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太陽の魔女  作者: 重山ローマ
第一章 太陽の欠片編
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構造変化 ②

 

 赤い線が走る。

 散々彼女に仕組まれた反射的反応だ。


「そう、それでいい」


 腕にできた赤い線は、ほんの少しの血を零している。

 意識せずとも、自分の体を変化させ身を守る技術――どうしてこのような魔法が使えるのか僕は知らないが、お姉さんは答えを得ているらしく、しかし僕に教えてくれることはない。


 どうも今回は、この《変化》に関わることのようだ。


「あなたの左膝よ。幼いころ、あなたは思いっきり転けて、無意識のうちに体を治癒した。皮膚を抉った小石なんかを全て飲み込んで、皮膚だけを治癒したこと、覚えているでしょう。あなたの母親はそのことに気がついて、石だけでも取り出そうとしたみたいだけれど、目に見えないほどの細かいものまでは取り除けなかった。ほんの少し、あなたの膝が汚れて見えるのはそのせいね」

「別にコンプレックスってわけじゃないけど、原因がわかると安心するもんだね」

 心のどこかで、気にしていたのかもしれない。

「あなたは自己再生ができる。皮膚も、自分の魔力で再生してきた。あなたの他の部分にある皮膚を真似て作っている」

「そんなつもりはないけど……」

「そんなつもりになりなさいよ」


 言っていることがむちゃくちゃだ。


「無茶苦茶でも構わないわ。現に、あなたのこの皮膚は、石のような硬さに強化されている。刃物の傷はついてしまうけれど、切り裂かれることはない」

「体の中に取り込んだ石を再現しているって? そんな馬鹿な。そもそもお姉さんは言ったじゃないか。僕の魔法は《細胞の活性》だって。とても同じ魔法とは――」

「同じ魔法だと思わなければ、あなたは石のように皮膚を硬化させることができなくなるわよ。大事なのは派生させること。枝を伸ばすこと。可能性を折ってしまえば、あなたの力はそこで止まる」


 いま僕は、どのように腕を硬化したのだろう。

 体の中にある小石が原因として、僕はどういうプロセスで、この力を手に入れているのだろう。


 当然できるものだという思い込みのおかげで、僕はいままでできていただけなのだ。

 傷口がヒリヒリと痛む。

 彼女の言う通り、僕が『違う』と思ってしまったおかげで、硬化が解けてしまったようである。


 しかし、これまでできていたことが、もうできなくなるなんてあるはずがない。


「体の中にある小石をイメージしなさい」


 カッターナイフで、母親が涙を流しながら、僕の膝を裂いた光景を思い出す。

 痛くはなかった。

 母親に何をされても、僕は痛いと思わない。


 まだ膝の中には、小石が残されている。

 母は全てを取り除いたつもりだった。

 きっと、苦しくて仕方なかっただろう。

 子供の足を切るなんて、とても正気ではいられない。


「それは、もうあなたの細胞よ。あなたの体の中にあるものは、あなた自身の細胞のみ」

「わかったよ。やっぱり僕は、自分の細胞を活性させ、再現していたんだね」


 赤い線が消えていく。

 皮膚が再現できるのだ。

 次の段階に進まなくては。


 肘から指先にかけて、固まっていくことがわかった。

 ただ、石のように硬くするわけではない。

 もう僕は理解した。

 いまなら僕は、腕を石のように皮膚を硬くするのではなく、石そのものにすることだって可能だ。


「上等。成長したわね」


 目を開けると、灰色の腕が飛び込んできた。

 試しに机を叩いてみると、人の骨とぶつかる音とは違い、硬いものとぶつかった音が聞こえる。


「さて、もう理解できたわね」

「本気ですか」

「本気を出す必要があるのはあなたの方よ。これからあなたの皮膚を裂いて、ここにある鉱石や宝石を埋め込む。反射的に体を守ろうとしてしまうだろうけれど、それを我慢して。傷を治すのも、全てが終わってからよ」


 一度されたことを思い出す。

 あの時も、僕はただ我慢していたのだったな。


「全てを再現するのは不可能かもしれないけれど、可能性はあったほうがいいでしょう」


 ひとつひとつ、お姉さんは説明してから体に埋め込んだ。

 痛みはあるが、必要な痛みだ。

 ハサミの先をへし折り、包丁の柄に付けられた装飾も外し、それは全て、僕の足に飲み込まれていく。


「もういいわよ」


 傷口を塞いでいく。

 異物感は残されたままだが、次第に慣れるだろう。

 自分の細胞だと認識するには、少し時間が必要かもしれない。


「これから家に戻ってからすることを、先に説明しておくわ。今埋め込んだものをすぐに再現しろと言ってもできないでしょうし、石でいいわ。親指の爪を石にして」

「爪だけを?」


 お姉さんの頷きを見て、爪を石に変化させた。

 少し気を使わなくてはいけないが、腕全てを石にするよりは時間がかからない。

 試しに撫でてみると、確かに、ざらざらとした感触だ。

 うまくいっているようである。


「次は、その石の外側だけを爪にして」

「戻すのか?」

「外側だけって言ったでしょ」


 意識する。

 とは言っても、簡単にできそうにない。

 爪は爪だ。

 皮膚とは違う。

 皮膚は、肉を覆うものとしてイメージしやすいが、爪と言われて思い浮かぶのは爪だけだ。

 外側と言われても、爪の外側って一体何なんだ。


「固いのよ頭が。肉まんが爪。あんまんが今やろうとしていることよ。外側は同じで、中身は違う。そういうイメージよ」


 あんまんと肉まんは皮が違うんじゃないかと思えば、きっと頭を叩かれてしまうに違いない。

 一発と思っていたが、二発叩かれてしまった。


 しかし、彼女の言ってことのおかげで、多少イメージはしやすくなった。

 外側だけだ。

 中身は石のまま。


「これをどうするんだ」

「宝石で同じことをするのよ。いまやらせたのはただの練習。これからすることを話すって言ったでしょ。爪を宝石にできるようになるまで、石で練習をしてもらうから、暇があったら自己練習よ。わかった?」

「う、うん」


 爪を宝石にしたところで、どうするのだろう。


 まさか、と僕は彼女の横顔を見上げた。

 いま石になっている爪を切り離せば、爪は石のままだ。

 つまり、爪を宝石にすることができるようになれば――。


「ぼろ儲けね」


 お金に困ってないくせに、まだ彼女は、お金を集める気なのだろか


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