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千載の星  作者: もけ太郎
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千里の見張り兵

予想だにしない行動、確かにいるのに居場所のわからないもの、は人にとって恐ろしいものです。

彼はそれを想定内に収めようとしているようです。

私は幼いころから常になにかを監視していないと気が済まなかった。

というのも、目を離した隙に予想だにしない動きをされたり、視界から消えられたりすることが極端に不安を煽るのだ。

あるとき家の中で大蜘蛛を取り逃がしたときなど、錯乱するあまり気を失い、冷や水をかけるまで起きなかったという。

何者も見逃さないようひたすらに眼を鍛えた私は辺境の荘園の見張り塔主任という任務に就き、千里先のネズミをも見据える千里眼として名声を得た。


名声を得てもなお、私には野望があった。

死角を失くしたい、陰の中を見たい。

人の目には到底できないことで、全てを見渡す神でもなければ手に入れられない才覚だ。

狩人の神に祈り、目に効く薬効のある草花を摂った。

目を覆いその先を見通す修行も行ったが、ついぞ暗いまま布は見透かせなかった。

何年もかけてきたが、やる事なす事すべては水の泡だった。

しょせん人族風情にはできないことだと、あきらめかけていた。


あるときたどり着いた旧い町で、“千載の星”のことを知った。

奇妙な修道院の老人が言うには、幾日かすれば星の見える日がくるらしい。

その日のうちに修道院の鐘楼を借り、そこで星の出る日まで待つことにした。

食事を摂ることさえ忘れ、骸のごとく三日三晩空を仰いでいた。

三日目、朧げな月が真上に昇ったころ、ようやく探し求めた星が輝きだした。

床から身を起こし、立ち上がってまっすぐ星を見つめる。

そして眼を見張り、こう願った。

“遍くすべてを見通す眼を授けよ”


意識を研ぎ澄ませると、階下で老人が経典を開いているのが見える。

どこかの街で歩く人が見える。

見知らぬ木陰から飛び立つ鳥が見える。

すべて、見渡せる。

なにもかも視える。

願いは、叶ったのだ。

…しかし、どうにも落ち着かない。

視られているのだ。

老人が、人が、鳥が、私を視ている。

ふらふらと鐘楼を降り、修道院を出て小道に出てなお、私の心は視線に苛まれていた。

見るな、視るな。

視ないでくれ。

お願いだ、放っておいてくれ。

そう願っても、星はもう連峰の向こう側に消えていた。

こんな言葉がありましたね。

“深淵を覗くとき、また覗かれていると知れ”

すべてを見通せるようになった彼は、そのすべてから見通される感覚に耐えられないことでしょう。

陰にあるものは、視なくとも良いからそこにあるのです。

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