第32章 モンゴの過去
俺は夢の中で、両親が死んだ事を思い出していた。
おそらく、6歳くらいの頃である。
よくある年末やゴールデンウィークに、必ず起きる高速道路の交通事故のパターンだ。
それは高速道路にトラックが突っ込んで、多数の死人が出た巻き添え事故である。これは死者が14人も出ており、日本の交通事故でも最悪の事件であった。これは、車同士の衝突が多すぎた為、救急車が現場に来るのが遅かったの原因である。その為に死傷者が多かったのだ。
当時のニュースでは誰の責任か揉めていた。トラック業界では、下請けに委託する場合がほとんどである。多重構造で下請けから、孫請け、ひ孫請け・・・酷い時は7次下請けまであるのだ。
その結果、責任の押し付け合いをしている間に、世間は事件を忘れていったのである。しかし、これは加害者の狙いだったのである。
そして、加害者の狙い通り、1年後にはニュースで流れることもなくなった。最後は5次下請けの会社が、責任を取って幕を閉じた。しかし、この事件の黒幕はブラックカンパニーだった。
俺も知ったのは最近の事であった。
しかし、当時は自分がその事故に巻き込まれるとは思わなかった。
俺の乗っていた車は大破して、運転席の親父は即死だった。母親は俺を庇うようにして、抱きしめていてくれた。
当時の光景が目に浮かんだ。
父ちゃんはフロントガラスから、体が飛び出して頭を打って即死だった。
僕と母ちゃんは変形した車の中に閉じ込められていた。
不安な僕は母ちゃんに聞いた。
「ねえ、父ちゃんは死んじゃったの?」
「バカね、父ちゃんは寝ているだけだよ。ちょっと、運転で疲れちゃっただけだよ。」
目の前の母ちゃんは頭から血を流していた。それよりも酷いのは、サイドブレーキが肋骨のあたりに突き刺さっていた。
僕は心配する。
「母ちゃん、お腹から血が出ているよ。痛い?」
「全然痛くないよ。だって、モンゴがいるからね。」
そう言って、ニッコリと笑った。
僕は足を車に挟まれていて、1歩も動けなかった。だが、母ちゃんだけなら車から出れそうであった。しかし、僕のそばにいる事をやめなかった。
その理由は追突事故の衝撃から、僕を守る為であったらしい。
この時、母ちゃんが先に外に出てれば助かったかもしれない。
「母ちゃん、早く逃げなよ。僕は大丈夫だからさ・・・。」
「うん、母ちゃんは強いから大丈夫だよ。ありがと、モンゴ。」
だが、腹から血がドクドクと出ていた。
父ちゃんはパイロットになるのが夢だった。理由は自由に空を飛ぶのが好きだったらしい。だから、スーパーマンが好きだった。家族で何回もDVDを見させられた。
僕を持ち上げて、よくスーパーマンごっこをしてくれた。
こんな時に空を飛べたら、母ちゃんを助けられたかもしれない。だが、僕は足が挟まり、動けずに母ちゃんが弱っていくのを見ているだけだった。
それから、20分が経ったのである。
母ちゃんが強く抱きしめてきた。
「ずっと、モンゴと一緒にいたかったけどね。これから先は守ってあげられなくて、ゴメンね。母ちゃん・・・情けなくてゴメンね・・・本当に・・・」
僕はブルブルと震える母ちゃんを励ました。
「僕がスーパーマンみたいに強くなるから安心してよ。」
「ふふふ、母ちゃんと・・・父ちゃんの子だもんね・・・」
「空を飛んで、病院に連れていってあげるよ。だから、死ななないで母ちゃん・・・」
すると、母ちゃんは最後にニッコリ笑った。
「あり・・・がとね・・・モン・・・ゴ。生きて・・・約束して・・・」
「うん、約束するよ。」
それから、僕は死んだ母ちゃんとずっと車内にいた。
その1時間後に救出されたのだ。
救急ヘリコプターが、先に動いていれば助かってかもしれない。それは結果論でしかないかもしれない。でも、当時の僕は何も出来なかった。
これは夢だと分かるが、いつも頬を濡らしてしまうのである。
俺は弱かったガキの頃は嫌いなのだ。いつかは、俺も空を飛べるような強い男になりたい。いや、飛んでやるぜ・・・絶対に・・・。
ふと、チュートとモモ姉の顔が浮かんだ。もう、俺は家族を誰も死なせないと心に誓った。




