魔女との出会い ①
風に吹き飛ばされて、灯篭はアスファルトを転がった。
かよわい少女ならともかく、その肉の足が浮くとなれば、かなりの風圧である。
自分が何をしていたのかが思い出せないようだ。
ただ逃げていただけなのに、彼は足が浮いて転がったというだけで、それほど混乱してしまっていたのである。
目の前に落ちていた石を見て、灯篭はやっと思い出した。
白竜から逃げているのだ。
すぐそこまでやってきている――それはつまり、長年彼と共に生きてきた高崎を排除されてしまったことを意味する。
悲しむことはしない。
彼の最期を、哀れんだりはしない。
灯篭はまた走り出す。
ここで死ぬわけにはいかないのだ。
手に握っているものを渡せば助かるだろう――そうだとしても、灯篭にはできなかった。
高崎の死を無駄にするようだったからだ。
なにより、ここで生き延び、彼が命を張ったに相応しい男にならなければならないのである。
「がっ!」
角を曲がったまではよかったが、その先にいた歩行者とぶつかってしまう。
慣れない運動ということもあり、軽くぶつかっただけでまた転んでしまった灯篭は、薄っすら開けた瞳で、欠片に手を伸ばした。
当たりどころがわるかったのか、ヒリヒリと痛む額に意識が引っ張られるようだ。
灯篭は歯を食いしばり――。
「これを、どこで拾いましたか」
先に伸びてきた指に、欠片を拾われてしまう。
すぐに顔をあげた灯篭は、奪われてしまうのではと手を伸ばした。
ひょいと、灯篭は体を起こされる。
呆然とする灯篭の手のひらに、欠片を置いた少年の顔は、はっきりと見ていないまでも確かな自信があった。
「た、助けてくれ!」
やはり生きていた。
灯篭が探していた少年は、微笑みで答えるのだった。




