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第45章 モモ姉の油断

そして、2人が刀を抜こうとした瞬間に、凄まじい爆発音が響き渡ったのである。俺は腕時計を見ると、爆発時間の4時頃であった。くそっ、もうそんな時間かよ。


おそらく、爆発音の距離からして、1Fフロアに仕掛られた爆弾だと思われる。ビル全体が崩れた訳ではないが、揺れは震度6度強くらいには感じられた。もう、1Fフロアは既に炎に包まれているだろう。


おそらく、シツケは逃げ場をなくして、ナガトを絶望させて、徐々に焼死させるのが目的だったと思われる。だから、1Fに爆弾を仕掛けたのであろう。それよりも、今の爆発の揺れで、天井の鉄骨が1本崩れてきたのである。それは俺達を目がけて、鉄骨はゆっくりと落下してきた。


チューコが大声で叫ぶ。

「あわわあぁー」

そして、鉄骨はズドンと目の前に落ちて来た。しかし、運がついていた。俺達はギリギリな所で当たらずに、怪我はしなかったのである。


あと1メートルずれていたら、潰れたトマトみたいになっていたはずだ。だが、モモ姉がチューコの大声に反応してしまう。


すると、モモ姉はこちらに振り向いて、敵に背を向けてながら大声を出す。

「モンゴ、チューコ、大丈夫か?」

「モモ姉、こっちは大丈夫だぜ……」

しかし、この行動が命取りになったのである。


ナガトはこのスキを見逃す事なく、背を向けたモモ姉の左腕を、日本刀で突き刺したのである。


モモ姉の左腕は、焼き鳥のように串刺しになり、今までに聞いた事ないような悲鳴をあげた。

「あぁああああああー」


ナガトは左腕から日本刀を抜くと、モモ姉の左腕から血が床にポタポタと落ちた。そして、ナガトは落胆する。

「モモチ、情に流されるとは情けないでありんす。もう、刀を握るのは無理でありんすね……」

「くっ……う……うるせーよ」


モモ姉の左手から、刀が床に落ちてしまう。出血により握る力がないのであろう。そして、両膝を床につける。


モモ姉は右手で左腕の血を抑えながら、鋭い目でナガトを睨む。

「ハアハア……。まだだ、勝負は終わってねえぞ……ナガト」

「モモチ、弱くなったぜござんせ。7年前のように、敵に妹君が殺された時の、モモチが見たいでありんす。あの100人斬りの丹波モモチを……」


100人斬り? いや、モモ姉に妹がいたのか? モモ姉は過去の事をあんまり話してくれないのだ。それはモモ姉だけではなく、チューコの家族の事も良く知らないのだ。


それはモモ姉が、俺達にトラウマを思い出さないように、配慮してくれている事だけは分かる。ギゾクーズいるメンバーは、何らかの理由で、家族を失っている奴ばかりなのだから……。


ナガトは俺達の方を見ながら、モモ姉と会話を続ける。

「あの少年と童女を殺したら、昔のモモチが戻ってくるでありんすか? そういえば、あの童女は死んだ妹君に、瓜二つでありんすね。まあ、試してみる価値はあるでありんすね」

「なっ? いや、関係ない。やめろ……」

「その反応、図星でありんすね。とりあえず、あの2人の首をはねるでありんす」

そう言い放つと、ナガトは俺達の方へ足を向けて来た。


だが、同時にモモ姉は捨て身で、ナガトに飛びかかったのである。しかし、ナガトは簡単に振りほどいて、床に叩きつけたのであった。


そして、モモ姉の顔を踏みつけて見下ろす。

「モモチ、そこで2人が死ぬのを見ているでありんす」

モモ姉は床を這いずりながら、右手でナガトの片足を掴んで止めようとする。


それは今まで見た事ない顔であり、まるで母親に泣きつく子供のようだった。

「ナガト、頼む。あの2人は見逃してやってくれよ……ハアハア……」

「それは出来ないでありんす。あの2人のせいで、モモチはダメになったでやんす」


よく分からないが、モモ姉の妹はチューコに似ていたのであろう。だから、異常に過保護だった理由が分かった。時々、チューコを見る目が母であり、姉であったような気がした。まあ、死んだ妹に重ねていたのも事実であろう。それでも、家族の絆は偽物ではないと分かっている。


そして、モモ姉は必死に喚く。

「ちっ、違う、あの2人のおかげで救われたんだ。だから、私がお前の言う事は何でもを聞くから、2人を殺さないでくれよ。頼むよ……ナガト……」

「ふう、モモチは必死でありんすね。あの童女を死んだ妹君と重ねて、家族ごっこのつもりでありんすか? あの子は妹じゃないでありんす」


モモ姉はニヤリと笑う。

「いや違うさ、あいつらは新しい家族だ。ずっと、殺し合いの人生で、私は人間の心は捨てていたよ。でも、2人は私の荒んだ心を癒してくれたんだ。こんな私を……」


すると、ナガトは首を振る。

「人間? わっち達は人でないでありんせ。孤独な暗殺者で、1人で生きていき、1人で死んでいく存在でありんす。それだけでありんせ」

「ふっ……私もそう思っていたさ。だけど、人は弱いし、寂しがりやで、1人では生きてはいけないよ。ナガト、お前にもいつの日か分かるよ。自分より、大切な人間が出来たらな……」

「………」

ナガトは無言で、モモ姉の腕を足で振りほどこうとする。


それより、あんな無様なモモ姉を見たのは生まれて始めてであった。いつも、余裕な顔で敵を倒していて、苦戦している所なんて見たことはなかった。多分、モモ姉はもうダメだ。


いつの冷静さと余裕がない。だから、俺が倒さないと3人とも死んで全滅だ。でも、俺は一歩も歩けないし、モモ姉でも勝てない相手にどうすればいい?


クソッ、おふくろが死んだ時と同じ状況だ。車内に閉じ込められて、足を怪我して動けずに、ただ母親が死んでいくのを見ていただけだ。しかし、今度は逃げる訳にはいかない。


足がダメなら空を飛んでも、チューコとモモ姉を助ける。2人は俺の家族なのだから……。俺は覚悟を決めた。


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