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第50章 そして日常へ

それから、1週間の月日が流れた。俺は自宅入院をしており、モモ姉と一緒にリハビリをしている。足の傷口は綺麗に切られたので、逆に治りが早く済みそうである。俺達の面倒はチューコが見てくれている。さて、朝飯の時間なのでリビングに行くか……。


俺は足を引きずりながら、いつものリビングへ移動した。リビングに入ると、チューコとモモ姉が椅子に座っていた。


すると、2人が声をかけてきた。

「兄様、おはようございます」

「おはよー、モンゴ。早く座れよ」


テーブルの上には目玉焼き、ウインナー、サラダが置いてあった。おっ、今日は美味しそうだな。もう、サンドイッチ地獄は勘弁だぜ。


俺も椅子に座ると、モモ姉が口を開く。

「じゃあ、みんな揃ったな。チューコが作ってくれた食事を食べようぜ」

「はいよ、いただきます」

俺はそう言うと、食べながらテレビをつけた。


すると、ワイドショーでアナウンサーが事件の説明をしていた。そして、有名なコメンテーターが出演していた。色々なニュースが流れるたびに、コメンテーターが意見を述べる感じだ。


アナウンサーがニュースを読む。ーさて、次のニュースです。


居酒屋ブラックで働いていた杉森信盛さん(当時23歳)が、過労自殺したのは会社側の責任だとして、社長である六木氏などに6700万円の損害賠償を求めた訴訟で、親会社である豊臣会長は謝罪した上で、5400万円の和解金を支払い、再発防止策をとることで合意しました。


先日、社長の六木さんと従業員の堀さんが、刃物で刺されるという事件がありましたが、元従業員の女性が自首をしてきました。女性は杉森さんと交際のあったとの情報確認をしておりますー


アナウンサーがコメンテーターに聞く。

「この事件について、どう思われますか?」

「そうですね。刺された六木さんは気の毒ですが、過労死させるまで、働かせる会社もおかしいですね。まあ、日本の労働環境問題を、色々と考えさせられる事件でしたね」

「しかし、六木さんと堀さんは、一命を取り止めて良かったですね。世間では、刺した犯人はギゾクーズだと、思う人も多かった事件でした。なお、社員の残業代が振り込まれていたのは、ギゾクーズの犯行と警察が発表しました」


そこで、アナウンサーはフリップボードを手にする。

「このギゾクーズの犯行について、ネットではこのような賞賛の書き込みが多くありました」

アナウンサーがフリップボードの紙をめくると、ギゾクーズを褒めるコメントが記載されていた。


ー【朗報】ギゾクーズ人殺しはではなかった。

ーギゾクーズ、俺の会社の残業代も取り返してくれ(笑)。

ー俺もブラック企業をなくすのを応援します。

ーワイ、ギゾクーズを信じていた。これからも支持する模様。


それを見たコメンテーターが口を開く。

「まあ、賛否両論はありますが、ギゾクーズって結局は犯罪者なんですよ。しかし、若者に支持されている理由は分かりますね。バブル崩壊後から日本は不景気であり、若者が希望を持つことが難しい状態なのですよ。だから、ネットで憂さ晴らしをしたい、若者には支持されるのでしょう」

「なるほど、一理ありますね」

ここで、ADのスタッフがアナウンサーに紙を渡す。


すると、アナウンサーが顔色を変える。

「ここで、緊急ニュースです。居酒屋ブラックの社長である六木氏が緊急逮捕されました。女子高生に暴行の容疑がかかっています。また、新しい情報が入り次第、番組で詳しい内容を伝えたいと思います。次は天気予報です」


俺はテレビを消した。

「これって、モモ姉がしかけたのか?」

「ああ、実は仲間にクリーニング屋に潜り込んでもらい、六木のスーツに盗聴器をつけてもらってね。ルリちゃんの暴行の瞬間を録音していたんだ。それをルリちゃんの家のポストに、入れておいたのさ」

やっぱり、モモ姉は抜け目がないぜ。


俺は質問を続ける。

「じゃあ、ルリが録音データを持って、警察に駆け込んだって事か?」

「ああ、多分な。でも、ジャーナリストとして、自分を売り込むには、良い機会にはなったんじゃないかな? 警察にも顔が売れただろうしね」


そうか、○☓ビルに行く前にやる事があるって、この件だったのか……。そして、モモ姉の言葉通り、ルリは警察にパイプを作る事になった。それから、女子高校生ジャーナリストとして名声を高めていった。もちろん、過労死問題について、ブラックカンパニーの取材を続けている。


ちなみに、ギゾクーズに助けられた事を、きっかけに初恋をする事になる。その初恋の相手はギゾクーズの時の俺なのだ。ビルからの落下と同時に、恋にも落ちてしまったらしい。まるで、恋愛漫画みたいだ。


すると、ルリは部室でギゾクーズを捕まえて、改心させたいとか言い出すのだ。恋するルリは可愛いのだが、高校生としての俺との恋愛フラグは完全に折られた。

その話は、またの機会に語る事にしよう。


さて、話を戻そう。この事件をきっかけに六木と堀は逮捕されて、しばらくは刑務所暮らしになった。居酒屋ブラックも、廃業に追い込まれるのも時間の問題であった。社長が女子高生に暴力事件、従業員の過労死が明るみに出て、営業の再開は不可能に近い。


いわゆる、将棋で言えば詰みである。そして、親会社の会長である豊臣のダメージも相当なものだと思われる。次の株主総会で、責任追及する声も出ているみたいだ。今回の件で、豊臣も追い詰められたのは間違いない。


しかし、今回の不祥事で野望を諦める豊臣ではなかった。その後、一応の責任は取って会長職を辞任した。それでも、記者会見では可哀相な被害者を演じており、六木に全ての責任を押し付けるように、マスコミに印象操作を依頼していた。


すると、世間は豊臣に同情する声が広がっていた。そして、その後に息子に会長を継がせて、自分は相談役にまわったのだ。その息子がカロウシを操って、俺達の前に立ちはだかる事になる。この息子は天才的な頭脳をもっており、かなり恐ろしい敵となる。


なので、ブラックカンパニーを潰すのはもっと先になりそうだ。これも、またの機会に語る事にしよう。


後はネットではギゾクーズのホームページが出来た。そこではファン同士が、労働環境について相談をして、パワハラの悩みを解消しているらしい。正直、全ての労働者を救えるワケではないが、ギゾクーズの行動は過労死をなくすのに役立ったと思う。


この調子で、グループ会社を潰していけば、過労死で苦しむ人々も減っていくはずだ。それが俺の両親の敵討ちに繋がるはずだ。


そして、モモ姉が真面目なトーンで話す。

「これで、ルリちゃんの兄である杉森信盛も浮かばれるだろう。英戸リアンも、人殺しにならずに済んで良かったよ。まだ、若いからやり直せるだろう。あとな、バイクで事故死した友人の件は悪かったな、モンゴ」


俺はこの件でずっと罪悪感を持っていた。だけど、今回の件でそのモヤモヤが少し晴れた。結局は自分が行動するって、他人と衝突する覚悟がいるのだ。それは世の中にはそれぞれの正義があるからだ。俺、ルリ、豊臣のそれぞれの価値観がある。


どれが正しいかは自分で決めるしかない。だから、人を傷つける事もある。だけど、俺は自分でブラック企業を潰す覚悟を決めた。


だから、傷つく事や失敗を経験する事も、受け入れないといけない。その結果、友人が死んだのは事実だ。この責任は生涯背負っていくつもりだ。今思えば友人に対して、もっと色々な事が出来たはずだった。


例えば、友人が孤立した時に、もっと話し合えばよかった。他にも、クラスメイトにイジメを止めるように呼びかけるべきだった。


それに友達が暴走族に入った時は、チームを辞めされるように動くべきだった。俺はその努力を怠った。世間の大人のように傍観者になってしまった。そう、何も本気で動かなかった。


どこかで、正義の為の多少の犠牲と考えていたのかもしれない。つまり、ブラック企業を潰すのが目的になり、その他の視野が狭かったように思えるのだ。


それは過労死やイジメを見て見ぬフリをしている大人と同じだ。だから、次は絶対に間違えないようにしたい。その為にも、ちゃんと学校で友人を作って、相手の価値観も知って成長したい。


綺麗事かもしれないが、それが友人の供養になると思うのだ。

  

俺はその考えをモモ姉に伝えた。

「モモ姉、あいつの親父が悪い事を続けたら、もっと被害者が出て、死んだ人間も増えただろうぜ。だから、悪い奴は裁かれるのは当たり前だ。でも、そいつの家族をフォローするのもギゾク―ズの仕事だと思うんだ。俺は目の前の救える人間は救いたいんだ……」

「ああ、私もそう思うよ」

「次は死んだ友人みたいな人間を作らないように努力したい。モモ姉も協力してくれるか?」

「ああ、もちろんだ」

「兄様、私も協力しますよー」


モモ姉が笑顔でニッコリする。

「ふっ、そう言ってくれると助かるよ。モンゴ、大人になったじゃねえか」

「いつだって、俺は大人だぜ」

モモ姉が素直に褒めるので、照れくさくて目を背ける。


そこに、チューコが入ってくる。

「モモ姉さん、兄様。早く、朝食食べないと冷めますよ」

「そうだな。とりあえず、仲良く食べよう。家族3人でな……」


そして、3人はゲラゲラ笑いながら、朝食を仲良く平らげたのであった。今はこれが俺の家族だ。だから、モモ姉とチューコは絶対に守りたい。そして、俺はこんな平凡な日々が、しばらくは続けばいいと思ったのである。


だが、ブラックカンパニーを潰すまでは戦いは続くのだ。

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