恋人たち
叶わぬ恋を捨てきれない二人の男女。
かの星輝く夜に彼らは何を願うでしょう。
彼女と僕とでは、釣り合わない恋だと、周りのみんなは言う。
貴賎結婚など、お互いの血族に因縁を残すだけだとも。
何度周りの目が無ければと思っただろう。
何度血筋を呪っただろう。
ならば血統を捨て去ればいいじゃないか。
ピッタリと仕立てられた絹の上着を脱ぎ捨て、使用人が着ていた黄ばんだボロ切れを身に纏った。
髪に指を突っ込んでくしゃくしゃにする。
鏡台には通りの物乞いのような僕が映っている。
薄暮の中をわざとらしくふらふらと中庭に出ると、衛兵が駆けつけてきて僕を塀の外につまみ出した。
これで僕の血統は関係なくなった。
暗い森の中をとぼとぼ歩き、彼女の家がある街に向かう。
僕のみすぼらしい格好は街の中でも注目の的になり、道行く人々の心ない罵詈を浴びた。
彼女はいつもこんな仕打ちを受けているのだろうか。
そう考えると胸が痛んだ。
彼女の家の戸を開け、髪をかきあげて顔を見せると彼女は驚き、涙を流して喜んでくれた。
ろうそく一つの薄暗闇の中抱きしめ合い、
「ずっと一緒だよ」
と囁いた。
「永遠にふたりでいられる方法を見つけたの」
と彼女はうれしそうに言ってきた。
彼女が言うには、今宵は千年に一度だけ見ることができる星を目にできるまさにその日で、その星は強く願ったものの望みを叶えるらしい。
また彼女の血統は代々続く魔術の使い手で、僕の血を使い、魔導書に従うことで強い力を発揮できるということ。
僕の血と彼女の魔術で星に願えば、どんな夢だって叶うということ。
そんな話を逃すわけにはいかない。
僕たちはすぐに準備を始めた。
軽く手首を切りつけて血を流し、それをもってお互いの手の平に紋様を描いた。
これが願う力を強めてくれるらしい。
万全の態勢で臨むため、使われなくなった廃教会を訪れた。
埃まみれの説教台に二人で登り、破れた屋根から覗く夜空を見つめた。
深く息を吸い込み、調子を合わせて呟いた。
「…千載の星よ、いまこそ我らが望みを叶えたまえ」
手を握り、そして心から強く、強く願った。
“僕たちを永遠に一緒にしてくれ”
“私たちがいつまでも共にいられるように”
風が壁を揺らし、砂が節穴から吹き込む。
静かなままだった。
待てど暮らせど、何も起きない。
神などいないのか、と思った。
やはりおとぎ話にすぎないのかと。
異変に気付いたのはそのときだった。
僕と彼女の手の境が曖昧になっている。
腕がつながり、肩が触れ、彼女の心が手に取るようにわかる。
“ようやく、一緒になれる”
“ああ、長かった”
僕たちを隔てていた何かが崩れていく。
二人の人が合わさり一人になってゆく。
僕は、
私は、
あなたと、いっしょに。
血統の違いと人としての垣根を超えて、彼らはひとつになれたようです。
今でも廃教会からは、男のものとも女のものともとれる不思議で幸せそうな笑い声が聞こえるとか。