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第26章 モンゴ VS 六木

派遣玉の玉の部分が堀の頭頂部にめり込む。堀が声をあげる。

「ごはっ……」


堀がバタンという音と共に前に倒れると、俺は床に忍者のようなポーズで着地した。どうやら、堀は気絶をしたようだ。


六木は少し驚いた顔をしたが、すぐに取り乱す事なく声をかけて来た。

「おまえ、ギゾクーズだろ? 豊臣会長から聞いているぜ。だけど、こんな華奢奴だとは思わなかったぜ。結局、正体は何者なんだよ?」

「けっ、誰でもいいだろ。分かっているのはさぁ、お前の敵って事だよ」

「ふっ、正義の味方きどりか? 気持ち悪いんだよ。そういうのさ……」

「ブラック企業の方が、宗教みたいで気持ち悪いぜ。過労死とかさ……」


六木は顔に手を当てて笑う。

「ハハハハハ。でもさ、働いている全員が過労死している訳じゃないし、弱くて死ぬ奴が一番悪くねえ? だって、嫌なら辞めればいいだけだろ」

そう言うと、六木は金庫の方へ歩きはじめた。そして、金庫のダイヤルを押して、扉を開けると何かを取り出した。


俺に茶色のA3封筒を出して見せる。

「お前らの目的の残業データと隠し口座だ。俺に勝ったら持って行けよ。これが目的なんだろ? 豊臣会長から、ギゾクーズが来たら勝負しろだとさ。俺に勝ったら、これを持っていけだとよ。まあ、勝てないんだけどな」

そう言うと、金庫の上に証拠の封筒を置く。


どういうことだ? 罠なのか?偽物のデータか? それとも、豊臣がココに来るのを予想していたのか?

いや、そうなら兵隊をもっと集めているはずだ。


正直な話、豊臣の狙いがよく分からない。まあ、今は六木を倒す事だ。そして、残業データと隠し口座を持ち帰るのが任務だ。推論はあとでやればいい。俺はニヤニヤして余裕をかます。


理由は相手を怒らして、ペースを狂わせるためだ。

「ハハハハ、面白いな」

「何がだよ?」

「テメーの顔に決まっているんだろ、ボケ」

「このガキぃー」


六木は軽いフットワークで、左ジャブを連続して打ってきた。俺は動体視力には自信があるので、パンチを見切って素早くを左右へ避ける。だが、元プロだけあって相当に速いパンチだ。


いずれ当たっちまうぜ。それに、ここは狭すぎるので避けられる場所に限りがある。これは不利だと判断して、広いキッチンの方へ逃げ込む事にした。俺はジャンプして横の壁を蹴って、素早く六木の頭を超える。そして、キッチンに続く奥の扉へ逃げ込む。


六木は声を荒げる。

「てめえ、逃げる気かよ。コソ泥ヤロー」


俺はキッチンの奥の壁まで走って逃げた。そして、六木がキッチンに入る瞬間を狙う事にした。キッチンの右側は冷蔵庫がギッチリ並んでおり、左側は台所があって調理場になっている。


また、台所の上には注文口が広がっており、店内の様子が一望できるようだ。ここも8Fと同じ作りだな。ココなら広くて、俺も動きやすい。数秒後に六木も後を追ってきて、休憩室の扉から顔を出す。


その距離は8メートル位だろう。そこで、俺は六木の顔面を目がけて、派遣玉を振りかざす。ワイヤーで出来た糸の部分が伸びて、先端についている鉄製の玉が六木の顔面を狙う。しかし、六木は屈んで避けてしまう。玉の部分は壁にゴツンとぶつかり、跳ね返り床に落ちる。


六木は驚く。

「うおっ、危ねぇえー。けん玉か? ふざけた武器を使いやがってよ」

クソっ、あれを避けやがった。さすがに反射神経いいな、面倒な相手になりそうだ。派遣玉を振りかざすと糸が伸びて、伸縮ボタンを押すと糸がメジャーのように元の場所に戻る。


俺は伸縮ボタンを押す。伸縮音と共に玉が、けん先という元の位置に戻ったのである。さて、どうやってコイツを倒すかな? でも考えている暇はなさそうだ。六木は俺に向かって走ってきたのだから……。


あっという間に、俺の目の前まで移動してきた。俺の顔に目がけて、六木の右ストレートが飛んでくる。目で右手をしっかりと追う。


速いが見えない速度ではない、モモ姉の抜刀術に比べたら遅いくらいだ。俺はタイミングを見て、六木の右ストレートを派遣玉の中皿で受ける。


ゴキッという、六木の右手の指が折れる音がした。やったぜ、余裕だった六木の顔が歪んだのであった。

よし、あとは派遣玉を頭頂部に、振り落として気絶させるだけだ。人間は頭頂部に、強い衝撃を受けると気絶する事が多いのだ。先ほどの堀もそうやって倒した技である。


俺は派遣玉を上まで振り上げて、一気に六木の頭頂部を目がけて振り下そうとした。しかし、俺の判断は甘かったのである。六木は指が折れた位では怯まなかったのであった。俺の派遣玉を振り下すより、六木は素早く左フックを右顎に打ち込んできたのである。


その結果、派遣玉は勢いで、すっぽ抜けて、休憩室の扉前まで飛んで行ってしまい武器を失った。

そして、何よりも右顎に電撃が走ったような衝撃が走る。

「あがっ……」


スゲー痛いし、口の中に血が溜まっているのが分かった。何よりも、膝がガクガクとして立っていられないのである。いわゆる、脳が揺れている状態である。俺は膝を付いて屈んでしまう。これがプロのパンチ力か……。


六木は俺を見下ろす。

「顎を殴られるとよ、脳が揺れて立てなくなるんだよ。勉強になったろ?」

「はあはあ、うるせえよ」

しかし、六木は右拳の状態を確認する。


中皿の部分を殴ってしまったのでダメージを受けているのだろう。

「ハハハ、痛かったぜ。こりゃ、右手の指が折れているな」

「フヘヘヘ、ざまあ見ろよ……バーカ」


ヤバイ、余裕ぶっている場合じゃないぜ。足は動かないし、派遣玉は遠くへ飛んでいって武器がない状態だ。もう、これって終わりだろ、ついに正体がバレたな。六木は右手を顔に近づけてきた。

「終わりだな、テメーのムカツク顔を拝ましてもらうぜ」

「くっ……」


しかし、その右手は正体を暴くことはなかった。休憩室の扉から、放たれた小判が阻止したのであったからである。


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