初めて ①
5
僕にあった疑問は、彼女がいったい何者なのかということ、あの白いローブが何者なのかということ、なぜ二人が戦っていたのかということ。
そして、どうして白いローブが僕を襲い、彼女が守ってくれたのかということだ。
どれだけ考えても、僕に答えがでるはずがない。
「魔法は見られるわけにはいかないの。見られたらその人間は殺すというのが決まりよ。現実にあなたが知らなかったように、魔法という存在を架空のままにするためにね」
「そうか」
納得せざるを得ない。
見てしまったものはどうしようもないのだ。
「君も僕を殺すのか?」
「そんなことしないってば」
無邪気に笑う姿に安堵した。
思えばこの短時間に、彼女のあらゆる表情を見たような気がする。
「君は魔法使いで、あいつも魔法使いなんだね」
「私は魔女。あいつは魔法士ね」
「魔法使いと魔法士は違うのか?」
僕には魔女も魔法使いも全部同じなようにしか思えないが、彼女が言い分けるということはやはり明確な違いがあるということなのだろう。
「その話をする前に、改めてお願いしたいの」
辺りを見渡し安全を確認してから言う彼女の姿は、今もまだ安心できる状況ではないのだと気を引き締めさせた。
真似をするわけではないが、自分の認識できるものを見渡して、異常がないことを確認してから頷く。
「あなたが襲われたのは私のせい。きっとあなたは追われ続けることになるわ。でも、それは今晩だけ。日が昇るまでよ。だからそれまでは、私に守らせて欲しい」
守ってくれるのはありがたい話だ。
死の可能性は極めて僅かなものになるだろう。
なんて臆病な男だ。
でも僕は変わらないだろう。
彼女がなんらかの責任を感じて守ってくれるのだから。
つまり、僕からは何もする必要がないのだから。
「明日の朝まで君と一緒にいるよ。僕は君と行くよ」
死にたくないから。
「僕の名前は――」
守ってもらうのだ。
ならば、と僕は名を告げようと口を開いた。
ところが彼女は慌てたように僕の口を塞ぎ、口元で指を立てる。
「魔女に名前を言っちゃいけないわ。魔女は人から奪ったもので力を得るの。奪われたら戻ってこないから、私にはあなたの名前を教えないで」
そんな忠告をしてくれる彼女に教えてはいけないというのが納得できなかった。
「あと、もしあの白兎っていう魔法士と向かい合うことになっても、決して納得しちゃいけないってことを忘れないで」
いや、きっとそんなことはないだろうけれど、彼女の言うことはしっかり覚えておいたほうがいいのだと思う。
どうして彼女は信頼できるのか。
それは勘のようなものでしかない。
もしかしたら彼女がすごく魅力的だから、そんなことを思っているのかもしれない。
「僕は魔女じゃないよ」
僕が突然に言った言葉に彼女は首を傾けた。
そんなことは知っていると、彼女は思っているのかもしれない。
しかし、しばらくして納得したように「なるほど」と呟くと、腕を組んでしばらく考え込んだ。
「太陽、って呼んで」
君にぴったりだと言ってやりたかったけれど、僕にそんな度胸はなかった。
こんなところでも、僕はやはり臆病なのだ。