熱き思いを ①
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これまで二人で逃げてきた。
もちろん僕はただの足手まといで、そもそも僕は、あさひの姉という存在に操られていたのだという。
いつから操られていたのかなんて、どれだけ思い返してもわからないけれど、でも心の中の感情だけは、ずっと僕が抱いてきたものだ。
僕はずっと臆病で、死を恐れてきた。
これからもずっと、何があったとしても変わりはしないだろう。
「木葉くん……っ!」
「痛い」
穴が空いた体が、力を失い倒れていく。
死の痛みは、経験として体に戻ってきた。
死にたくはない。
けれど、僕はもっとそれ以上に。
「あさひを死なせたくはないんだ」
濁った泥に、光が差し込んでいくようだった。
ただひとつだけ沈んでいたものが、ふわりと浮き上がって崩れ始めている。
「邪魔をっ!」
崩れ落ちる古びた装飾品に目も向けず、彼女は次の魔法を展開した。
僕には展開された魔法にどんな効果があるのかなんてわからない。
わかっているのは、当たれば痛いだろうという、そんな誰でもわかるようなことだけだ。
「うっ」
避けることは簡単じゃないけれど、当たりに行くことにだけは簡単だ。
狙いはあさひなのだから、僕はただあさひの前に立つだけでいい。
「やめてっ」
殺された瞬間に起きる強制的な選択は、痛みがそのまま、もう一方に流れ込む。
次々と射出される光弾を、僕は全て体で受け止めた。
その度に戻ってくる経験は、透き通り始めてきた泥の心を、また黒ずんだものに引き戻そうとしている。
「邪魔をしないで!」
止むことのない猛撃に、しかし崩れていく装飾品を知っている僕は、限界を待つことしかできなかった。
全ての装飾品が壊れたらきっと、この攻撃は止むのだ。
でも、このままでは体が持たないことは明確だった。
我慢比べに勝機はない。
いまの分岐は、あさひの前に立ち攻撃を受け止めることと、何もせず見守るというふたつ。
動かすとすれば、見守っている方だ。
「あさひ! 僕が守るから!」
収束が二つになっていることに気がつかないまま、僕は走り出していた。
何も変わっていない。
魔法がわかったとしても、ただの人間ではなくなったのだとしても、その判断は素人のものであるということには変わりがないのだから。
射出された赤と黄の光弾は、全くの同時に、二つの体を打ち抜いた。




