表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

第8章 モンゴは友達を作らない。

ふと、校門の方をよく見ると、モモ姉とチューコが手を振っていた。あれ、モモ姉来ていたのかよ。いつもと同じバーテンダーみたいなファッションだ。


おそらく、喫茶店の仕事の合間に来たのであろう。他の保護者が着飾っているので違和感が凄い。俺は2人の元まで移動した。


すると、モモ姉が声を掛けてきた。

「よっ、モンゴ、優しい、優しい、優しい師匠が来てやったぞ」

何回、優しいっていうねん。まったく、モモ姉のギャグはつまらない。


俺はぶっきらぼうに答えた。

「別に来なくもいいよ。俺は大丈夫だしさ」

「おいおい、勘違いするなよ、チューコの為に来たんだよ。入学式に3人で写真撮りたいってさ。チューコってば可愛い事言うよな」

「へいへい。分かった、分かったよ」

女って写真好きだよな。俺には理解できない行動原理だ。


そして、3人で記念写真を撮った。すると、モモ姉は帰ろうとした。

「じゃあ、私も帰るわ。2人ともクラスメイトと飯でも食べに行くんだろ?

へへっ、友達を沢山作れよ。学校行くのが楽しくなるぞ」


チューコは返事を照れながら返す。

「えへへ、女子のグループに誘われちゃいましたよ。友達を一杯作るのが楽しみです。1年A組でファミレスを貸し切りにするみたいです。わくわく」

うげー、想像しただけで、胃に穴が開きそうだぜ。行っても気を使われるし、行かないと噂されるだろう。


だって、自己紹介を失敗したダブりだもん、そんな事を知らないモモ姉はニコニコしながら、財布から1万円札を出してチューコに渡す。

「ほーら、小遣いだよ。友達と楽しんできな」

「わーい。モモ姉さん、ありがとう」

それから、俺にも1万円を渡して来た。だが、俺は受け取らない。


モモ姉は首をかしげる。

「どうした? モンゴも友達を作りに行くんだろ?」

「いや、俺は誘われてないぜ。そもそも、友達なんかいらねーし」

これは本音だ。昔死んだ友人の事を思いだしたからだ。


しかし、モモ姉が頭を抱えて説教を始める。

「おいおい、誘われてなくても、自分から行くものなんだよ」


俺は参加する気分ではない。モモ姉はさっきの教室の雰囲気を知らないから言えるのだ。あの死にたくなるような恥ずかしさを経験して、クラスメイトと仲良くなれる気がしない(笑)。


これはふざけた理由だが、本当は友達というキーワードがトラウマを蘇らせていたのである。


俺は声を少し荒げる。

「明日から仲良くするよ、それでいいだろ、今日は色々あったんだよ」

「いや、今日行けよ。明日だと入りづらいだろ。手遅れになるぞ」

「別にいいだろ。俺の勝手だろ。それに部活で用があるんだよ。じゃあな」

「何だよ、その態度はさぁ……」


険悪な空気がその場を支配して、チューコも悲しそう顔でオロオロと困惑している。俺は2人を無視して、再び校舎の方へ歩きはじめた。新聞部のルリに会いに行って、ギゾクーズの調査内容の確認するためだ。


新入生の挨拶で、ギゾクーズを調査していると言っていた。成績優秀な新聞部のエースのルリだ。油断はできないぜ。そうだ、ルリがギゾクーズの正体に気づいた可能性だってあるのだ。でも、それは嘘であった。本音は人を関わるのが怖いのだ。


去年の夏、俺はギゾクーズとして、ブラック企業の悪人を潰した。しかし、その悪人はクラスメイトの友達の父親だったのである。父親は悪人ではあったが、友達は父親の悪事は知らなかったのである。


そして、父親は逮捕されて一家は離散してしまった。クラスメイトは犯罪者の息子の彼を冷たく扱うようになった。いわゆるイジメである。物を隠されたり、ネットに悪口を書き込んだりと陰湿だった。


それでも、俺は明るく声をかけていたが、彼は学校を休む回数が増えていったのである。それはそうだ、クラスに仲間が一人しかいないのは辛すぎる。人間は見下され続けると、心が壊れていくものだ。俺もモモ姉と会うまではそうだった。


そして、居場所がなくなった友達は暴走族に入り、毎日のようにバイクで走り回っていた。ある日、バイクでカーブを曲がり切れずに事故死してしまう。俺がブラック企業を潰さなければ友達も死ななかった。何が義賊だ……クソッ。そう、俺が友達を殺した。


モモ姉が、俺の手首を握って止めようとする。普段の澄ました顔でなく、真剣な眼差しで喋る。

「待て、待てって、モンゴ。いじわるで言っている訳じゃないよ。私には学校生活がなかった。ずっと暗殺任務の毎日だったし、友達なんていなかったよ。だから、2人には学校生活で思い出を作って楽しんでもらいたいだけだ」


これはモモ姉の本音だろう、たしか、以前は政府の暗殺組織にいたらしい。今はギゾクーズだけど、それでも任務には絶対服従するタイプだ。


だから、俺は聞く。

「それは任務命令か、それとも師匠としての命令か?」

「違うよ、ギゾクーズも師匠も関係ない。お前らの家族として言っているのさ。2人には学生生活を楽しんでほしいよ。だから、姉として心配しているのさ」

「楽しむ? 俺が人殺しでもか? もう、あんな思いしたくねえしな……」


モモ姉はハッとした顔つきになる。

「おい、バイク事故の友達の件を引きずっているのか? お前は何も悪くないだろ?」

悪くないだって? まったく、モモ姉もいい加減だぜ。


俺は怒り声を出して反論した。

「けどさ、死んだ友達に罪はなかったよ。父親は悪人でもさ……。そもそも、あいつと友達じゃなければ気にもしなかったよ……。今回のクラスメイトにそういう奴がいたらどうするよ? 迷う心が出たら、任務に支障が出るだろ。だったら、最初から仲良くならないほうがいいだろ? それにさ、ギゾクーズの行動って、本当に人の命を助けているのかよ。罪もなくて、関係ない奴が死んでいるんだぜ」


モモ姉は俺の腕から、手を放して悲しそうに呟く。

「モンゴ……ごめん」

「もういいだろ、ちょっと部室に顔を出して帰るよ。明日からうまくやるよ、じゃあな。チューコは楽しんでこいよ」


モモ姉もそれ以上は何も言わなかった。俺は正直に悩んでいたのである。ブラック企業で生計を立てている家族だっているのが現実だ。そのブラック企業を潰す事により、家族がバラバラになる人間だっているのだ。


世の中の何が正義なのか、誰が味方なのか敵なのかよく分からない。だが、生きている人間は自分が正義だと思って生きているのだろう。だから、戦争が絶えない世界なのだ。


俺は校舎に向かってゆっくり歩く、入口に入る前に振り返り2人を見た。チューコは泣いているように見えて、それをモモ姉が慰めているようだった。俺はバカな男だ。そして、自分が嫌いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ