第42章 異国の美少女でありんす
モモ姉が5人衆を倒す、5分前に時間は戻る。俺とチューコは、階段をひたすら上がっていた。エレベーターは当然完成していないので、階段を使用するしかないのだ。
全てのフロア内は未完成であり、基本的には何もないが、色々な資材が所々に置いてあった。 ダンボール、緩衝材、鉄パイプ、工具など、その他と色々だ。俺の目指す場所は、最上階である10Fである。
目的はナガトを倒して、英戸リアンを救出する事だ。そして、リアンを自首させて、居酒屋ブラックの冤罪を晴らす事だ。しかし、ナガトってどんな奴なんだろうな? シツケがカロウシの中で、3本の指に入る殺し屋とか言っていたな。
おそらく、2メートルを超える筋肉男かもしれない。そう考えていると、10Fへ向かう階段が見えた。俺達は最後の階段を、全力で駆け上がったのである。最上階である10Fに出ると、潮風が冷たくビュッ―と吹いてきた。
寒さでチューコが呟く。
「うっうー。兄様、風が寒いですね。ぶるぶる」
「ああ、海が近いからな。潮風だろ」
チューコは手を額に当てて、周りを見回してキョロキョロする。
「兄様、英戸リアンさんは何処ですかね?」
「いないな……。まさか、豊臣がガセを掴ませたのか?」
俺は周りを見渡すと、四方の壁はなく、鉄骨の柱が何本も立っていた。天井になる部分も、鉄骨が横に何本も並んでいた。まるで、動物園の檻の中に閉じ込められた気分になった。
すると、チューコが空を指して大声を出す。
「兄様、あそこに人がいますよ」
俺は空を見上げた。すると、天井になる鉄骨の部分に人が座っていた。顔は見えないが、華奢な生足をブラブラしている。あそこに人がいるのは間違いないな。とりあえず、行ってみれば何か分かるだろう。
俺は派遣玉を取り出して、足が出ている鉄骨に目がけて振りかざした。玉のついた糸が、空に向かって伸びて行く。そして、ガチャという音と共に、先端の玉の部分が鉄骨に引っかかった。よし、あとは昇るだけだ。
俺はチューコに声をかける。
「おい、チューコ、俺に掴まれよ」
「えっ、でも……。兄様、恥ずかしいですよ。どきどき」
俺はチューコを無理やり抱きしめる。すると、チューコの顔は真っ赤になっていた。まったく、兄妹だろうが、何を恥ずかしがっているんだか……。俺は派遣玉の伸縮ボタンを押した。すると、糸が伸縮する事により、俺達を鉄骨の上まで引き上げてくれた。
鉄骨の上の幅は60センチ程度、長さは50メートル位であった。それは小さい頃に、遊んだ遊具の一本橋を思い出した。まあ違うのは、ここから落ちたら、大怪我は間違いないないだろう。
俺は周りを確認すると、突き出ている鉄骨の柱に、縛られた英戸リアンがいた。両手足を縄で縛られて、目隠し、口枷、ヘッドホンを付させられていた。いわゆる、見ざる、言わざる、聞かざる状態である。
これなら、俺達が助けても、正体がバレる事はないだろう。もちろん、手足を左右にジタバタと、動かしているので生きているのだろう。俺はホッと胸をなで下ろした。
しかし、すぐ手前に足をブラブラしている少女が座っていた。三度笠、花柄の合羽、刀袋を両膝に乗せている。もはや、江戸時代のコスプレのようだ。そして、三度笠を少し上に上げて、俺達の方へ振り向いて来た。すると、俺は少女と目が合った。
その瞳はエメラルドのような綺麗な色であった。髪も珍しい赤毛で、おそらく異国の少女なのであろう。まあ、美少女である事は間違いない。雑誌のモデルみたいで可愛いじゃん。
その異国の少女が声をかけてきた。
「わっちは藤林ナガトでありんす。主らがギゾクーズか?」
「そうだけど……。えっ、お前がナガトかよ?」
「そうでありんす。わっちが、カロウシのナガトでありんす」
俺はにわかには信じられなかった。ナガトはチューコよりも、小柄で細身の印象を受けた。こんな女がカロウシのメンバーで、3本の指に入っているようには、とても見えなかったのである。本当にコイツ強いのかよ?
ナガトはゆっくりと鉄骨の上に立った。
「主らは生け捕りにする命令でありんす。だから、抵抗しなければ傷はつけないでやんす。大人しく、捕まりなんせ。そうすれば、リアン殿も無事にお返しするでありんす」
なんだ、なんだ? この喋り方は方言かよ? いや、映画で吉原の遊女が、こんな喋り方だったような気がする。いや、今はそんな事はどうでもいい。今の目的はナガトを倒して、英戸リアンを救出するだけだ。
俺はナガトの提案を断る。
「いや、リアンは自力で助けるぜ。そして、テメーもぶっ飛ばす」
「やれやれ、相手の力量を分からないとは悲しいでありんす。後で後悔するでありんすよ」
「ふっ、しねーよ。行くぜ……クソチビ」
「ふう、残念でありんす。死ぬでありんせ、少年」
そう言うと、ナガトは刀袋を目の前にかざしてきた。日本刀でぶっ殺すって意味なのであろう。
なので、俺も派遣玉をかざした。ビル爆発の時間まで、あと23分って所だな。さっさと、終わらしてやるぜ。さて、最終決戦を始めるとするか……。




