへ」
「だって、仕方ないだろ。前回みたいに、俺は首を絞められたくないぜ。お前は目を閉じているだけでいいよ。あとは目を開けるなよ、絶対にな。あと、フリじゃねえからな……頼むぜ」
チューコはニッコリと笑顔で返事をする。
「了解です、兄様」
なんか、啓礼のポーズがやたら、鼻についてムカつく。まあ、いいや。さっさと、仕事を終わらせて、早くベッドで寝てえ。
俺は滑車のついたハンドルを握る。
「じゃあ、行くぜぇえ。チューコ、絶対に目を開けるなよ。絶対に……」
「はぁーい」
そして、ビルの手すりを蹴って大ジャンプをした。
俺達は向かいの高級マンションに向かって、滑車で軽やかに滑っていく。
よし、今回は成功しそうだ。向かいのマンションの屋上まで、残り10メートル位だ。もはや、何の問題もなく行けそうだ。
一応、俺はチューコに声をかける。
「チューコ、大丈夫か?」
「ひええええええええー。やっぱ怖いですぅー」
チューコが首を左右にブンブンと動かす。
ふと、チューコの横顔を見ると、目をカッと見開いていた。
「バカチューコ、目を開けるからだ」
「そんな事を言っても、ひぇええええええー」
そして、チューコは手足をバタバタして暴れ出した。
「バカ、落ちつけ。あと、少しだけ我慢しろ」
「無理です、無理、無理、無理ぃー」
そして、俺はチューコの頭突きを、鼻に喰らってしまう。
ガツンという衝撃で脳が揺れた。
「ぐえっ……」
俺は痛さで、涙がこぼれ落ちて、ハンドルから手を離してしまう。すると、地面に目がけて落下していった。
2人同時に声をあげる。
「うわぁああああー」
「ひぇえええええー」
だが、俺達は運が良かった。スピードと勢いがあった為に、落下する事なく、高級マンションの窓ガラスに突っ込んだ。
耳にガシャーンという音が響き渡る。そして、広い部屋の中にダイブして、あたりにガラスが飛び散った。俺は背中から着地して、上にはチューコが乗っているので、受けるダメージは2倍だ。
すると、背中に衝撃が走って声が漏れる。
「ぐえっ……。くそ、いてーぞ。バカヤロー」
まったく、前回の闇金と同じパターンの侵入の仕方じゃないか……バカチューコめ。
俺はチューコにゲンコツを喰らわす。
「バカ野郎、飛び降り自殺しにきた訳じゃないんだぞ?」
「あいたたた、ごめんなさい……。でも、私は兄様がクッション代わりになって、あんまり痛くないですよ」
「死ね」
俺はそう言って、もう1回ゲンコツをお見舞いした。
「あいた―」
チューコが痛がるが、俺は説教を続ける。
「こんな、派手にガラスを割りやがってよ。俺がモモ姉に怒られるんだぞ? 分かっているのか?」
「ごめんなさい。しくしく」
その時、IT企業の社長が声をかけてきた。コイツが今回の悪者だぜ。
「てめえら、人の家に上がり込んで何やっているんだ? 殺すぞ、コラッ?」
おっと、すっかり怒りで目的を忘れていた。コイツの金庫から、顧客データと金を盗むのが今回の任務だ。俺はチューコと繋がっている腰ベルトを外した。すると、自由に動けるようになった。
IT企業の社長が、ポケットからナイフを取り出して凄む。
「てめえらぁ、誰だよ? おい、誰だって聞いているんだろがぁ?」
俺とチューコは目を合わす。そして、ゆっくりと2人揃って立ち上がり、各々がカッコいいと思うポーズをした。
俺は派遣玉を向けて名乗った。
「俺達はギゾクーズだ」
とりあえず、おしまいです。
いつか、続きをかくかもしれません。
最後まで見て頂きありがとうございました。




